【共同受発注サイト特集2022】とうこう・あい/開発協力:トランスビュー 書店向けオンライン発注システム「BookCellar」

2022年6月21日

 1948(昭和23)年に専門書の広告代理店として始まった、とうこう・あい。出版広告の実績を基に、現在は広告事業(出版広告、一般広告)、システム事業(出版社向けホームページ作成・管理システム「HONDANA」、書店向けオンライン発注システム「BookCellar」、電子書籍販売システム「YONDEMILL」)、そしてメディア事業(雑誌『クイック・ジャパン』のWeb版「クイック・ジャパン ウェブ」、書評・読者コミュニティサイト「本が好き!」)を行っている。

 

 

 

 BookCellar(以後:ブックセラー)のWebディレクター原田央氏と開発に協力したトランスビュー工藤秀之社長にお話を伺った。

 

 ブックセラーについて、原田Webディレクターは「本を売りたいお店と出版社を繋ぐサービス」と端的に表現。ブックセラーのアカウントを作成した書店はサイトから商品を発注し、その情報を管理画面で見ることができる、というのが基本的な機能だ。これまでFAXによる発注ではどの出版社にどの書籍を何冊発注したか、という情報が分かりづらかったが、ブックセラーでは注文の履歴が管理画面からまとめて確認できるようになった。 書店と出版社をダイレクトに繋ぐ取引代行システムを展開しているトランスビュー、新刊書の取次を行っている八木書店と連携することで、出版社約750社への発注を可能とした。

 

BookCellarサービスモデル

 

 また、とうこう・あい、トランスビュー、八木書店、3社の長年の実績による書店との繋がりもあり、現在は全国の中小書店約3800店が利用している。トランスビューに流通・販売を委託している芸術・人文・文芸ジャンルの出版社の取り扱いが多いため、他の類似サービスに比べてそれらのジャンルの売れ行きは群を抜いているという。

 

スマホを意識した操作性

 

 ブックセラーの利用者、特に書店ユーザーは約半数がスマホからアクセスしているという。そのため、スマホでの操作のしやすさを重視しレスポンシブ対応を基軸においている。スマホとPCでは見ることのできる情報量がまったく違うということを意識しながら、開発を進めた。

 

 

 

出版社トップページ

商品詳細ぺージからカートに入れて発注する

 

 注文は指定のフォームに書誌情報やISBNコードを入力するのではなく、商品ページからカートに入れる、Amazonや楽天など一般的なECサイトのUIを意識。これは極端な話だが、PCの場合キーボードを使った入力の必要はなく、発注予定の商品リストを見ながらクリックするだけで、発注作業を終えることも可能だ。

 

 スムーズに使えることは、大きな利点であることは間違いない。だがそのために、利用している書店ユーザーから「スムーズ過ぎて逆に印象に残らない」と言われたこともあるそう。「ほめられているのか、ほめられていないのか、よくわかりませんね」と原田氏は笑う。

 

 だが、意識せずに使えるということは、それだけシステムがシンプルかつ完成度が高いということだろう。実際、先程の発言があった書店の場合は、それまで通してきた発注のルーティンもあり、ブックセラーを紹介した際には利用に消極的だったという。しかし試しに使ってもらったところ、そのまま使い続けるようになり、そのような反応が。「そういう方は非常に多いですよ」と、トランスビューの工藤氏も自然に使えるツールとして手ごたえを感じている。

 

出版社との直取引だけでない書店ユーザーの利便性

 

 ブックセラーを利用した取り引きは、書店と出版社の直取引だけではなく、トランスビュー扱い、八木書店などの取次扱いを使い分けられることもポイント。また、書店からすると発注後の商品の流れを把握することが難しかったが、ブックセラーでは出版社が設定した注文ステータスによって商品の流れが見えるようになった。また、書店は複数登録した番線を選択して発注することができる。ただ、それが書店ユーザーにとってわかりやすいものになっているのか。その点は「改善の余地がある」と工藤氏は率直に明かす。

 

 ブックセラーの立ち上げから、とうこう・あいに業務内容を開示して開発協力してきたというトランスビュー。当然ながらサービス開始当初はトランスビュー扱いの出版社が多く、そのため現在でもトランスビュー専用サイトという印象をもっている人も多いそうだ。そのイメージを払拭し複数の発注ルートを使用できることを浸透させていくには、もう少し時間がかかるようだ。

 

 今後は「この書店がこの出版社の本を注文する時は、この注文ルートがデフォルト」であるとシステム側で判断できるようにするという。そうなれば、発注作業も必要な商品をどんどんカートに入れて注文を済ませるだけ。

 

 工藤氏いわく、注文ルートが多様化してきていることは書店の側でも苦慮する部分ではないだろうか。そこを自動処理によってサポートすることは、書店ユーザーにとって大きなメリットとなると考えているそうだ。

 

 さらに、一旦デフォルトとしたルートだけに固定する必要もない。書店は商品単位で注文ルートを変更できるため、柔軟な利用が可能。同じ出版社の商品を発注するにしても、時と場合によって「今回は八木書店扱いに交ぜてもらおう」「今回はトランスビュー扱いにしよう」と注文ルートを変えたいというニーズはあるはずだ。

 

 原田氏も「保存機能といいますか、『前回はここで頼んだから、今回もそうですよね?』というサジェストをすることは当然」だという。「どこに」「何を」「どういうルートで」頼むのか、わかりやすくする。そうして「いかに注文だけに集中してもらうか」という方向性で書店ユーザーの利便性を高め、さまざまな使い方を提示していきたい、としている。

 

 加えて、現在はトランスビューが流通業務を請け負っている出版社で表示している在庫情報も、さらに拡大していく予定だ。在庫はあるのか、いつ出荷するのか、納期と在庫の情報をその都度電話で問い合わせなくてもブックセラーで確認できることは、書店ユーザーにとって重要。さらに重版予定や、旧版は在庫切れだが新装版は在庫がある、返品の未改装品で良ければ出荷できる、といった詳細情報も、表示スペースは既に準備済み。今後情報のアップロードさえ進めば、すべての商品ですぐに対応可能だ。

 

 注文画面で、全ての出版社の取引条件を確認できる。直接取引の場合はこういう条件、取次ルートの場合は八木書店経由でこういう条件、と表示されるので、大手の取次に口座のない書店であっても仕入れることのできる書籍、出版社を把握できる。それが「小売店開業支援にもなって、良い動き」になるという期待にも繋がるだろう。

 

参加出版社一覧表示画面

 

 しかし、検討すべき点もまだある。まず、このサービスはあくまで発注についてのものであり、それ以外の、例えば発注された書籍の発送や代金の請求を行うといった業務についてはサービスの範囲外だ。そうしたオフラインの部分のフォローをさらにスムーズに行うかは今後の改善が待たれる。

 

 もうひとつは、サイトの見やすさ、商品の探しやすさについて。取り扱う出版社が増えることは、もちろんサービスとしては望ましいこと。しかし商品点数の増加によって、どこに何があるかわかりづらくなってしまうことも事実だ。

 

 現に、サービス開始当初からのユーザーには「探しにくくなった」と指摘されたという。それはブックセラーでも重く受け止めており、「変えていかないとお客様が求めているサービスと乖離してしまうので、優先して取り組まないといけない」と原田氏も考えているそうだ。

 

省力化・コスト削減 出版社ユーザーの利便性

 

 一方の出版社ユーザーは利用申請の後に、書誌情報やISBNコードを新たに入力する必要はない。ブックセラー側でオープンデータベースから書誌データを取り込むので、その手間がかからないわけだ。もちろん、情報を書き換えることも可能なので必要に応じて手を加えれば良い。

 

 また、工藤氏が「非常に便利」と太鼓判を押すのが代理入力だ。例えば、ファックスやDMなど従来の方法で新刊の案内をした場合、注文も電話やファックスで来ることが多い。それをブックセラーが全部集約し、「〇〇書店からの注文が×冊あった」と管理画面に蓄積される。

 

 書店ユーザーにとっても、何度も新刊案内を目にするため「この本の発注は済んでいたかな?」と混乱してしまう、ということはままあるだろう。それを過去に遡って、いつ注文したか、その注文は処理されたか、画面で確認できるメリットは大きい。

 

注文履歴を表示可能

 

  実際、工藤氏自身も書店から「いつ注文したか」という問い合わせを受けることが多いそう。この時は電話で注文した、その時はWebで注文した、とその都度どの手段をとっても構わないことがポイント。そのすべてが、ブックセラーに記載される。

 

 もちろん電話での問い合わせにはブックセラーで確認した情報を伝えるが、その際ブックセラーにログインすれば情報を見られると教えると、以降は書店側で確認してくれるようになるという。出版社あるいは取次からの商品出荷後、送り状の番号もブックセラーに記載できるので、荷物の追跡にも対応できる。

 

 電話やファックスでの注文がWeb経由になることは出版社サイドにとっての利便性も高い。出版社は取次搬入日や重版予定をブックセラー経由で伝えることができる。これまで対応に労力をさいていた部分が、書店側がシステム入力することで不要になるのだから。例えば100件あった注文の内3分の1、30件あまりを手入力していたとすれば、かなりのコスト削減になるわけだ。「コツコツと利便性を上げていくことが大切」と工藤氏が語ったのは、こういう部分にある。

 

 さらに、出版社サイドにとっては、ブックセラーは直取引に限定しないことも注目したい点ではないだろうか。直取引に限定することなく、「書店と出版社がそれぞれのやり方で結びつくような注文をしてもらえれば良い」と原田氏も話す。出版社にとってはこれまでリーチできなかった独立系書店や小規模書店、新規書店、書店以外の小売店と取引できるようになるというメリットがある。

 

 ちなみに、取次でブックセラーを利用している部署もあるという。EC系の部署で、オンラインで発注できないような出版社と、これまでは電話やファックスで発注していた取り引きを置き換えているのだ。電話口で20~30冊の書名とそれぞれについての在庫のあり・なしをひとつずつ確認していたこともあるというから、それがWebへの入力でやりとりできるようになった意義は、非常に大きいだろう。

 

月額料金プランへの展望それに足るシステムとして

 

 「理想的には、書店ユーザーがお金を払って良いと思うサイトにする」ことだと、原田氏は話す。

 

 ブックセラーでは、基本的な機能は書店も出版社も無料で使用できることをベースに、いずれ月額料金などの体制をとり、それに足るシステムとして維持していきたい、とする。これまでかかっていた発注業務や情報収集の労務が低減した分を、システムに支払ってもらうことは十分成立するだろう。さらに各書店からの注文内容を集約し分析する機能も加えていきたいという。

 

 そのために7月以降、短冊機能とプロモーション機能を順次用意していく。受注した情報を取次や自社倉庫に流す際に使用する短冊(縦長の用紙に著者・タイトル等の情報を記載した物)を、サイトからボタンひとつクリックすることで発行。よりスピーディーに、簡単に物流に乗せることができる。

 

 またプロモーション機能は、ブックセラー内に設定した広告掲載枠に広告を出稿する機能。ここへの掲載を有料にすることでアップセルを見込んでいる。

 

魅力的なプラットフォームを目指して

 

 書店・出版社双方の負担を考えると、受発注は共同サイトに集約していった方がお互いに便利で、労力もかからなくなっていくだろう。ブックセラーは全国の個人書店、中小の書店とは既に相当の繋がりをもっている。今後は大手書店との繋がりの中で、どのようにブックセラーを導入していってもらうかが課題だという。

 

 これまでの発注をすべてブックセラーに切り替えることは求めないが、他のルートとの折り合いをつけること、大手書店の注文数の多さに対応していくことなど、今後の対応を考えていかなくてはならない面も多い。

 

 しかし、利用してくれる出版社が増えていくことは大手書店にとっても魅力的なプラットフォームになることになるはずだと感じているという。「ブックセラーを使えば全ての出版社の商品が取り寄せられるようにしていきたい。基本的なビジネスモデルは出版社への課金であり、業務効率化を図るツールとしてだけでなく書店向けのPRの場としてブックセラーを提供していく」と原田氏は語った。

 

 また、準備段階であるとして具体的な内容は明かされなかったが、今後外部サービスとの提携も検討しているという。ブックセラーで本を探し、探し出した本をそのまま発注する。「書店にとって、独自性を出せる品揃えをする為にブックセラーを利用してみようと思ってもらえるようにしていきたい」、とする。

 

 工藤氏も、書店・出版社共「お互いに『ブックセラーという便利な物があるので使ってみてください』と言ってもらえるようになればベスト」だと話す。利便性を高めるさまざまな機能を使いやすく備えたサービスとして、今後の進化に期待したい。

 

株式会社とうこう・あい

代表者:代表取締役社長・鐘ケ江弘章

資本金:6,000 万円

メールアドレス:bookcellar@toko-ai.com

電話番号:03-5148-7200

担当者:原田央

 

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