【特集 児童書の電子化動向】図書館流通センター(TRC) 紙と電子両方の増売に取り組む 公共図書館での電子図書館導入が拡大

2022年3月2日

TRC・細川社長

 

――電子図書館サービスを始める公共図書館が増えているそうですね。

 

 コロナ禍のここ2年、図書館の非来館型サービスとして注目されています。「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」の活用事例として「図書館パワーアップ事業」が明示されたこともあり、電子図書館の導入が飛躍的に進んでいます。

 

 当社は電子図書館サービスを10年ほど提供してきましたが、一昨年までで100に満たなかった採用自治体が、今年2月2日時点で247自治体に伸びています。検討している自治体も含めると相当数に上り、インフラ化しつつあります。

 

 いま当社が運営する図書館545館をはじめとして、そのほかの導入舘の協力も得てデータを蓄積しており、これから実際の利用状況を実証していきます。

 

――導入館では実際に利用されているのでしょうか。

 

 最初はもの珍しさもあって利用は伸びますが、使い続けられるかどうかは、利用できるコンテンツが増えるかどうかにかかっています。

 

 コンテンツの提供は著者、出版社の許諾なくしては進みません。そのためには、電子化されたコンテンツがどう活用され、出版社や著者にとっての利益、どう電子と紙両方の増売に結び付くかという点を明示していく必要があると考えています。

 

 児童書の電子化については、不正コピーや、ディスプレイの発色や表現の問題などで、著者や出版社のなかには懸念を持たれる方々もいらっしゃいます。それらをどうクリアするのかという課題はあるものの、親御さんが電子版でその作品の存在を知って、子どものために有益だと思えば紙の本を買い与えるでしょう。

 

 ただ、出版社が過去の本を電子化しようとすると、著者から改めて許諾をいただくなど苦労すると伺っています。当社としても電子版の利用がイメージしやすいように、図書館で対象書籍の展示コーナーを作るなど、テーマを決めて銘柄指定でコンテンツの提供をお願いするようにしています。

 

 また、当社のビジネスも紙の本をお届けするためのロジスティクスであり、紙、電子両方で販売努力していかなければ成り立ちません。電子に力を入れているように見えるかもしれませんが、紙
の本の販売にも全力で取り組んでいます。

 

――出版社にとっての図書館の役割を改めて教えてください。

 

 昨年末に出版社をお訪ねした折に、日本児童図書出版協会の岡本光晴会長(あかね書房社長)が、公共図書館は本をプロモーションする場だと、お話しされていました。

 

 私もその考えには全く同感です。図書館の最大の魅力は過去に出版されたものが何十年にもわたり蓄積され、整理されていてすぐに取り出せることだと思います。しかし、これまでは、図書館でも書店さんが新刊を店頭に並べるのと同じように、競争するがごとく、新刊を何冊も揃えて貸し出すようなことがありましたが、その考え方を変えていくべきではないかと思います。

 

 当社としても図書館を運営する側として、こうしたことがクローズアップされるような企画をたくさん出して、図書館で実践していきたいと考えています。

 

 例えば、すでに市場に存在しない本が図書館にあることによって利用者の目に留まり、読んで感動し、SNSで紹介したらバズった、というようなことがあれば出版社にとっても再販売のチャンスが生まれ、図書館と出版社の良きスパイラルになるのではないかと感じます。

 

 そのようにして、図書館が出版社からは長期的な媒体として認知され、利用者からは過去の本に出合う機会を提供する場という認識になってくれると、図書館を利用する人口にも変化が現れるのではないかとも思います。

 

――図書館での電子書籍提供は教育の電子化とも関連しますか。

 

 「GIGAスクール構想」へのご提案として、「学校図書館をもっと活用しましょう」という施策を考えています。

 

 授業中に使う資料は電子が優れている面もあります。例えば、授業中に「水俣病」という言葉が出てきたとき、そのことだけを調べるには電子が便利ですが、「公害」という括りで他の事例などを含めて詳しく知るために、先生が関連する学校図書館の蔵書を紹介することができれば、通読性の高い紙の本のメリットを活かせます。このような形で、学校図書館は本来の目的を達成することができるでしょう。

 

 その手段の一つとして、当社が学校図書館向けに提供する「TOOLi―S」があります。教科書の単元から調べ学習用の本につながるデータベースで、全国の小中高校3万校のうちID数は9000件に達しています。

 

 現状は発注や管理など事務的に使われているケースが多いようですが、教科書と連動した検索機能、授業にマッチした選書をする機能が生かされるよう、我々もアッピールしていく必要があると考えています。

 

――ありがとうございました。

 

富士山MSと電子雑誌配信サービス

4月から「TRC―DLマガジン」開始予定

 

 株式会社図書館流通センター(TRC)と株式会社富士山マガジンサービスは今年4月、TRCの電子図書館プラットフォーム「LibrariE&TRC―DL」を経由して、電子雑誌コンテンツを利用できる「TRC―DLマガジン」の開始を予定している。

 

 サービス内容は、▽電子雑誌タイトル固定のパッケージ提供、読み放題(100タイトル以上の配信を予定)▽図書館内外から閲覧可能(最新号は、図書館内のみ閲覧が可能)▽閲覧期間は週刊誌1年以上、その他月刊誌等3年以上を予定▽図書館利用者は「LibrariE&TRC―DL」にログイン後、閲覧可能▽富士山マガジンサービスの雑誌記事全文検索システム「マガサーチ」を利用した検索機能の提供。

 

 「LibrariE&TRC―DL」導入図書館は、同時アクセス数20までの「スタンダード」(年間使用料60万円)と、50までの「プレミアム」(同120万円)のいずれかを選択できる。

 

株式会社図書館流通センター(TRC)

 

代表者:代表取締役社長 細川博史
所在地:〒112–8632 東京都文京区大塚3-1-1
設立日:1979 年12月20日
資本金:266,050,000円
問い合わせ:電話03–3943–2221(代表)

 

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