メイツユニバーサルコンテンツ 中小出版社の従業員事業承継 業績好転と在庫開示による信頼醸成カギに

2022年10月7日

事業を引き継いだ大羽氏(左)と中村氏

大羽孝志代表取締役社長・中村有太代表取締役副社長に聞く

 

 メイツユニバーサルコンテンツはこのほど、創業者から従業員に事業承継したが、継承者が持ち株会社を設立し、金融機関からの借り入れで株式を買い取る方法をとるなど、中小出版社の事業承継として参考になる事例といえる。背景には、ここ数年の好業績や、在庫数などもオープンにしてきた同社の姿勢があったという。同社は1999年に丸善メイツの出版部門から前田信二、斉藤俊幸、三渡治の3氏が独立創業。2016年から社長を務めた三渡氏の時代に業績を好転させ、毎年、金融機関など向けに開く事業報告会で、決算内容から単品ごとの在庫冊数まで明らかにしてきた。22年6月期の業績は売上高4億7550万円、営業利益8439万円。このほど事業を受け継いだ大羽孝志と中村有太の新トップ両氏は、今後10年にわたる長期計画を策定するなど、今後の継続を見据えた取り組みを始めている。大羽と中村の両氏に事業承継のポイントなどを伺った。

 

――お二人の入社のいきさつを教えてください。

 

大羽 漠然とした出版業界への憧れがあったのですが、大学卒業後に全く違う業界の海外法人から内定をもらったものの、日本撤退となり入社取り消しになりました。その後、編集プロダクションで仕事をしたのちメイツに転職しました。

 

 当初編集部の業務は進行管理がメインでしたが、当時の主力商品だったガイドが右肩下がりで、新規の企画を考えなければいけない割合も増えるなど、いろいろ大変でした。

 

 その後、編集長になったのですが、当時、三渡が社長になり、部署の再編成があって業務管理という、総務・人事・法務・会計・経営などなど、編集と営業以外なんでもやる新しい部署ができ、部門長をやることになりました。三渡の後継候補ということもあり、いま振り返ると、会社全体の経営をここで勉強させていただきました。

 

中村 私は大学卒業後、5年くらい書店に勤めて、その後転職活動を通じ、2011年に人材紹介会社に当社を紹介してもらい入社しました。そのときの面接官だったのが、創業者のうちの1人、営業担当の斉藤でした。当時営業は1人だったので、次の世代として採用されました。

 

 ところが、入社して半年くらいで斉藤が療養生活に入ることになり、彼の担当業務もすべて私に回ってきました。さらに、ほぼそのタイミングで私の下に業界未経験者の社員が1人入社してきていたので、いろいろと教えることも必要で、最初の1、2年はかなりバタバタしました。

 

――前の世代はどんな状況だったのですか。

 

大羽氏

 

大羽 私は2005年に入社しましたが、当時、創業者である3人は、前田が社長、斉藤が営業、三渡が編集を担当し、ほかに正社員は事務員の方が1人だけでした。あとは派遣で進行管理している人が3人。そこに私ですべてでした。

 

 主力書籍のガイドシリーズは、毎年、決まったものを作り直し続けていたので、必要な部分を修正するというような形で出していました。制作も基本的に全て外部委託していました。

 

 とはいえ、後継を考える必要があると考えていて、中でも一番若かった三渡は、自分の仕事を引継ぐという意図で私を採ったのだと思います。

 

 しばらくして、頼みのガイドブックが厳しくなり、このままではまずいということで、実用書とか子育ての本であるとか、新たな企画が必要になってくる。そうすると当然プロパーの社員が必要になる。それで、編集部から正社員化が始まりました。そして今度は営業も次の世代もいれないとダメだろうということで、11年に中村が入り、こちらも正社員化を進めました。

 

 創業当時から親族内承継は絶対しないことを3人で決めていたらしく、会社を清算するという選択肢もあったようですが、14年に前田から三渡がまず承継しました。

 

リニューアル戦略と営業内製化で業績好転

 

――営業利益で20年度(1億1495万円)、21年度(1億1400万円)と過去最高益を計上するなど、ここ数年業績が改善しているポイントはなんでしょうか。

 

大羽 本の制作で効果的なのは、“リニューアル戦略”です。書店様では売れていても年数が経ってくると置いてもらいにくい。そこで、必要な箇所だけ内容の改定・更新を行いつつ他は再利用し、表紙やタイトルなどを変えて新刊として再度発売する。そうするとまた現場で展開してもらえる。これはコンテンツ資産を再活用して、原価を下げて利益を確保していくことになります。これが業績の改善につながっています。

 

 営業面では、営業代行からプロパーに変えて、大手のチェーン書店本部との取引を増やしていきました。

 

中村 書店様に対しては販売金額に応じて料率をきめて、段階に応じた報奨をお支払いする施策を6年くらい前に始めました。それまでも単品報奨などはありましたが、年間トータルで全銘柄を対象に報奨金を出す特約店制度のような形にしたのです。

 

中村氏

 

 この方法はチェーン書店さんから「他社さんやってますけどどうですか」と提案されました。これがうまくいって、ほかのチェーン書店さんにも広げています。

 

 この施策で大きいのは、新刊で各店舗の精度の高い指定部数をもらえることです。いま、書店様では現場の発注が少なくなって、ある程度本部に集約されていますから、この仕組みによって指定数の精度が高まり、返品率の改善にも繋がっています。

 

 新刊時にかなり正確なスタートを切れて、出した後に実績がついてくれば、本部に「追加、どうですか」という提案をしていけるので効率化を図れます。個店営業から法人対策、法人営業への切り替えです。

 

大羽 このおかげで、財務的にも在庫を減らせる効果があります。毎年、事業報告会を開催していますが、そこでは単品ごとの在庫実数をはじめ、隠さず金融機関にお見せしていますが、在庫がこうやって減ってきてます、利益も出るようになってきましたとお見せして、信用を積み重ねてきました。

 

 その結果、融資の提案が増えたほか、提案の条件も良くなっていきました。これが当社の財務に良い影響を与えてくれました。

 

 つまり、本の作り方と営業の仕方で業績を安定させ、それを背景に在庫も全て開示することによって、金融機関の信頼を得て、借り入れの形も変わってきて、財務も健全化したわけです。

 

中小出版社でもできる事業承継の方法

 

――創業者から従業員への承継がスムーズに行われた背景を教えてください。

 

大羽 まずは、やはり利益です。2期連続で過去最高益を計上したことで、三渡も私たちに任せても大丈夫だと判断したようです。加えて、金融機関側から承継に向けた融資の提案がありました。

 

 具体的な方法は、まず私と中村でホールディング会社を最低限の持ち出しで設立し、ここで金融機関から融資を受け、その融資を三渡からの株の買い取りに充てました。

 

 今後の返済原資は、事業会社の純利益からホールディング会社に配当する資金を当てます。金融機関にそれで返済できると確信してもらえたということですね。

 

 実は承継に先行して5年ぐらいかけて、業績を背景に借入の個人保証を外してきました。ですから会社の借り入れで個人保証は一切ありません。こうして個人の負担をなくしていくことは、次の承継に向けても必要なことだと思っています。

 

 このような方法が簡単にできるわけではないのかもしれませんが、我々が行ったこと自体は特別なことではなく、金融機関に経営状況を明確に見せてきただけです。そういう意味では、しっかり準備さえすれば、多く存在する中小規模の出版社でできるはずです。こういう手もあることを、ぜひ知ってほしいです。

 

別ジャンルにも積極進出

 

――今後はどんな会社にしていきたいですか。

 

大羽 一番の目標は次の承継だと思っています。次も親族外で。そのために、会社と人材を整えていくことが目的です。あとは、当社を構成する者たちがちゃんと生活していくことです。最終的に株主、役員、従業員が継続して安定した幸福な生活をしていく。これが一番の目的です。

 

 そのためには、やはり50年先を考えつつ、会社が続けられるようにしていくことが重要だと思っています。

 

――ビジネス書など新しいジャンルへの進出や、Web受注などDXも進めていかれるのですね。

 

大羽 児童向け商品の図書館販売が大きくなってきているので、今後の主力になってくると思っていますが、次を見据えるために別ジャンルにもどんどん挑戦していこうと思います。電子書籍にも三渡の時代から力を入れてきました。

 

 新しいことを取り入れていかないと成長は難しい。そういうことを取り入れて、どこまでキープできるか、どれぐらい積み上げていけるのかだと思います。オーディオブックや電子図書館も広がっているなか、成長できる分野をなるべく見極めて、当社の規模に合わせて参入し、広げていくことは今後も必要だと思っています。

 

 

 

大羽孝志(おおば こうじ)氏 1979年6月8日富山県生まれ。2005年メイツ出版株式会社に入社、編集部に所属。10年副編集長、12年編集長、15年より業務管理部マネージャー。19年メイツユニバーサルコンテンツに社名変更後、21年に同社を承継。22年代表取締役社長に就任

 

中村有太(なかむら ゆうた)氏 1983年12月6日青森県生まれ。2006年大学卒業後埼玉県内の書店で正社員として勤務したのち、11年メイツ出版株式会社入社、営業部に所属、15年よりマネージャー、2021年に同社を承継、22年代表権を持つ副社長に就任

 

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