三省堂書店は5月8日、東京都千代田区神田神保町にある本社・本店ビルを立て替えのため一時閉店した。当日の閉店後、午後8時半すぎから正面入口で行われたセレモニーで、三省堂書店の亀井崇雄社長があいさつ。「(建て替えは)本にしおりをはさむのと同じように、また物語を再開するために必要なステップだ。第二の創業のつもりで、次世代の新しい書店を目指す挑戦をすることを決意した」と語った。
三省堂書店は1881(明治14)年、現在の東京都千代田区神田神保町で創業。神田大火、関東大震災での二度の全焼を乗り越え、創業100年目となる1981(昭和56)年に現在の本社・本店ビルを竣工した。2007(平成19)年に店舗名を神田本店から今の神保町本店に変更した。一時閉店の間、6月1日から千代田区神田小川町2-5(元・ヴィクトリアゴルフ御茶ノ水店ビル)の仮店舗で営業を続ける。新店舗は2025年開業予定。
一時閉店となる8日は、最後まで本を買う客たちが行列を作った。店内に設置された神保町本店名物の「タワー積み」や、「いったん、しおりを挟みます」と書かれた巨大なしおりを掲出した本社・本店ビルを写真におさめる人たちであふれた。
閉店後のセレモニーで、神保町本店の杉本佳文店長と亀井社長があいさつ。最後に、従業員らとともに頭を下げながらシャッターを下ろすと、店の前に集まった数百人の客からたくさんの拍手が送られた。両氏のあいさつ要旨は次の通り。
神保町本店・杉本店長あいさつ
昨年9月に当ビル建て替えと神保町本店の一時閉店の案内をさせていただいたが、その後これまでご来店いただいたお客さま、お取引先の皆さまから大変あたたかい言葉をたくさんいただいた。店内に設置したメッセージボードにも多くの言葉を寄せていただき、従業員の励みになった。6月1日から仮店舗での営業を再開すべく準備を進めている。引き続き、三省堂書店をよろしくお願いします。
三省堂書店・亀井社長あいさつ
本日をもって当社の神保町本店は一時閉店させていただく。しかし、これはあくまでも一つの区切りだと考えている。本にしおりをはさむのと同じように、また物語を再開するために必要なステップだ。私たちはこの時代の大転換期に、第二の創業のつもりで次世代の新しい書店を目指す挑戦をすることを決意した。三省堂書店の第二章に期待していただきたい。
この神保町本店は1981年の竣工以来、約41年ぶりに建て替えを実施する。長年ご愛顧いただいたお客さま、お店を支援いただいたお取引さま、お店の運営に携わった従業員スタッフほか、皆さまの思い出のつまったこの神保町本店が本の街・神保町1丁目から姿を消すというこの現実は、多くの皆さまに大変ご迷惑をかけることになるが、新しい時代に合わせて変化を遂げるために必要なことだと、ご理解いただきたい。
この建て替えは何年もかけて計画してきたが、くしくも世の中を一変させることになったコロナ禍とタイミングが重なってしまった。この間、感染者数の増加とともに、これまでご来店いただいていたお客さまが、なかなかご来店できない状況も長く続き、かつて経験したことのない長く、深い混迷の時を迎えている。お客さまの買い物に対する価値観も、生活様式も変化し、さらに情報伝達技術も発達した中で、私たちのような大型書店の存在意義も揺らいでいるのかもしれない。
しかし、私たちは本がもたらす情報の質こそ、お客さまの発展に最も貢献すると信じている。本とふれあう時間が豊かで素晴らしいものだと信じている。ここ神保町はそんな本をつくり、流通させ、売るという一連の出版文化が集積された街だ。そして、本を愛するお客さまが多数お集まりいただく街だ。そんな神保町で引き続き、お客さまと本が出会う演出の仕事を継続していきたい、お客さまの期待に応え続けたいという思いのもと、私たちは現状維持よりも挑戦することを選んだ。
約3年後、この地に全く新しい神保町本店を誕生させる。これからの時代に私たち書店が世の中にどういった貢献ができるのか、改めて模索し続けて、お客さまにご提案できるような形にしていきたい。そのビルが竣工したとき、世の中がどう変わっているか想像もつかないが、どうか次世代型の三省堂書店神保町本店にご期待いただきたい。その間、小川町にかまえる仮店舗で変わらぬご愛顧を、また三省堂書店は他の店舗、外商も引き続き元気に営業しているので、合わせてご愛顧をお願い申し上げます。