「日記屋 月日」という店をはじめて、もうすぐ2年になる。東京・下北沢の「BONUS TRACK」にある、日記の専門店だ。いわゆる日記本を、新刊と古書の両方で集めて販売しているほか、個人が発行する日記のリトルプレスも豊富に扱っている。ほか、日記帳などの文具やオリジナルの雑貨を少々扱いながら、遊歩道に面した立地を生かしてコーヒースタンドとしても営業している。また「日記屋 月日会」という、日記好きが集まるオンラインコミュニティも運営している。
なにより自分が、日記が好きだった。もっとその面白さが知られるべきだと思った。多くはないが、自分と近しい気持ちを持った人が確実にいるということも、徐々にわかってきた。ならば広めて、集める拠点となる店があるといい。どうしたら成り立つか、やり方を考え抜いてオープンした。
いいなと思う店や、変わった業態の店を目にしたとき、つい真っ先に「この店はどのように経営が成り立っているのか」を想像してしまう。本紙の読者にも同じ癖のある方はいるだろうと思うが、果たして当店をどう思われるだろうか。
ただでさえ儲からない本屋の中でも、だいぶマイナーな専門書店だ。やはりコーヒースタンドとしての売上が大きいのではないか。店に訪れたことがなくても、自分ならばそう考えるし、そこまでは正解だ。けれど、本の中で売上構成比が一番高いものが何かは、あなたの直感と違うかもしれない。
実はそれは、手前の壁の一面を埋めている新刊でも、左奥を埋めている古書でもなく、その奥の階段下の机と正面の壁に並ぶ、個人が発行しているリトルプレスだ。
数十部しか作られない本も多い。当店で並んでいる本を見たお客さんが後日、自分の日記を本にして持ち込んでくれることもあり、最近ではそのようなことが起こりやすいように、少しずつ促す工夫をしている。
店の認知度が上がってくると、当店に訪れて初めて日記に興味を持った人も、他ではなかなか買えない本として、リトルプレスを選んで買っていくようになった。いまでは、人気の本は10冊単位で何度も繰り返し発注するほどの規模になっている。
この2022年4月10日(日)、はじめての「日記祭」を「BONUS TRACK」で開催する。主役はそうした個人の作り手だ。ブース出店を中心に、トークイベントなども行う。
「日記」と「祭」は静と動、不似合いにも思えるかもしれないが、本稿を読んで、この「日記シーン」の現在、その静かな盛り上がりが気になってきた方には、ぜひ直接足を運び、確かめていただければと思う。
▼第2回(2月24日掲載)未来とは始める人である
▼第3回(3月25日掲載)日記のお祭りを開催します
▼第4回(4月22日掲載)こんにちは、freee出版です
内沼 晋太郎(うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。NUMABOOKS代表、ブック・コーディネーター。新刊書店「本屋B&B」共同経営者、株式会社バリューブックス取締役、「八戸ブックセンター」ディレクター、「日記屋 月日」店主として、本にかかわる様々な仕事に従事。また、下北沢のまちづくり会社である株式会社散歩社の取締役もつとめる。著書に『これからの本屋読本』(NHK出版)などがある。現在、東京・下北沢と長野・御代田の二拠点生活。
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