昨年創立100周年を迎えた、学習参考書「シグマベスト」で知られる文英堂は、2019年に光和コンピューターの出版ERPシステムを導入し、データ集計のスピードや在庫管理の精度が向上したほか、印税支払いにも役立っているが、社員がシステムの考え方に触れた効果も大きいとみている。
【本紙増刊B.B.B3月号掲載】
戦後、教育出版に特化
同社は1921年に創業者益井俊二氏が焼失勤務先の出版社から独立して大阪で創業。当初は自動車やラジオなど当時の最先端技術を紹介する出版物を刊行していた。その後、太平洋戦争中に空襲で社屋が焼失し京都に移転。戦後はいまの益井英郎社長の祖父にあたる2代目・益井欽一氏が戦争から復員し、京都で出版事業を再開した。
この時、「敗戦日本を立て直すには教育こそが大事」という理念のもと、学習参考書や教科書などの教育出版に特化していくことになった。
1952年には東京出張所を神田神保町に開設。1964年には新宿区岩戸町に東京支社文英堂ビルを建設。1998年に益井英博氏が3代目社長に就任し、2009年に現在の地上11階、地下1階の文英堂ビルに建て替えた。
同社は主要教科(英語、数学、国語、社会、理科)について小・中・高校生向けに、書店販売品と学校採用品を提供する。また、検定教科書も手掛けるなど、扱う領域の広さが特徴だ。昨年は中学校の学習指導要領改訂があった影響で新刊が多く、年間で129点を刊行した。
新システムでデータ共有可能に
以前利用していたシステムは、大手電子メーカーの汎用機を利用して構築したもので、堅牢ではあったものの老朽化が進んだことで、光和コンピューターの販売管理、出版VAN、印税・支払管理、資材・原価管理のシステムを導入した。
「以前のシステムでは営業担当が受注実績を知るのが1週間後という状態で、注文を取りに行った先で『もう注文した』と言われたこともありました。そんな時に先にお礼を言えるようになりたかった」と益井社長。
現在はこうしたデータは即時共有できるようになり、物流管理と受注センター機能を持つ関連会社にも同じシステムを導入することで、付属品が多い採用品も含めて、在庫のデータと現物の数量がズレることもなくなった。
また、同社は実売印税方式をとっているが、以前のシステムでは正確な実売数がわからなかったため、発行部数をもとに印税支払いを行い、絶版時に精算をしていた。いまは書店のPOSデータやネット書店の販売データも取り込むため、著者に1冊単位で実売数を示して支払うことも可能になった。
教育デジタル化にも対応
さらに、システム導入の効果として益井社長は「直接的ではありませんが、社内でシステムの考え方が広がるきっかけにもなりました。当時、システム導入を推進した事業管理部・大塚真実リーダーは苦労しましたが、このタイミングでやらなければ教育のデジタル化などにも対応できなかったと思います」と話す。
急速に進む教育のデジタル化への対応については、「デジタル化は学校や家庭などによって環境もまちまちですが、どういう環境でも学べる機会を提供する。品質が担保されたものを作り続けることが大切」だと考えている。
株式会社文英堂
代表者:益井英郎
創 業:1921年
資本金:8400万円
従業員:61名(2021年12月現在)
所在地:〒162-0832東京都新宿区岩戸町17
電 話:03-3269-4231(代表)