神奈川新聞社はこのほど、過去50年間にわたって開催してきた「神奈川新聞文芸コンクール」をリニューアルし、新たに「神奈川文芸賞」を創設した。応募資格を県外在住者にも広げ、25歳以下を対象にした「U―25部門」も設ける。神奈川新聞社統合編集局文化部の太田有紀氏は、「神奈川にはもともと『文学』を近くに感じる土壌がある」として、リニューアルを機に「幅広い世代に物語を創造する楽しさを知ってもらい、文芸創作の裾野を広げていきたい」と話している。【増田朋】
「神奈川文芸賞」の初回は、今年4月1日から6月末まで作品を受け付ける。部門は「短編小説」「現代詩」で、審査員はそれぞれ小説家の朝井リョウさんと、立教大学教授で詩人の蜂飼耳さんが務める。
また、2部門に加えて25歳以下を対象とした「U―25部門」を新設する。小説を書くトレーニングとしても用いられる「三題噺」形式で創作に取り組んでもらう。今回は「ランドマーク」「海」「翼」を題材に使った青春小説を募集する。同部門は本紙読者らが審査する。
選考結果は来年1月上旬に本紙とホームページで発表する。賞の開催は隔年を予定している。各部門の応募要項など詳細は、公式ホームページで確認できる。
神奈川から「文芸創作の裾野広げたい」
今回のリニューアルについて、太田氏は「より幅広い世代に参加してもらうこと、神奈川新聞らしさを高めることが理由」と説明する。
前身のコンクールで培った実績をもとに、若年層の参加が増えるよう「U―25部門」を新設。オンラインを使って広く情報発信ができるよう公式ホームページも立ち上げた。短編小説と現代詩は創作の題材として「神奈川」を使うことが条件。応募資格は県内在住・在勤・在学者だったが、「居住地不問」とした。
また、太田氏は「小説投稿サイトや文学フリマなど、若年層のあいだには気軽に文芸創作を楽しむ文化が広がってきている。県内の大学にヒアリングしたら、文芸創作に真剣に取り組む学生が増えており、今後はそのクオリティを高めることが課題という話だった」と、「U―25部門」を設けた狙いを語る。
「神奈川文芸賞」を通して、「幅広い世代に物語を創造する楽しさを知ってもらい、文芸創作の裾野を広げていきたい」と考える。「もともと神奈川県内には、明治の文豪たちが逗留した老舗旅館などが多く残り、各地の文学館が独自の工夫をこらして展示を行うなど、『文学』を近くに感じる土壌がある」と太田氏。
県内在住の作家も多く、近年は県内で青春時代を過ごした遠野遙さん、宇佐見りんさん、砂川文次さんが相次いで芥川賞を受賞していることも大きいという。
「この流れを後押しし、神奈川が『文芸王国』と呼ばれるようになれば、地元の文化・経済にも資すると考えている。事業展開の面では、地元の教育機関、文学関連施設、書店などとも連携し、神奈川の活字文化の活性化につなげたい」と意気込んでいる。