【2023年新春インタビュー】PubteX・永井直彦代表取締役社長 丸紅グループと出版大手3社がタッグ

2023年1月5日

「街の本屋さん」の救世主となるか? 書店を支援するための“RFID”

 

 丸紅グループが大手出版社の講談社、小学館、集英社と設立した合弁会社の株式会社PubteXは、出版社に向けたAIによる発行・配本最適化サービスや、書店の経営改善をはじめとした出版流通の課題解決が期待されるRFID事業を、2023年から本格化させる。なぜ総合商社が出版流通事業に着手したのか。事業の方向性や展望などを永井直彦社長に聞いた。【聞き手・星野渉】

 

 

――なぜ総合商社の丸紅が出版関係の事業を始めたのか、会社設立の経緯をおしえてください。

 

 もともと丸紅グループ自体は、出版流通とはあまり関係がありませんでした。ただ、丸紅のフォレストプロダクツ本部と丸紅フォレストリンクスは、以前より出版各社に印刷用紙を販売してきた実績があり、出版社のトップとの間に一定の信頼関係がありました。

 

 4年ほど前にトップ同士の会食の席で、講談社から紙の出版物のサプライチェーンが必ずしもうまくいっていない、というお話がありました。社内でいろいろ検討されたものの、なかなか良い答えにたどり着かなかったようです。そこで、総合商社であれば、あらゆる業界のサプライチェーンと関係があることから、他業界の事例なども駆使し、出版物のサプライチェーンを正常化させるような取り組みができるのではないかということで相談がありました。

 

 そのときに私がいたのは、情報・物流本部という部署で、そこにはITやロジスティクス、サプライチェーンの専門家がおり、私はロジスティクスとサプライチェーンを担当していました。

 

 そこで私も加わらせていただいたのですが、講談社と丸紅グループでプロジェクトチームを作り、現状分析から課題の抽出、改善策の策定などについて3年ぐらいかけて研究をしてきたのです。

 

返品による損失は2400億円と試算

 

――出版業界に関わるなかで、どのような気づきがありましたか。

 

 出版社と話をするなかで、われわれも正直かなりの課題があることを知りました。

 

 まず、一つ目は高い返本率であり、書籍で3割、雑誌で4割を超えているとお聞きし、委託販売という商取引ルールのなかでも少々高すぎるのではないかと感じました。

 

 調査を行ったころの紙出版物のマーケットは年間1兆2000億円ぐらいでしたが、われわれの試算では、返本による経済的損失は年間2400億円ぐらい発生していることが分かりました。小売総額1兆2000億円に対し、約20%くらいのコストが掛かっているわけです。

 

 返本によって雑誌は約4割も断裁しているわけですし、返品に関わる静脈物流だけではなく、送品の動脈物流でも販売会社は出版物を運び過ぎていることになり、結果的には往復でかなり無駄な物流をやっているわけです。

 

 出版物が年間7万5000点ほど出ているということは、新刊は1日200から300点が発行されることになります。大きな書店では、販売会社から沢山の出版物が毎日のように届きますが、この新刊を棚に並べるためにやはり書店ではかなりの本を返本せざるを得ません。その業務は書店員の労働力を使い、地方の書店は返本の配送費も持たなければならず、返本による多大な業務、そして費用負担は書店の大きな課題の一つです。

 

 もう一つの課題として講談社から説明を受けたのは、書店の経営が厳しいということです。データを見せてもらったのですが、近年の書店数の減少幅が大きくなっています。

 

 特に中小、個人書店は厳しく、本だけ売っていたら書店の経営は成り立たなくなっている、という声も聞きます。また日本の何百という市町村では書店がない状態になっていて、書店がなくなるというのは文化の問題にもつながるので、その面でもサポートする必要性を感じているという話でした。

 

 出版業界では、以前からRFIDを導入すれば、書店の経営を助け、業界としても大きなメリットがあることは確認されていましたが、いくつかの理由により実現できていませんでした。そういった過去の事象も全ておしえていただき、講談社とも相談の結果、現段階では、テクノロジーの進歩等もあり、また工夫次第ではRFIDの導入が実現できることを確信したのです。

 

 そして、返本の削減のため、AIを活用し、出版物の発行部数と配本数の最適化を行うこと、また、出版社がRFIDタグを出版物に付けて、書店や流通にそれを利用して業務を効率化してもらうという2つのビジネスモデルが成り立つのではないか。われわれがそういうビジネスをやることによって、出版業界のサプライチェーンが改善できるのではないかという結論に至りました。

 

 そしてこのプロジェクトを業界全体のインフラとするために、講談社から、小学館と集英社にもお声掛けいただきました。出版社同士は通常は競合相手ですが、これらの課題は業界全体の問題で「サプライチェーンの改善はもう待ったなしだ」という共通の認識のもと、一緒にやりましょうということになりました。

 

 その後2021年5月に事業の本格検討を開始するというリリースを出し、約1年弱の検討を経て、22年3月にPubteXを設立しました。

 

「書店」「取次」「読者」 三方良しのRFID

 

――RFIDの導入によって、具体的には何が可能になりますか。

 

 まず、RFIDには非接触での通信が可能という特性があります。この特性を利用し、書架に並んでいる本、またダンボールなど包装資材の中にある複数の本のタグの情報を一括で読み取ることができます。

 

 またタグを付けた本は個体管理が可能となるので、1冊1冊の本の状況を管理することができ、本の、また出版業界のサプライチェーンを「見える化」することができます。これらの特性を生かし、業界全体のロジスティクスおよび、各プレーヤーのオペレーションの最適化、自動化、効率化、さらに書店のロス率の低下(万引きの防止、抑制など)が期待できます。

 

 現状、書店では頻繁に棚卸をすることができませんが、タグが付いていれば棚にある本をバーコードリーダーで1冊ずつ読み取る必要がないため、棚卸作業が画期的に省力化できます。

 

 また、出版社や書店が、実際に本を買った読者だけに特典を提供するなど、読者に直接還元することも可能になります。「この本をこの書店で買った人」だけをサイン会や講演会に招待するとか、雑誌に掲載されているアパレル店にその雑誌を持っていくと割引サービスを得られるようなサービスも提供することができます。

 

 出版社にはクリエイティブな方が沢山いるので、RFIDの特性を使った様々なサービスをぜひ考案してほしいと思っています。

 

 現在、万引被害の多い書店では独自に防犯タグを導入されているところも沢山あります。一方、書店業務の合理化のためにセルフレジが増えてきていますが、防犯用タグは店頭のレジのところでタグを外さなければならないため、セルフレジと防犯用タグの両立は難しいとの悩みもお聞きします。出版社がRFIDタグを付ければ、書店の防犯タグに関わるコストが大幅に節減できる上に、セルフレジとの両立も可能になるわけです。

 

大手出版社3社がコスト負担を宣言

 

――出版業界では、何度かRFIDの導入が検討され、実証実験も行われたものの、コストの問題などで導入には至りませんでした。今回、実現できるとしたら、これまでと何が変わったのでしょうか。

 

 検討されていた当時のタグは高価でしたが、近年ユニクロ等のアパレルが大量に導入を始めたこともあり、単価は以前より下がっています。また、単価の問題だけではなく、以前は業界内での「受益者負担の論理」が課題であったと認識しています。

 

 RFIDを導入する際には、サプライチェーンのなかではいろいろなメリットが創出できる一方、様々なコストが掛かります。コスト面では、タグを購入して製品に装着するという製造者(出版社)のコスト負担がいちばん大きくなります。書店や流通のほうでも、RFID導入効果は大きい一方、例えばRFIDリーダーや万引き防止ゲートのようなデバイスの購入、トレーサビリティーのためのシステム導入など費用は様々掛かりますが、全体的にはやはり出版社のコスト負担がいちばん大きく、なかなかRFIDの導入は進んできませんでした。

 

 しかしながら今回、出版3社(講談社、小学館、集英社)が、出版界全体のため、特に書店支援のためにRFIDタグ装着に関わるコスト負担を決断したことが大きいと思います。3社が、業界のインフラとしてタグを付けるので、それを利用して、書店を中心とした流通・小売の効率化や最適化、販売の拡大といったことに生かし、業界に貢献することを業界に宣言されたわけです。3社および当社は、3社以外の出版社にもこの考えにご賛同いただき、業界全体に広げたいと考えています。

 

システム上の様々な問題もクリア

 

 また、コンテンツプライバシーの問題がクリアになったことや、テクノロジーの発展も関係していると思います。

 

 20年前はクラウドの考え方がなく大量のデータを扱うにはコストが掛かりましたし、また、当時の実証実験でのレポートには、ICタグに書誌情報が入っていると、カバンの中にどんな本が入っているのか悪意の第三者から読み取られてしまうのではないか、という懸念も見られました。

 

 例えばアパレル製品であれば、値札に取り付けられたタグは着るときに全て取り外しますよね。そのため、服のサイズや性別といった詳細を読み取られることはありません。

 

 書籍も、持っている本により持ち主の思想、宗教、信条などが分かってしまう可能性があり、本の内容を他人に読み取られてしまうことに大きな懸念がありました。でも、現在の技術をもってすれば、タグ自体には書誌情報は入れずに、クラウドでタグのコードと書誌情報を照合しオペレーションを行うことが可能です。

 

 このように技術の発展や様々な工夫により、実用化を妨げるシステム上のいくつかの課題は解決できると判断をしました。

 

――すべての本にICタグが貼付されないと、効果を期待できないという意見もありますが。

 

 確かにそのようなご指摘も受けますし、事実として棚卸など100%付いているほうが効果はありますが、例えば万引き防止に関しては、すべての本にタグが入っていなくても、タグが貼付された本には万引き防止効果はありますし、全体として抑止力効果は高まると考えています。

 

 あとは、タグを付けている出版社と付けていない出版社の棚を分けるなど、いろいろな工夫が必要だとは思いますが、限定範囲での効率的な棚卸業務も可能となります。

 

 また、一部の書店からは次のようなお話もお聞きしました。「小規模な駅中・駅近店舗など、ロングテール商品を置かず、売れ筋を高回転で売るような店舗であれば、タグが付いている本だけで品揃えし、レジを無人にするなど徹底的に合理化を進めた書店も作ってみたい」と。つまりRFIDの出現により、新しいタイプの書店像も考えられるわけです。

 

 そのように、必ずしも100%貼付していない段階でも、書店に工夫していただくことで、部分的に効果的な利用を進めることができると考えています。

 

 実際に当社ショールームを見学に来られた書店のなかには、「100%付かないと効果が期待できない」とおっしゃる方も確かにいらっしゃいますが、多くの方は、「どうやって効果を出そうか」と見学中にその場で議論をされています。

 

 一方、出版社は、自社の本に全てタグを付ければ、自社の物流センター業務を効率化できますし、対応している書店との間では、個別に多様な販売条件の管理をすることなども可能になります。

 

東京・千代田区のオフィスに開設したショールーム。書店、出版社、取次関係者など多くが視察に訪れている

 

今夏から書店でのパイロット運用開始

 

――RFIDは、23年夏から実験的な運用を始め、25年に本格化するとのことですが、実施までの流れを教えてください。

 

 まず、今夏より講談社、小学館、集英社のコミックス新刊からタグの貼付を開始します。

 

 3社のコミックスは、シェアが高くて冊数も多い。また、コミックスは製本スピードが最も速く、1時間に8000冊とか1万冊を作るような製本ラインを使っているので、ここで貼付できれば、おそらく、あとはどんな製本形態でも付けられると思います。

 

 コミックスからスタートしてジャンルを順次拡大し、また3社以外の出版社とも既にいくつか相談を開始しています。

 

 タグの貼付の準備に加え、当社では出版業界にマッチするRFIDリーダー、万引防止ゲートなどのデバイス類の選定、また、タグ付きの本の「見える化」を実現するトレーサビリティーシステムの開発も行っています。

 

 3社の紹介で、当社のRFIDショールームには毎日沢山の書店、出版社の方がいらっしゃっています。

 

 またわれわれは書店、出版社の関連団体などに対してセミナー等で、業界の未来や将来の話をさせていただいており、徐々に機運が高まってきていると感じています。

 

 タグの貼付開始に合わせ、いくつかの書店にご協力いただき、「書店パイロット」の実施を検討しています。RFIDタグを付けることで、書店のオペレーションがどのように変わるのか。われわれの業務効率化等の仮説は合っているのか。またわれわれが開発しているトレーサビリティーシステムの使い勝手はどうなのか、等々を検証し、様々な必要な改善、確認を行った上で、一般の書店における本格サービスは25年の年初に開始する計画です。

 

 幸い、ショールームに来てくださる書店や、弊社のヒアリングにご協力いただいている書店などから「ぜひ書店パイロットに参加したい」との声を沢山いただいており、いろいろなタイプの店舗で23年夏から約1年半かけてトライアルを行う予定です。

 

 またそのパイロットの期間中に、3社以外にもできるだけ多くの出版社にご賛同いただき、25年のサービスインの際にはできる限り本のタグ貼付率を上げ、ご利用いただく書店に高い効果を上げられるようにしたいと考えています。

 

「書店経営をサポートする」 は出版社の一致した考え

 

――RFIDの導入は、「書店経営をサポートする」ことが大きなテーマですか。

 

 その通りです。出版サプライチェーンに関連する各プレーヤーの業務にプラスになることは明らかですが、RFIDの導入は特に書店経営をサポートすると考えられますので、出版社は特に真剣に取り組んでいます。

 

 紙の出版物に関しては、作家がいて、出版社がいて、販売会社がいて、書店がいて、読者がいる。そして今、書店の存続が本当に問題になっていて、ここが抜け落ちると、全体が立ち行かなくなってしまいます。

 

 電子書籍や映像、ライツといったビジネスも、もともとは紙の本から発展したものが多く、そのコンテンツの源流たる紙の本と読者が出会う最大の場は書店なのです。

 

 ですから、その接点がなくなるということに、出版社はビジネスとして非常に危機感を持っています。紙の本が読者の目に触れるポイントである書店をサポートするというのは、紙出版物以外のビジネスも含めて重要なのです。これは、株主出版社の一致した考えだと思います。

 

 書店経営をサポートするためにわれわれは出版社とともに、書店業務の効率化、商品ロスの低減、つまり万引の抑制・防止、またRFIDが個体管理に向いているという特性を生かし、より柔軟な販売条件の設定等が可能となるRFIDの基盤を提供します。

 

――販売会社の反応は、どんな感じですか。

 

 販売会社とも既にお話をさせていただいていて、基本的には前向きな反応をいただいています。本格的に彼らのマテハンを含めたシステムを刷新するとすれば相当な時間とコストが掛かると思いますが、まずは、RFIDタグを使って部分的にでも業務を効率化できるところから導入を検討いただければと思います。

 

 また、各社が経営されている書店でぜひRFIDを導入したいというご要望もいただいています。

 

丸紅にも可能性大きなビジネス

 

――丸紅にとっての収益や、この事業によるメリットは、どういったところにあるのでしょうか。

 

 AI発行・配本サービスの顧客は出版社ですが、彼らにメリットがなかったら、このサービスは使わないわけです。また、メリットはどこから出るかというと、冒頭でお話しした返本による経済的損失である2400億円を削減した部分です。仮に2割削減できたとしたら480億円の原資が出てくるわけで、事業メリットは十分あると考えています。

 

 一方、RFIDのほうも、最初はたぶん苦労すると思うのですが、われわれが業界標準となるようなRFIDの基盤を開発し、それを日本中の書店が使ってくれるようになれば、安定したビジネスになると考えています。

 

 また、丸紅としては、出版社という長年のお客さまの課題を解決するビジネスであり、同時に社会課題の解決にもつながるビジネスだと捉えています。AI発行・配本により返本が削減できれば、その輸送に関わるCO2削減につながり、また紙資源の効率的な活用にも貢献できると考えています。

 

 このようなグリーンビジネスは社会課題を解決し、われわれとしても、丸紅グループとしても、この事業の意義はいろいろな面で大きいのではないかと感じています。

 

AIによる発行・配本推奨サービスを先行

 

――商社では出資・投資の基準が厳しいということですが、本格的なRFIDのスタートが25年では、収益化までの時間が長すぎませんか。

 

 そうでもありません。例えば、大手出版社3社をはじめとして、あと複数の出版社に参加いただければ、コミックスであればシェアはかなり高まります。新刊に続き重版分にもタグを装着していきますので、タグの販売量もかなりのボリュームとなります。

 

 また、RFIDの推進と同時に、それに先立つ23年4月からは、AIによって発行・配本の推奨値を出すサービスを一部開始します。これから出す新刊の書誌情報と、われわれが出版業界から集めたビッグデータに基づいて、書店1店舗1店舗で何冊くらい売れるという需要予測をします。

 

 その各書店の需要予測の総計が需要予測上の総必要部数ということになりますが、出版業界のサプライチェーン上には様々な制約条件があり、例えば出版社、書店の安全在庫や、重版の場合の発行リードタイムなどを、われわれの計画系のシステムで再計算し、発行数、配本数の推奨値を出版社に提供します。

 

 出版社は、その数字をそのまま受け入れるケースもあれば、もちろんそうではないものもあるでしょう。例えば、われわれが過去のデータから科学的には3万5000部だと試算しても、出版社のプロモーション戦略によっては、10万部、20万部と売り伸ばすものもあるはずです。われわれのシステムにデータによる解析は任せていただき、その数値を基に出版社のクリエイティブな力を思う存分発揮していただきたいと考えています。

 

 出版3社は毎月数百タイトルの新刊を出しているわけで、その発行数を決める部決業務にはかなりの労力を掛けられていると聞きます。AI発行・配本サービスによって、返本を削減しサプライチェーンを改善するだけではなく、出版社の業務量の削減にも協力させていただき、出版社には新刊のプロモーションなどのクリエイティブな業務に注力していただければと思います。

 

 このサービスはまずは今年4月から、3社でジャンルごとにスタートします。われわれが推奨値を出したあとは、その結果を分析し、出版社とは常にサービス品質の向上について一緒に考えていく予定です。AIで出した数値が良かったのか悪かったのか、もし悪かったとすれば原因は何か、などを検討し、より良いサービスにしていく考えです。

 

出版ビジネスには改善の余地が相当ある

 

――永井さんご自身は、もともと出版業界に興味はあったのでしょうか。

 

 私はもちろん本が大好きです。商社は出張が多いので、移動がとても多いのです。海外駐在をしているときは、成田空港の書店で本をガバッとまとめて買って帰りました。移動中の機内、車内、列車内など、とにかくいっぱい読んでいまして、本は大好きでした。ただ、こと仕事については、出版との関わりなど想像もしていませんでした。

 

 4年前に講談社との検討チームに入っていろいろ勉強させていただくようになると、紙出版物のサプライチェーンに関しては、これは相当、改善の余地があるビジネスだと感じました。総合商社は様々な業界のサプライチェーンに関与しており、出版社と商社が組んだら、もしかしたらうまくいくのではないかと思いました。

 

――AIやRFIDのノウハウやシステムは、丸紅でもともと使っていたり、培っていたりしたものがあったのでしょうか。

 

 サプライチェーンの効率化にAIを利用できないか、ということについてはいろいろな会社と検討をしてきました。計画系のシステムは、アメリカのo9(オーナイン)という会社のシステムを使おうと思っています。o9は世界最先端の計画系システムであり、丸紅が日本で最初に使用し、丸紅と同社は戦略提携をしています。

 

 また丸紅は過去にマイティカードという子会社でRFID事業を行っており、社内にはRFID事業のノウハウを持った人材が残っていました。当社にそれらの人材が再結集しています。

 

 RFIDに関しては、どこで誰がどういう形で、どんなタグを装着するのかというのがポイントです。タグについては、今回われわれが出版社の使用するタグをまとめて買い付けます。株主出版社3社の発行総数を考えると、タグは年間で数億枚になるわけですので、おそらく世界的にもかなり安価にタグを調達できるのではないかと思います。このタグを製本会社の製造ラインで機械的に取り付けていくことを考えています。

 

――詳しいお話をありがとうございました。

 


永井直彦(ながい・なおひこ)氏

1963年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、1986年丸紅入社。丸紅物流、Beijing Wai-Hong Int’l Logistics.、丸紅物流企画営業部部長兼丸紅ロジスティクス非常勤取締役、丸紅情報・不動産本部本部長付部長を経て2022年3月よりPubteX代表取締役社長執行役員