米国超大手出版社の合併破談に ペンギン・ランダムハウスとサイモン&シュスター

2022年12月2日

 米コロンビア特別区連邦地方裁判所は10月31日、米国最大の書籍出版社であるペンギン・ランダムハウス(Penguin Random House、以下PRH)が、同第4位のサイモン&シュスター(Simon&Schuster、以下S&S)に対して提案していた22億ドル(約3200億円)規模の合併計画を、認めないとの判決を下した。米司法省(DOJ)が昨年11月に差し止めを求め、反トラスト民事訴訟を提起していたのを認めた。

 

ペンギンランダムハウス判決文のサムネイル

判決文

 

 フローレンス・パン判事は「広範な記録と当事者の主張を慎重に検討した結果、当裁判所は、米国で、予想されるトップセラー書籍の米国での出版権市場において、提案されている合併が実質的に競争を減殺する可能性がある」とし、差し止めの判決を下した。

 

 DOJ反トラスト局のジョナサン・カンター司法長官補佐は「本日の判決は書籍の重要な競争を保護し、著者、読者、自由な意見交換のための勝利である。この合併案は競争を弱め、著者の報酬を減らし、物語やアイデアの幅、深さ、多様性を失わせ、最終的には民主主義を貧しくしていただろう」とのコメントを発表した。

 

PRHには約2億ドルの違約金支払義務

 

 専門誌『パブリッシャーズ・ウィークリー』によると、PRHのマルクス・ドールCEOは「合併後の企業のシェアは、書籍市場全体の20%未満。一方でAmazonは小売市場の50%以上を占めている」などと反発。同日、上訴の方針を示してS&Sの親会社パラマウント・グローバル(Paramount Global、以下パラマウント)と交渉を続けたが、パラマウント側がこれを拒否した(上訴にはパラマウントによる契約延長の同意が必要だった)。PRHはパラマウントに違約金約2億ドルを払うことが決定している。

 

S&Sの新たな売却先は

 

 注目されるのは、S&Sの今後だ。パラマウントにとって、動画コンテンツを主力とする企業ではないS&Sは、2022年に初めて売り上げが10億ドルを突破する見込みであるなど業績が絶好調であるものの、依然として「非中核資産」。売却の方針は変えていないと見られる。

 

 しかし、先行きはなかなか不透明だ。事情を複雑にしているのは、一般的な独占事件とは異なり、政府の主張が消費者被害の可能性を主張するのではなかった点だ。

 

 DOJの主張は、入札に参加する大手出版社数の減少により、著者のアドバンス(前払い印税)が減少する可能性への懸念に焦点を当てており、判決後のリリースにも「この決定は、より広く労働者にとっての勝利でもある」と、著者のアドバンス増加を意識したかのようなコメントを加えている。

 

 このことから考えると、PRHとS&Sの合併後に想定された「トップセラーの半分のシェア」出版社でなくとも、DOJが差し止め請求を求めて提訴する可能性が残っていると思われる。

 

 S&Sの新たな売却先については、21年時点でPRHと争ったと報道されているハーパーコリンズ(HarperCollins)や、仏大手出版社ヴィヴェンディュ(Vivendi)などが候補に挙がっているが、予断は許さない状況といえる。業績好調なS&Sが対象だけに、出版社以外の資本力のある企業による買収の可能性も残されているように思える。

 

仏トップ2社の合併も不透明に

 

 なお、今春から動き始めていた仏市場のトップ2社、ヴィヴェンディによるラガルデール(Lagardere)グループの買収交渉についても、EU委員会による調査が始まったとロイターが11月30日に報道している。仏出版市場の形が一気に変わるかと思われた上位2社の大合併についても、状況は一気に不透明となった形だ。委員会の判断は23年4月19日までに下される予定という。成り行きによってはS&Sの動向にも影響がでてきそうだ。【コンテンツジャパン代表取締役・堀鉄彦】