日本新聞協会と在京の報道各社は10月24日、第75回新聞週間の関連行事「記念の集い」を東京・千代田区のプレスセンターホールで開催した。「情報を疑え」をテーマに、タレントの井上咲楽さんと元NHK専務理事で報道番組に長く携わってきた塚田祐之氏(井之上パブリックリレーションズ顧問)が対談。たくさんの情報があふれる中、情報の接し方やニュース報道のあり方、新聞・報道各社が果たすべき役割などについて意見を交わした。
塚田氏は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった2020年春、「こまめに水を飲むと良い」とか「トイレットペーパーが不足する」といった不確かな情報があふれたことを振り返り、その中でマスメディアの情報の伝え方の難しさを指摘。井上さんも「『わかりやすい』がキーワードで、テレビや動画など、ぱっと見て判断してしまうのではないか。数字もそうで、例えばSNSで何万いいねが付いていると、それだけでその情報を信じてしまったりする」ことの怖さを語った。
また、フェイクニュースが生まれる理由について、塚田氏は①自分の主張を正当化するため②話題にして面白がる人たちがいるため③クリック数に応じたネットのビジネスモデル―を挙げた。井上さんも「ネットに流れているニュースで、はっとする強い見出しを読むと、ついクリックして見てしまう。読んでみると大した記事ではなかったりする」と、見極めの難しさを話した。
「地方紙を読むのが楽しい」
井上さんは「選挙を見るのが好きで、各都道府県に行っているが、その場所に行ってみないと分からないことも多い。選挙中は特に、行った土地の地元紙を買って読んでいる。政治だけでなく、その土地の話題がたくさん載っていて、読むのがとても楽しい」と明かした。さらに、「各紙を読み比べて、自分と違った視点の考えなどを知れるのも良いし、自分が読みたい記事だけでなく、興味がないと思っていた話題の記事も目に止まったりする。自分自身の新たな発見にもつながる」と、紙の新聞の良さも語った。
たくさんの情報が溢れる中、塚田氏は「例えば何か高い物を買うとき、美味しいご飯を食べに行くときも、どれが良いかいろいろと調べる。今はそういった作業を『情報』でもしなければ、より正確なものにたどり着きづらくなっている」と話し、井上さんも「そういったことについては、若い人もシビアに調べている。だから、情報を見極めるというスキルは、ニュースを見ない人たちも日々の生活で培っているのかもしれない」と同意した。
マスメディアに対して、塚田氏は「ネットの影響で、取材する側も速報に対応せざるを得なくなっている。時間に追われ、『深く』『なぜ』が減っている。テレビを見ても、同じ話題を何度も流している。取材の仕方にもっとメリハリをつけることが、結果的に読者や視聴者を引きつけることにつながるのでは」との考えを示した。
「情報を自分事として考える」
最後に、井上さんは「今は一日中、たくさんのニュースがどこにいても入ってくる。自分の見ている情報源がどこなのか、それは情報なのか誰かの意見なのか、一度フラットな気持ちで見ることが大切だ」と呼びかけた。塚田氏も「いろいろな情報に対して、自分事として考えることが重要だ。そうすると、よく調べるし、探したりする。そうすることで、より正確なものに近づくだろう。その判断の軸として、新聞やテレビといった報道機関が担い続けなければならない」と訴えた。