【2023年新春インタビュー】熊本日日新聞社・ 河村邦比児社長 「熊日」中心にビジネス展開 必要な投資続ける

2023年1月10日

 

 

 

 2022年4月で創立80周年を迎えた熊本日日新聞社は、今後事業を続けるためにデジタル事業や新規事業への取組を強めている。新たな展開を準備している電子版の状況や、社有地の活用、地域貢献としてのeスポーツ関連事業などについて、河村邦比児社長に話を聞いた。【聞き手・星野渉】

 

 

──2022年はどのような年でしたか。
 4月で創立80周年を迎えることができ、あらためて県民、読者の皆さんにお礼を申し上げました。戦前の創業期から、最近では熊本地震や大きな水害など苦労を乗り越えてこられたのは、県民、読者の皆さんの支持のおかげですし、先輩の頑張りもあったと、ありがたく思っています。

 

──用紙の値上がりなどコスト増については、どう対応されるお考えですか。

 

 用紙の値上げ要請が来ていて、折衝しているのは事実です。これは避けられない流れだと思っています。資材値上がりで一番頭が痛いのは、コストの中で大きな比重を占める紙です。それから、電気料金です。努力して使用量は減っていますが、契約の割引率が変更になって料金が大きく上がっています。まずは自分たちでできるコスト削減は何か、社員が細かいところまで目を向けて削減策を考えています。

 

 一番戒めているのは、購読者の皆さんにそれをはね返すことです。購読料値上げは考えません。まだ耐えられるし、いろいろな方策があると思っています。生活に対する購読者の負担感が強まっているなか、なるべく人々の痛みに寄り添って我慢しようと考えています。

 

 

──販売収入や広告収入が厳しいなか、新規事業への取り組みについて教えてください。

 

 購読数は逓減傾向が続いており、どうにか歯止めをかけたいと思いますが、なかなか止まらない状況です。ここに来て、諸物価高騰による経済的理由で購読をやめられる方が、少しずつ出てきています。広告も経済が冷え込んでいる影響を受けています。

 

 広告の対応では、新会社としてホームページ制作、ウェブ広告配信、映像制作の3本柱をもつ株式会社熊日デジタルを設立しました。広告に対する顧客からの要望は広がっており、単なる新聞広告の提案ではお応えできません。ウェブページやSNSでの広告配信、QRコードを使った動画配信など複合的に組み合わせ、クライアントに重層的な提案をしていきます。

 

 それから、電子版を拡充させることで、ウェブ広告だけでなくて、有料でデジタルコンテンツを展開していきたいと思っています。社内でグループ企業とも手を携えてやることを再確認しました。

 

 21年9月で夕刊を休刊しましたが、電子版はその前年12月にスタートし、21年10月には「紙プラスデジタル」を打ち出しました。新聞への信頼を県民に紙とデジタルで届ける。なおかつ、デジタルで周辺の方々にも広げていく取り組みです。

 

 そのためにいま新しい電子版を設計しているところです。現時点ではどれだけ採算に寄与するのか見えにくいですが、デジタル分野を広げていき、当社が90年、100年と続けていけるために必要な規模にすべく、みんなで知恵を出していきます。いろいろと先行しておられる同業各社にも人を派遣し、勉強させていただいています。

 

 今の電子版のIDは6万2000弱あります。ニュース、ヘッドラインを見るだけのスタンダード会員が2万6000、有料のプレミアム会員が3万6000ぐらいです。このIDを、合わせて10万まで拡大し、「熊日」を囲む輪を大きくしていきます。なおかつ、いろいろなサービスを付加して収益化することを考えているところです。

 

 ただ、これらデジタル事業も根底にあるのは新聞の質です。紙の新聞だけという意味ではなくて、私たちは総合情報産業を目指していますので、その情報に磨きをかけて、質を高くする。その「熊日」を中心に置いて、デジタルビジネスも新規事業も考えていきます。そこを目指して、必要な投資をしていくつもりです。

 

 

新規事業「小さい川も集めれば大きい川になる」

 

 

──不動産活用やイベントなどの事業の状況はどうですか。

 

 社有地の利用では、熊本市中心部の上通にあるホテル日航が入っているビル「びぷれす熊日会館」に、人と情報の交差点としてコワーキングスペース「びぷれすイノベーションスタジオ」を設けました。

 

 このビルは当社発祥の地にあり、「びぷれす」は「THE BIRTH PLACE OF THE PRESS=新聞発祥の地」の意味で、スタジオの床面積は800平方㍍あります。

 

 また、熊本駅前で熊本市が運営する「XOSS POINT.」というビジネス支援施設の業務を、当社が指定管理で受託しました。起業を志す人や事務所が欲しい人だけではなく、行政と一緒になって熊本のビジネス界に大きなうねりを起こしているという自負を持っています。

 

 それからもう一つ。いま、話題になっているeスポーツの関連事業も進めています。熊本市近郊の合志市で株式会社ハッピーブレインが高齢者と重度障害者向けにeスポーツのプレイサポートという取り組みを行っていますが、当社も提携企業として参加しています。これは事業として収益に結びつけばいいのですが、まずは地域貢献からやろうということで着手しました。スポーツイベントは、コロナ禍でできない大会もありましたが、衛生管理、感染防止に注意して、3年ぶりに再開するものが随分あります。「金栗記念熊日30キロロードレース」が含まれる「熊本城マラソン」を今年2月に開催するほか、子どもたちによる「熊日学童オリンピック大会」も復活させました。主催行事はそういう形で取り組んでいます。

 

 販売部門も物販の検討チームをつくり、販売網を多角的に活用できないかと検討しているところです。販売、広告という二つの大きな柱に匹敵する柱を作るのは難しいですが、小さい川も集めれば大きい川になるという意識を持って取り組んでいます。

 


 熊本地震からの復興で特徴的だったのは、行政や自治体から、「熊日と一緒にやりたい」「知恵を貸してくれ」という依頼が多くあったことです。熊本城の復興について市が詳細な検証記録を毎年出していますが、それも当社のストックと知識を貸してほしいと頼まれました。地震の後、当社としても何ができるか、何をしなければいけないのかを考えましたが、お役に立てていると思っています。

 

 

80周年で「熊日SDGs宣言」 マスコットキャラクターも作成

 

 

──SDGsについての取り組みは進めていますか。

 

 80周年を迎えた昨年4月1日に、紙面を通して「熊日SDGs宣言」を出しました。キャッチコピーを「人をつなぐ 地域をつなぐ 未来へつなぐ」として、新聞社が先頭に立って県内のSDGs推進の機運をつくり、企業、団体のSDGs実践を支える。そして、SDGsの理解を深め、共有し、人を育てるという取り組みを進めます。

 

 そのために、熊本県と一緒になって「くまもとSDGsアワード」を創設しました。県内でSDGsに関する先導的な取り組みをしている事業者や、地域社会に貢献する取り組みをしている個人・団体を表彰して、県の取り組みの進化と質的向上を目指しています。昨年12月中旬に受賞者を決め、表彰いたしました。

 

 実は、当社のマスコットキャラクター「ぷれすけ」を、SDGsの目標17色にした襟章を作りました。いま私もつけていますし、皆さんにもお渡ししています。

 

マスコットキャラクター「ぷれすけ」

 

 

先輩の経験引き継ぐ「新聞塾」

 

 

──人材確保と育成についてはいかがですか。

 

 社員からも、人材育成や能力開発のための研修などを会社として用意してほしいという要望があります。一方で、独自に能力アップ、知識を得る動きをしている社員もいます。もちろん会社が研修制度や講習を用意すべきなのは当然ですが、社員のやる気を大事にして、個々の取り組みも可能なものはバックアップし、うまくミックスできないかと思っています。

 

 会社として行っている研修制度としては、デスク以上の管理職になったときに受ける研修があります。単なる座学ではなくて、専門家に来ていただいて、部下に対する姿勢など、指導で悩んだりするケースもあるので実践的に教えてもらいます。そういう研修には力を入れています。

 

 それから、16年に菊池寛賞を受賞したのを機に、記者教育の原点に立ち返ろうということで「新聞塾」を立ち上げました。受賞の理由にもなった水俣病、ハンセン病、オウム真理教問題、熊本地震などの取材に、先輩記者たちがどう臨んだのかを、新しい社員に引き継いでいきたいと考えて始めました。

 

 具体的には、新入社員、あるいは2年、3年目ぐらいまでの社員が、現地に行って先輩から話を聞くといったことに主眼を置いています。当初の狙いどおり、新聞の体力をつくり、それを強靱なものにしたいと思っています。

 

──違う分野から中途採用されることはあるのですか。

 

 中途採用は行っていますが、別業種からの採用はまだあまりありません。ただ、目線を変えることは大事ですし、デジタルの専門知識を持った人を入れてほしいという声は、社員からも出ています。これは当然、やらなきゃいけないと思っています。ただ、専門知識を持った人が来れば安心するのではなくて、いまの社員たちも知識を得る努力をしてほしいと話しています。

 

 

TSMCの工場建設に期待

 

 

──80周年を迎えた昨年で、一押しの出来事は何でしたか。

 

 80周年記念事業として、eスポーツに関連して地方創生をテーマにしたシンポジウム「eスポーツで描く地方の未来~POWER of eSPORTS~」を開催しましたが、元総務大臣の片山善博さんが「新聞社がここまでやるのか」と驚かれるぐらい、内容のあるシンポジウムになりました。

 

 それから、熊本出身でヤクルトスワローズの村上宗隆選手が三冠王を取ったので、当社の新聞博物館に展示室をつくり、高校時代に指導された監督さんから、当時のユニホームやバットを提供していただきました。これは非常に関心を集めています。

 

 また、半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、熊本市の隣、菊陽町に今年完成予定で熊本工場を建設することを発表しました。多くの周辺企業も来ますし、町が一変するほどの開発が進んでいます。

 

 1700人の雇用が生まれますが、建設工事を含めれば4000~5000人ぐらいが現地に来ています。ここが起爆剤になって、1、2年で熊本が一変するのではないかと見られています。もちろん、新聞社としてさまざまな影響に目配せは欠かせませんが、県庁、自治体と一緒になって、地域振興に役立つ貢献をしたいという視点で協議しているところです。

 

 

阿蘇の絶景で気分転換

 

 

──趣味や休日の過ごし方を教えてください。

 

 私の趣味は居合道です。高校のときは弓道をやり、大学から居合道を始めました。それから、下手の横好きではありませんが俳句を詠んだり、茶道も25年ぐらい続けています。以前は、肥後古流という、細川家由来の点前をやっていましたが、いまは表千家の支部長を仰せつかっています。このところ、膝を痛めて椅子で茶会に出ていますが。

 

 私はじっとしていられる性格じゃないものですから、休日は妻と一緒が多いですが、絶えず車でどこかに行っています。1週間ごとにTSMCの工事の状況を見に行ったり、新聞でどこが名物だと紹介されれば、そこへ行ってみたり。以前は、重大事件があったりすると、その現場を見に行ったりして、みんなから笑われました。

 

 車で1時間も行けば阿蘇山もあります。南阿蘇のほうに足を延ばして、雄大な景色見て、気分を切り替えたりしています。

 

──ありがとうございました。