本の日実行委員会は11月1日、SNSでおすすめの小説を紹介し、若い世代から人気がある小説紹介クリエイターのけんごさんらを招いたオンラインイベント「けんごさんと本トーク。本と、読者と、本屋さんと。」を開催した。東京・千代田区のワテラスコモンホールからユーチューブでライブ配信した。
イベントは双葉社、出版文化産業振興財団(JPIC)、淡路エリアマネジメントが協力。けんごさんと、彼の著書『ワカレ花』(双葉社)の編集担当者である藪長文彦氏、ミステリー小説『むかしむかしあるところに、死体がありました。』などの著者・青柳碧人氏が登壇。流泉書房(神戸市)の書店員・大橋崇博氏がコーディネーターを務めた。
まず、けんごさんが『ワカレ花』を書いた理由などを説明。24歳の今、小説紹介クリエイターとして活躍しているが、「大学1年生の時、初めて小説の魅力に気がついた。小中高校での読書経験は全くなく、とても後悔している」と明かし、「今の児童・生徒には小説に早く出会ってほしい。思春期しか味わえない小説の魅力に気がついてほしい」との思いから、SNSでの紹介を続けていることを語った。
リアル書店の良さについても触れ、「書店に行くと、いつも真っ先に文芸書の新刊コーナーを見てから、ぐるっとまわる。書店では目的以外の作品と出会えるのが大きな魅力。運命的な出会いができる。今日はどんな出会いがあるか、うきうきしながら通っている」と話した。
作家の「推し活」している
また、「小説のいちファンとして作家を応援したいという気持ちが強い。電子書籍でいち早く読み、面白かった作品を紙で買い直すことはよくある。それも自分自身では普通のことで、アイドルを応援する人たちと同じように、作家の『推し活』をしている感じ」との思いを語った。
これからの本屋に求めることを聞かれると、青柳氏は「ぜひ知らない本を紹介してほしい。他の本屋にはなく、それがどういった本なのかがPOPなどに書かれていれば、手に取ってみたくなる」と、藪長氏も「書店員さんの生の声が聞ける場所であってほしい。クセのある書店員さんがもっと増えると楽しいのでは」と提案。
けんごさんは「全国で書店の数が減っているのが悲しい。書店は増えていかなければならない存在だと思っている。書店員さんが書いたPOPなどを見ていると、作品に対する愛を感じる。そういったことが世間的にもっと評価されてほしい。これからは書店員さんの裏側の努力や、書店がある意義などを伝えていきたい」と意気込んだ。
「本ほど人間くさいものはない」
活字の楽しみ方、本屋の楽しみ方について聞かれると、けんごさんは「今はSNSやサブスクなどエンタメがあふれている。小説は難しいと思われがちのエンタメだが、本当は気軽に楽しめるもの。世の中には小説が好きになるような作品がきっとある。そういった作品をこれからも伝えていきたい」と強調。
青柳氏は「ある人に紹介された『作家であるのはひとつの病。この病は治してはいけない』という言葉が印象に残っている。そう考えると、書店に並んでいる本は私たち作家の闘病記、カルテでもある。書店に行ってぜひ『(この作家)わずらってるな』と思いながら、読んでみてほしい」と違った視点をおすすめした。
藪長さんも「今の時代、誰もが孤独を感じることもあるだろう。本は作家が魂を込めて書き、編集者、デザイナー、イラストレーターが作品の良さを伝えるために苦労している。そして、書店員さんがそれを読者に届けている。本ほど人間くさいものはない。現実世界で寂しさを感じるようならば、ぜひ書店に行って自分にあう一冊を見つけてほしい。それはどんな友達よりも大切なものになるかもしれない」と呼びかけた。
最後に、けんごさんが今月から毎月の予定でSNSのライブ配信機能を使って、「出版業界の人に直接聞いてみよう」企画を始めることを明かした。第一弾は11月30日にポプラ社の協力で開催する。