株式会社ハルメクホールディングス 雑誌『ハルメク』部数5年間で3倍以上に 通販・イベントなど連携しファン広げる

2022年10月5日

 

 株式会社ハルメクのシニア女性向け月刊誌『ハルメク』は、ここ数年部数を伸ばし続け、今年8月時点の販売部数は48万部に達するなど好調だ。誌面に掲載する企画づくりから、読者からの評価まで徹底した調査を行い、誌面、通販、商品開発、イベント、Webなどを通して解決策を提示する取り組みが、根強いファンを生み出している。

 

 取締役コンテンツ事業管掌ハルメク編集長の山岡朝子氏が編集長に就任した2017年当時の販売部数は約14万部。それが5年ほどで3倍以上に増えたのは、徹底的な調査によって読者ニーズをとらえ、誌面作りにとどまらないサービスを提供する同社のビジネスモデルによるところが大きい。

 

 「日本のシニア女性を幸せにする」ことを目的に、100%定期購読の月刊誌『ハルメク』と、カタログと通販サイトによる通信販売、旅や講座・イベント、そして「ハルメク365」といったWebなどを連携させる。同誌の取り組みについて山岡編集長に聞いた。

 

全記事の満足度を調査

 

山岡編集長

 

 同誌の制作には1号あたり6カ月ほどかけるというが、そのうち3カ月は調査にあてる。Webでパネル調査を実施し読者の希望や課題を調べるほか、毎月2000~3000通届く読者葉書を読み続けることで、「読者像を自分の中に育てています」(山岡氏)という。

 

 さらに、雑誌発行後は同グループの「生きかた上手研究所」が、読者の年代別や購読期間別など4つのカテゴリーで計1000人ほどを抽出し、すべての記事について5段階評価とフリーアンサーを記入する調査を実施。発売1カ月後に速報、1.5カ月後は詳細を編集部にフィードバックする。

 

 ここでは、各記事の閲読率と満足度が詳細に発表されるが、編集部員はそれぞれ担当した記事の「満足度」および号全体への評価を業務目標にしている。

 

 この仕組みは山岡氏が就任する以前からあったが、「当時は調査結果が一方的に伝えられ、編集部員は参考程度に聞くような状態でした」という。そこで山岡氏は編集部員に調査結果を今後に生かす意義を、調査員には今後の誌面に生かせるようなフィードバックを促し、今ではこの満足度調査を起点とした誌面改善や企画立案がなされるようになったという。

 

 また、以前は編集部とイベントの連携が弱かったというが、山岡氏は米国食品系の広告タイアップとイベント企画を目にしてハルメクの強みを再認識した。「広告主からは誌面広告と連動して商品の試食イベントを要望されていました。それを当社のイベント事業部が手掛けた結果、ホテルのバンケットルームに満員のシニア女性が集まり、キャンセル待ちが200人にも達していた。イベントではホテルの料理長が考えた独自のコースが提供され、食事中にはオペラ歌手がクリスマスソングを歌い、参加者は大いに楽しみ、商品のファンになって帰っていきました。この様子に広告主は驚き、感動されていました。通常の出版社であればここまでできない。イベントとの連携は当社の強みだと思った」という。

 

 誌面に登場した人から学ぶ、読者同士が一緒に旅行に行ける、などの企画があれば、読者の満足度をさらに上げることができると考え、イベントとコンテンツの連動を進めた。年間200回ほど開催していたイベントの大半が雑誌との連動企画になり、雑誌読者の参加意欲が上がったのはもちろん、イベント事業自体も大きく成長したという。

 

サブスク動画配信「ハルメク365」スタート

 

 しかし、強みとして育てたはずのイベントが、コロナ禍で開催できなくなった。苦肉の策でオンライン(zoom)開催に移行したものの、当初は参加者、運営側ともに不慣れで、接続方法や操作の仕方を電話で説明するなど四苦八苦した。しかし、「オンラインでもリアルでも、ファンへのホスピタリティという根っこは同じ。どうすれば分かりやすく伝えられるか、楽しく参加していただけるかを考えながら、ひとつひとつ課題を克服していきました」と山岡編集長。

 

 PCにカメラが付いていないという70代女性に、Webカメラを買って送ってあげると、「この年になってこんな素晴らしい体験ができるなんて」と感極まった手紙をもらった。「コロナ禍で家に閉じこもっているシニアにとって、ハルメクが唯一の窓になっていると実感しました。このことが転機になって、オンラインでもファンコミュニティを育てるべきだと考えるようになりました」という。

 

 今や、どんな初心者でも接続できるマニュアルが完成し、1000人単位のオンラインイベントを開催するまでに。「リアルのときには参加できなかった地方の方にも参加いただけるようになり、むしろ以前より活況を呈しています」。

 

 こうした経験をもとに、今年9月1日に新たなWebサービス「ハルメク365」をスタートした。月あたり770円(購読者550円)のサブスクリプションサービスで、有料会員には雑誌コンテンツと連動した動画が毎月100本以上提供されるほか、オンラインイベントに優待価格で参加できる。読者の関心は高く、有料での利用者数も「想定を上回っています」と好調な出足だ。すでに広告的な引き合いも増えてきている。

 

 

 日本のシニア女性は約3000万人。同社の雑誌購読者と通販利用者を合わせても100万人超だ。山岡氏は「私たちがリーチできているのはまだまだほんの一部。より多くのシニア女性の幸せに貢献するため、コンテンツ、イベント、コミュニティー、商品など、新たなサービスの開発にも積極的に取り組んでいきたい」と考えている。