2021年2月に創業した出版社「どく社」(大阪市・末澤寧史代表)は12月25日、能力という観点から人と人との関係性を考える『「能力」の生きづらさをほぐす』(勅使川原真衣)を発刊する。同書は、能力主義社会が広がるなかで、一元的な基準に過ぎないにもかかわらず、それが絶対的なその人の能力とされ、そこに不安や息苦しさ、違和感が生まれる危うさを指摘する。
移ろいがちな他人の評価が強い影響力を持つ能力評価の実態と、不安や息苦しさをつくる社会背景を、教育社会学とビジネス現場の視点を交えて解きほぐす。物事がうまくいかないとき、評価を受ける個人の能力ばかりに目を向けるのではなく、評価する側、される側双方が関係性をどう作っていくかに焦点を当てる。
著者は製造業からサービス、医療、教育ほか多岐にわたる大小の現場に入り、伴走しながらチーム内で人と人とのより良い関係性づくりに尽力してきた組織開発の専門家。二児の母としてガンと闘いながら、「今のような息苦しい社会で子どもたちが生きていくとしたら、死んでも死にきれない」という問題意識が執筆のきっかけとなった。
人事担当など評価する側の価値基準による能力評価によって息苦しさが作られていく社会背景を、教育社会学をもとに実際に起こったエピソードを盛り込みながら、大人になった15年後の子どもたちとの対話形式を用い、広い視点で他者と生きる知恵を示す。
同社編輯室・多田智美室長は、「読み方によってどんどん広がっていく内容で、教育や社会学、人文などいろいろな視点で切り取れる。書店と一緒にこの本の可能性を広げていきたい」と推奨している。 【櫻井俊宏】