雑穀研究の第一人者
英明企画編集(京都市・松下貴弘社長)から、民族植物学者・阪本寧男氏の自伝的エッセイ『京都の里山を駆けぬけて アルキニスト/民族植物学者の哲学と軌跡』(阪本寧男/物集女くらぶ)が刊行され、事前予約の段階から好調な動きを見せている。
民族植物学の権威、阪本氏は、京都大学農学部農林生物学科を卒業後、国立遺伝学研究所で研究員として勤務。その後、京都大学農学部や、龍谷大学国際文化学部の教授を歴任。ミネソタ州立大学への留学、国際稲研究所(比)勤務も経験した。国内外のフィールドワークや研究を通じて雑穀の起源と伝播、その食文化の解明に貢献し、多くの論文、著作を残している。
同書は、阪本氏が京都大学農学部附属植物生殖質研究施設(当時)勤務時の教え子らが「先生のユーモラスで自由なエピソード、天邪鬼で独特な話や言葉に秘められた哲学を多くの人に知ってほしい」とエッセイ集の制作を発起。阪本氏の後任として同施設に赴任した寺内良平教授を中心に7人が意思を同じく、本づくりのために集まった。
7人全員が現役の研究者。植物生殖質研究施設(現・京都大学農学研究科栽培植物起源学分野)がある物集女地域(向日市)にちなみ「物集女くらぶ」と命名し、約2年をかけて完成した。
「学問」、「読み物」ダブル展開も可能
阪本氏が綴った記録から、育った京都・東山の自然とのふれあい、学生時代の思い出、国立遺伝学研究所での仕事、アメリカ留学、フィリピンでの調査など71編を収録。英明企画編集・松下社長は作品について、「自然を愛し、自然を楽しみ、また学び続けようという人に示唆と勇気を与えてくれるエッセイ」と称する。
地元京都を中心に関西の書店からの注文が多いというが、松下社長は「関東、東北地方からも一定の注文があり、驚いている」と話す。書店に向けて「京都の書店では、植物関係のコーナーで展開している店が多いが、子どもの頃の虫取りや魚釣り、栗採りの話など里山での体験談は、団塊の世代以上の郷愁を誘う。読み物、エッセイなどと両面での展開も面白いのでは」と推奨している。【堀雅視】