「この本売りまっせ!!」
角川春樹事務所から7月に刊行された『うえから京都』(篠友子)の帯に、関西主要5書店が「推薦人連判状」として名を連ね、来店客の目を引いている。
同作は、「交渉人」と呼ばれる高知県庁の女性職員のもとに、京都府知事から「首都機能を関西に移したい。京都、大阪、兵庫が手を組むために力を貸してほしい」と依頼が入る。裏には京都が政治の拠点として返り咲く思惑があった。関西の地域性や個性など風刺を効かせ、ユーモアも交えながら展開するエンターテインメント小説。
発売前に作品の内容を確認した京都のふたば書房・洞本昌哉社長は「これは面白い」と反応。「政治家の腹黒さと同時に、志したときの大義、正義の部分も上手く表現している」と感想を述べる。
実社会でも「文化庁の京都移転」といった東京一極集中の流れを分散する動きも見られ、京都府は「文化庁京都へ」の公式ロゴを作成し、周知を進めている。
経営者らが集う会合に出席した洞本氏は、「本物」の京都府・西脇隆俊知事に「知事、面白い小説が出ますよ」と耳打ち。「表紙や帯にロゴを入れてPRしてはどうか」と提案すると、知事は作品に関心を示し、後日、府担当者から「ぜひロゴを掲載してほしい」と連絡を受けた。
政治も出版も関西から盛り上げる
洞本氏は、これら一連の経緯を親交ある関西の書店に伝え「読み応えがあり、ヒットしそうな作品。書店としてもアピールしよう」と呼びかけた。
帯に推薦書店掲載を企画し、ふたば書房のほか、大垣書店・大垣全央社長(京都)、田村書店・田村正良社長(大阪)、水嶋書房・水嶋成年社長(大阪)、ダイハン書房・長谷川政博社長(兵庫)が賛同。「『うえから京都』推薦人」として、帯の作成を角川春樹事務所に相談すると、同社も快諾した。
洞本氏は「日本がしんどいときに関西が動く。本離れが進む厳しい出版界でも関西の書店が盛り上げるという点が似ていると思い、同業仲間に呼びかけた」とし、さらに「書店も待っていて商売できる時代ではない。何もしなくて売れる時代があったが、今から考えれば傲慢。自ら売上をつくる努力をしなければと考えた。形にしてくれた角川春樹事務所には感謝している」と話す。
店頭では際立つ帯のデザインが目立つ一方、出版関係者らの反響も大きく、洞本氏のもとには「興味深い取り組み」などの声が寄せられているという。
京都本大賞創設や、京都ブックフェスティバル発起人として知られる洞本氏。「厳しい現状をいつまでもコロナのせいにはできない。今後も『あの本屋は面白そう』と思われる書店を目指す」と、次の仕掛けも見据えていた。 【堀雅視】