ホーム社は、2015年に刊行した『ウクライナ日記 国民的作家が綴った祖国激動の155日』(発行=ホーム社/発売=集英社)を、4月19日出来で重版した。
同書は、『ペンギンの憂鬱』などで知られるウクライナ人作家のアンドレイ・クルコフ氏による、13年にウクライナで起きた「マイダン革命」当時の記録と考察を綴ったドキュメント。
22年2月から始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。それにつながる両国対立の原点であり、今回の戦争の背景を知るための貴重な資料として、日本経済新聞のコラム「春秋」などで同書が取り上げられたことで話題になった。
3月初頭から注文や問い合わせ件数が増えたことから、同社は二刷目の重版を決定した。重版分の新オビには、過去にウクライナを訪れ、チェルノブイリ原発を視察した経験のある浅田次郎氏が、新たにコメントを寄稿している。また、重版に際して、本文は当時のままで、訳者の吉岡ゆき氏によって、訳註箇所を現在の情報に更新している。
日本の読者に届けたい一冊
著者のクルコフ氏は、かつて日本文化や日本語を学んだ経験があり、同書刊行後の15年には来日したことがあるなど、日本との縁も深い。また、戦争が始まった後の3月16日には朝日新聞へ寄稿も行なっており、現在も世界各国に向けてメッセージを発信している。
同書の編集を担当した同社文芸図書編集部の今村優太副編集長は、クルコフ氏の来日時に対面し、交流したこともあるという。
今回の重版については「このような形で注目が集まるのは残念なことでもある。重版するかどうかは、社内でもとても悩んだ」と振り返る。
その上で、「当初は戦争が早期に終結し、注文も在庫分でまかなえればいいとも考えていた。しかし、戦争が長期化し、書店や読者からの問い合わせも増え続けるなかで、他人事ではなく、現実で起きていることが何なのか、ロシアとウクライナ両国を知るために、本書を多くの読者に届けなければいけないと思い、今回の重版に踏み切った」と語る。
同社営業企画部も「店頭で『ペンギンの憂鬱』と併売したいという書店員もいて、書店に並ぶことがまずは一番大事だと考える」とし、同書について「文体も小説に近く、作家ならではのユーモラスな描写もあるので読みやすい一冊。現地での生活が克明に記録されており、読むことで当事者意識も芽生えるので、是非一度手に取ってみてほしい」と話す。
同社は今後、大きな販促等は行わないが、自社HPにクルコフ氏本人による寄稿掲載を予定している。また、クルコフ氏は来月、国際PENのアメリカ大会に登壇する予定だという。【野中琢規】
ライブ配信URL(海外サイト)
https://www.eventbrite.com/e/livestream-the-arthur-miller-freedom-to-write-lecture-andrey-kurkov-tickets-313515612637
□四六判上製/312㌻/定価2640円