旬報社は70年以上にわたり労働法や福祉、教育に関する専門雑誌や書籍の刊行を続けてきたが、近年は「ワークルール検定」事業や、海洋プラスチックごみや核兵器問題などを子ども向けに解説する学校図書館向けの書籍の刊行を開始するなど、事業の幅を広げている。
【本紙増刊B.B.B 7月号掲載】
雑誌5誌と単行本年間40点を刊行
同社は1949年に自由法曹団の弁護士・研究者が労働判例を紹介・解説することを目的に創刊した雑誌『労働法律旬報』とともに設立。同誌は国内唯一の労働法専門誌として2022年1月号で創刊2000号を迎えた。
このほか、定期刊行誌として月2回刊の『賃金と社会保障』、月刊の『教育』、『月刊 社会教育』、季刊の『人間と教育』、年刊で『日本労働年鑑』と『世界の社会福祉年鑑』を刊行する。いずれも専門家を中心に定期購読の比率が高い。事業としては雑誌が全体の25%ほどを占める。
書籍は労働、教育、環境、福祉といった社会問題を扱う時事的な内容が多く、年間の新刊点数は約40点。このうち10点ほどは研究者や大学図書館を対象にした専門書だが、ほとんどは取次・書店ルートで販売する。
海プラや核兵器などのテーマも
昨年3月に刊行した『私が原発を止めた理由』は、原子力発電所の運転差し止めを命じる判決を出したことで知られる元裁判官の樋口英明氏による著作で、「退官した裁判官が自らの判決について語ることはほとんどないなかで、かなり注目されています」と木内洋育社長。「原発をとめた裁判長」という映画も9月から公開されるという。
また、2018年に刊行した保坂直紀著『クジラのおなかからプラスチック』は、初めて海洋プラスチックごみ問題を子供向けに単行本の形で、わかりやすく解説したことで注目を集めた。
子供を対象にした書籍としては、2020年に保坂直紀著『海のプラスチックごみ 調べ大事典』をB5判112ページ、定価4180円の図書館向けシリーズとして刊行。2021年には川崎哲監修『絵で見てわかる 核兵器禁止条約ってなんだろう?』(B5判112ページ)、2022年には公益財団法人消費者教育支援センター監修『18歳成人になる前に学ぶ 契約とお金の基本ルール』(B5判108ページ)を刊行。
木内社長は「当社がこれまでに培った第一線の著者とノウハウによって、お子さんや学校向けに社会的なテーマをわかりやすく提供していきます」とシリーズ化の狙いを説明。資産を生かして学校図書館市場を開拓する試みだが、「内容が評価されて、継続的に注文をいただけています」という。
さらに、大型企画の個人著作集として2021年から『渡辺治著作集』全16巻の刊行を開始。今年は秋に『佐高信評伝選』全7巻の刊行を開始する。
ワークルール検定が拡大
2013年に木内社長も関わり、北海道大学名誉教授で労働法学者の道幸哲也氏と日本労働組合総連合会が札幌で開始した「ワークルール検定」が、厚労省の後援も得て2020年には全国都道府県で開催。2021年からは春と秋の2回に分けて全国開催する形に成長。「経営者の関心も高まり、定着し、広まりつつあります」(木内社長)という。
同社は同検定の初級・中級の公式テキストと問題集を提供しており、検定の広がりに合わせて事業の柱の一つに成長。「当社出版物の販路拡大という面でもメリットが大きいし、社会活動としてもさらに重要になっていくと思います」と木内社長は期待する。
出版物どう知らせるかが課題
同社は2006年11月に光和コンピューターの販売管理システムを構築。在庫管理や入出庫など情報は河出興産と連携している。
木内社長と従業員8人のうち、編集が6人、営業と経理が1人ずつ。そのほか業務の契約社員が1人いる。以前は在庫管理なども手入力だったが、今のシステムを導入したことで効率化されたという。
木内社長が課題だと考えるのは、新刊をどう読者に伝えるか。以前は取次に搬入し、新聞広告を掲出すれば、それなりに届いたと感じていたが、環境が変わる中で新たな手段を模索。「活字好き年配者、活字離れの若者に、どういう媒体でお知らせすればよいのか手探りの状態です」と話している。
株式会社旬報社
所在地:〒162-0041 東京都新宿区早稲田鶴巻町544中川ビル4F
電 話:03-5579-8973
創 業:1949年11月
資本金:2000万円