トーハンは3月20日から、東京・世田谷にあるトーハングループの山下書店世田谷店で、従来は営業時間外だった夜間や早朝の時間帯も無人で営業する実証実験を始めた。入店管理・キャッシュレス決済には、株式会社Nebraskaが開発した「MUJIN書店」システムを利用している。無人化実験のスタート後、約1週間という短い期間にも関わらず、「MUJIN書店」会員登録者数が約300人、売り上げ前年比も21・0ポイントの増収効果があるなど、好調なすべり出しとなっている。【増田朋】
山下書店世田谷店は、東急世田谷線「松陰神社前」駅から徒歩1分にある。駅から降りてすぐ、商店街の入口付近に位置し、駅利用者や買い物客など人通りもある。斜め向かいのコンビニも24時間営業している。1階店舗で約30坪。従来は有人で午前10時から午後9時まで営業していた。
今回、これまで営業時間外だった夜間や早朝の無人営業を可能とすることで、読者の利便性を高めて売り上げの拡大をはかることが目的。また、有人と無人をハイブリッドに組み合わせた24時間営業モデルを実験することで、「書店の新たな営業形態を構築し、小売店としての可能性を追求する」ことを目指す。
19時に閉店したあとは、「MUJIN書店」を利用していつでも入店できる。初めて利用する人は、店舗入口付近に設置されている液晶パネルに掲出されているQRコードを読み込み、山下書店世田谷店のLINE公式アカウントを友だち追加。あっという間に認証され、電子ロックが解錠されて入店できる。無人の店内で好きな本を選び、入口付近に置かれたセルフレジで、キャッシュレスで会計する。購買履歴などはLINEに残る。退出時は解錠操作はいらず、退店後は再び自動でロックされる。
夜間や早朝は無人のため万引の懸念もあるが、店舗の前面をガラス張りにリニューアル。外から店舗内が見通せるように工夫している。また、防犯カメラを設置しているとともに、入店にはLINE認証が必要なため、個人が特定しやすいことなどが防犯の役目を果たすと考えている。
3月20日の午後7時から無人化の実験を始めた。営業時間は有人営業が午前10時から午後7時まで、無人営業が午後7時から翌朝の午前10時まで。実験期間は7月31日までの予定。
「MUJIN書店」のシステムを活用
トーハンによると、スタートした20日から25日までの間、入場時に必要な「MUJIN書店」の会員登録者数は288人。前年と売り上げを比べると、24時間の通しの売り上げは116・5%で「まずは幸先が良いスタートとなっている」との見方を示している。
Nebraska代表取締役(共同代表)の藤本豊氏と横山卓哉氏によると、もともと2人とも読書好きということもあったが、リアル書店がどんどん減っていく近年の状況を憂い、「人生を豊かにしてくれた書店を街から消したくない」との思いで、2021年8月に法人を設立。持続可能な次世代書店を目指す無人営業化ソリューション「MUJIN書店」の開発をしてきた。
また、今回の「MUJIN書店」のシステムにかかる費用が大きすぎると、書店への導入が進まないと考え、「無人化」といっても過剰な品質のシステムを作るのではなく、必要な機能だけをしっかりと提供することを心がけたという。そのため、QRコードを読み込み自動ロックを解錠するシステム、セルフレジのシステム、LINEで購買履歴が見られるシステムが「MUJIN書店」の主なセットとしている。
スーパーブックスの中村大輔代表取締役専務は、「商店街のなかで営業しているような書店を維持していく。地域の人たちのよりどころになる場所を残したい」と今回の取り組みの理由を説明する。そのため、「リニューアルにそれほどコストをかけず、従来のお店のポテンシャルを生かすことができる『MUJIN書店』のシステムは魅力的。この場所も夜間、早朝とそれほど人通りが多いわけではないが、すでに売り上げへのメリットも出ているし、こういった現実的な場所で実験をすることに意味がある。いろいろな検証結果を得て、次につなげたい」と期待している。