創元社(矢部敬一社長)はこのほど、大阪が誇る小説家・織田作之助の初の単行本『夫婦善哉』の簡易復刻と、『織田作之助新聞小説セレクション』(斎藤理生編・解説)を発刊した。
今年創立130周年を迎えた同社は、記念企画として今年9月、織田をテーマに人気声優によるオリジナル朗読劇を上演。その特典グッズとして2種の書籍を企画した。
織田を流行作家に押し上げた作品『夫婦善哉』の初版は1940年。初出は東京の文芸雑誌であったが、「大阪の作家が大阪を描いたものは大阪で」と先輩作家の後押しもあり、短編五編を収めて第一作品集として創元社からの刊行となった。しかし、戦中という時節柄、検閲が厳しく、刊行後に数ページを切り取った状態での販売を余儀なくされた。
今回の復刻本は無修正版をスキャンして制作。カラーの扉や著者による検印、巻末の広告ページなども忠実に再現しており、オリジナル資料としても貴重な存在になりそうだ。収録作品は『夫婦善哉』、『放浪』、『俗臭』、『雨』、『探し人』。四六判・並製・258㌻・2200円(税込)。
一方、『織田作之助 新聞小説セレクション』は、戦中戦後に書かれた5本の新聞連載小説の中から、敗戦直後の京都を舞台にした群像劇『それでも私は行く』(「京都日日新聞」1946年、全84回)と、同時期の大阪の世相を克明に描いた『夜光虫』(「大阪日日新聞」46年、全65回)を、三谷十糸子さん、小磯良平さんによるすべての挿絵とともに収録。新聞版は組版ミスが多く、単行本化の際に書き直された部分も多いが、本書は初出の新聞版に全集版なども参照しながら再編集を施し、誤植と判断して修正した文字には「*」マークを付けた。
また、本書にはさらに、戦中戦後の混乱で散逸し、 全集刊行後に見つかった評論や随筆などの7つの掌編と編者による解説を収録している。四六判並製・296㌻・2200円(税込)。
朗読劇と特典本の編集を担当した編集局の小野紗也香さんは、「オダサクに興味がない人でも面白く読むことができる作品で、小説中に描かれている場所を、街歩きで実際に辿るのもおもしろい」としている。
それぞれ限定1000部の発行で、原則としてHPやイベントなどでの直販のみ。【櫻井俊宏】