東京ニュース通信社が主催する第40回「向田邦子賞」の受賞者に「よるドラ『恋せぬふたり』」(NHK総合)の作者・吉田恵里香さんが選ばれ、5月24日に東京都内で贈賞式が開かれた。
同賞は、故・向田邦子さんがテレビドラマの脚本家として、数々の作品を世に送り出し活躍してきた功績を讃え、現在のテレビ界を支える優秀な脚本作家に贈られる賞として、1982年に制定された。
贈呈式で、選考委員を代表し、池端俊策氏があいさつ。昨年4月1日から今年3月31日までに放送されたテレビドラマの脚本のうち、最終候補となったのは2作だったと明かした。もう1作は安達奈緒子さんの『おかえりモネ』(NHK連続テレビ小説)で、「どちらも甲乙つけがたい」と評価された。
「恋せぬふたり」は、他者に恋愛感情を抱かない(アロマンティック)・性的に他者に惹かれない(アセクシュアル)の女性が、同様の男性と同居し、心の安定を得るまでを極めて低い声で、しかも明るいトーンで描いている。セリフも適確で無駄を排している。周囲の人物達との関わりも自然な弾みがあり、物語に和らかな日常性を与えていることなどが評価された。
吉田さんはまず、「向田邦子さんの名前がついた賞をいただいたことは非常に光栄。自分ひとりでとったのではなく、支えてくれた家族をはじめ、キャスト・スタッフなど作品に関わった人、関わった人を支えている人々の全員でとったもの」と謝意を表した。
そして、アロマンティック・アセクシュアルについて多くの人に認知してもらえたことを喜ぶ一方で、性的マイノリティの人をドラマの中で消費してしまうことへの危惧も口にした。そうした危険性はあるものの、吉田さんとしては「今後も、持続的に正しい知識をもって、マイノリティの問題にも向き合い、生きづらさを感じている人に希望を与えられる作品を生み出すべく、ベストを尽くしたい」と述べた。
受賞を祝い、NHKの林理恵専務理事は、国内だけでなく国際放送を通じて海外からの反響も大きかったことを紹介。「違いを認め合い、リスペクトする多様性の時代ならではのテーマ、視線をもって描く作品を、世に送り出せたことは制作者としても光栄で、意義のあること」と結んだ。
また、本作を担当したNHKの制作統括・尾崎裕和氏は、制作過程での吉田さんの姿勢を紹介。「アロマンティック・アセクシュアルについて知り、理解し、描きたいという思いから、吉田さんはアセクシュアルの当事者である人々や、考証を務める専門家の人たちに、いろいろな話を聞きながら執筆していった」といい、「中には、一度は書き上げた台本を彼らの話を聞いた後に、一から書き直したこともあった」と明かした。
主人公を演じた岸井ゆきのさんがビデオメッセージでお祝いを伝えたほか、会場には俳優の濱正悟さん、北香那さんが登壇。3人ともこの作品への出演によって、自身が演じた人物とともに、自分自身も成長できたと語り、ぜひまた吉田さんの作品に出演したいと希望を伝えていた。
さらに前回、「モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~」(テレビ朝日)で受賞した橋部敦子さんも登壇。前回はコロナ禍のため贈賞式が開催されなかったことから、今回併せての紹介となった。橋部さんは吉田さんとこの日が初対面だったといい、「これからもお互い頑張りましょう」とエールを送り合う場面も。心温まる交流で式は幕を閉じた。