【本屋月評】未来とは始める人である(NUMABOOKS・内沼晋太郎)

2022年2月24日

 「これからの本屋講座」という講座を主催している。必ずしも従来の新刊書店や古書店という枠組みにとらわれずに、広義の〈「本」を扱う人=「本屋」〉を始めようという人に向けた講座だ。2014年から19年末まで継続的に開催していたが、そこから2年以上間を空けて、22年1月に第13期を開講した。

 

 2年強の間が空いてしまったのは、言うまでもなく感染症の影響だ。自分の経営する店が大きな打撃を受け暗中模索の状態にあるとき、果たしてそもそも自分が講師に相応しいのだろうかという自問が、ずっと開催を躊躇させていた。

 

『これからの本屋読本』(NHK出版)

 

 ただその間も、新しくオープンした書店の記事や雑誌の本屋特集などで、自分の講座や著書『これからの本屋読本』(NHK出版)の名前を挙げてくださる方を多く見かけた。そんな中でちょうど、発売から3年半が経過したその本が増刷し、5刷になったという報を受けたことが後押しした。むしろこのような状況下だからこそ、自分の経験をシェアするべきだと考え、再開を決意した。応募を開始すると、かつてないスピードで定員が埋まった。

 

 これだけ書店が閉店しているのに本屋を教える講座だなんて、素人を騙して商売するのもいい加減にしろ、というような揶揄は、これまでもさんざん聞こえてきた。だいぶ誤解をされているようだが、自分は最初にとにかくその厳しさを、本を売って家賃や人件費を出すということの現実をちゃんと伝える。そのうえで、それでもやりたいという人に、なぜやりたいのかを掘り下げてもらい、できる限り続けていくための方法を一緒に考える。

 

 必ずしも本を売ることだけで生計を立てなくてもいい。どんな商いも、どんな営みも、それが成り立つあり方は多様で、個別だ。だから自分の講座を受け、その後に開業した人はみな、厳しさは重々承知のうえで、それでも始めた人たちだ。そういう講座だ。

 

 本屋に興味を持つ人たちに向かって、本屋なんて斜陽産業だ、やめておけ、という人がいる。その人自身、本屋であったりすることも多い。けれどそれでは未来、もしあなたの店が潰れたら、いったい誰が本を売るというのか。Amazonが売ればそれでいいというなら、それも一つの答えだろう。

 

 自分はそうは思わないので、これからも臆面もなく「本屋を増やしたい」と言い続ける。未来とは、始める人である。倒れても何度でも立ち上がる人である。そんな人たちと一緒に、次のやり方、続け方を考えたいと思う。

 

 

バックナンバー:本屋月評(内沼晋太郎)
第1回(2月3日掲載)本の魅力を照らす道具
▼第2回(2月24日掲載)未来とは始める人である
▼第3回(3月25日掲載)日記のお祭りを開催します
▼第4回(4月22日掲載)こんにちは、freee出版です

 

 

内沼 晋太郎(うちぬま・しんたろう)

 1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、株式会社バリューブックス取締役、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、下北沢のまちづくり会社である株式会社散歩社の取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。

 

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