電子出版流通を手がけるモバイルブック・ジェーピー(MBJ、本社・東京都千代田区)は、新たに2つのサービスの準備を進めている。それは電子献本、そして絵本のサブスクリプション「えほんのはこ」だ。
電子で献本の効率化
出版社が毎月多数の出版物を刊行しているなかで、1点ごとの献本も著者や関係者、PRのためなど、多岐・多数にわたる。数十~数百件の発送に伴って発生する人件費等のコストも、決して軽くはない負担だろう。「URLによる献本は、コスト削減になるはずです」と、サービス企画開発部・鈴木乾也氏は語る。
鈴木氏は現状の献本の課題を、①印刷・郵送に伴う制作・配送コスト、②送付先管理、梱包・郵送作業の人的コスト、③送付先が閲覧しているかわからない(有効媒体を把握できない)、とする。さらに、コロナ禍においては在宅勤務の常態化などによって開封率も低下しているのではないか、とのこと。事実、複数の出版社からこれらの理由によって電子書籍専用の商品も含めた献本の相談を受け、それがサービス検討のきっかけとなったという。8~9月に本格的なサービス提供の開始をめざす。
電子書籍フォーマットは既存の「EPUB」を使用。あらためて献本版を作成する必要はない。また、出版物を登録・発行したURLはブラウザで閲覧。登録不要で献本された側が通常使用しているブラウザでそのまま読めるため、よけいな負担もない。
献本する出版社側にとっても、 URLをメールで送付するだけなので発送の手間を大幅に圧縮することが可能だ。発送後の未着・住所不備といったことで返送されてくる献本も往々にして発生するものだが、その再発送等を行う手間もかからない。
また、電子献本ならではの特性として、アクセス制御・集計が挙げられるだろう。関係者以外への流出を防ぐとともに、献本の有効性の検証にも役立つ。PRの強化を図る際、より訴求力のある業者・個人へのフォーカスを可能にするのではないだろうか。
従来の献本との併行利用を想定
先述したような利便性をもつ電子献本だが、従来の献本がすべてなくなるとは思わない、と鈴木氏は語る。「弊社ではコミックの取り扱いが圧倒的多数ですが、著者をはじめとして紙の本(印刷された現物)が欲しいというニーズは決してなくならない」と見込んでいるそう。現物と電子版を併用し、どのような割合で使い分けるのか。それは社あるいは出版物ごとに、特性・傾向を踏まえて設定すれば良いという。
料金体系に関しては現在検討中。URLの発行数に応じた段階的な料金設定(月〇件まで×万円)となる可能性が高いようだ。
文字物や雑誌も今後増えていくことは予想されるものの、まずは電子書籍の大多数を占めるコミックを出している出版社に、サービス導入を検討してほしいという。「自由に、手軽に使っていただきたいですね。出版社にとって、きっと有益なサービスになると思います」とMBJでは期待を寄せている。
絵本のサブスク「えほんのはこ」
電子書籍はコミックが大半を占めているが、MBJは絵本に特化し、スマートフォンやタブレットのアプリで絵本を閲覧できるサブスクリプションとして新たなサービスを立ち上げた。それが「えほんのはこ」(月額1980円)だ。コロナ禍によって公共図書館の利用が減ったこと、その一方で電子図書館の普及が進んだことがきっかけだったという。出版営業開発部・福原弘之部長は「せっかく良質な絵本コンテンツが出ているのに、まだ利用している方はごく一部」だと語る。
このサービスに限ったことではないが、 MBJが大日本印刷(DNP)グループであることは大きな強みだろう。同じグループ傘下の図書館流通センター(TRC)は全国の公共図書館への図書納入で圧倒的なシェアをもち、また昨今の情勢に伴って電子図書館サービスの導入も積極的に行っている。
MBJの集計によると、電子図書館の貸出数ランキングで上位の多くが絵本・児童書だという。保護者が子どもに絵本を読み聞かせたり、家事をしている間に絵本を見せたり、といった形で利用されているのではないか、とする。そこにサブスクリプションを導入できれば、ユーザーである図書館側にとっても大きな利点となる。TRCとは協議を重ねつつシステムを構築、既にiOS版を提供開始、今後アンドロイド版も開始するという。
電子図書館での利用に加え、将来的には幼稚園や保育園など幼児・児童関係の施設への導入を見込む。またこの価格であれば月2~3冊読めば十分見合うと考える個人の利用も見込めるのではないだろうか。
絵本を刊行している出版社とも、順次協議を進行中。月刊スタイルでの定期配本システムを導入している出版社の場合は、販売代理店との契約があるため若干権利許諾関係が複雑になる。しかし著者・出版社とも、電子版への要望は決して少なくないという。定期配本と「えほんのはこ」で同じタイトルを扱う場合も、きちんとライセンス料をバックすることで両立は可能だと見込んでいる。
また、「えほんのはこ」のロゴデザインを手がけた絵本作家・五味太郎氏は、今年1月に偕成社刊行の作品がデジタル化された。今後も多くの出版社・著者の作品が続々デジタル化されていくに違いない。
絵本のデジタル化による可能性
福原部長は「えほんのはこ」によって展開する可能性として、①絶版・品切れタイトルの復刻、②市場が限定される「月刊絵本」をデジタル化でオープンな市場に展開、③新人作家のデビューの契機、さらに④世界への配信を見越した海外出版社へのプロモーション、を挙げる。
特に③でデビューの場を用意することの意味は、今後の出版文化にとっても大きなものがあるのではないだろうか。
フォーマットおよびビューアは献本サービスと同様、EPUBおよびセルシスのビューアを使用。出版社にとってもユーザーにとっても簡便な形をとっている。
デジタルならではの特性としては、①ひとつのコンテンツの多角的展開(電子図書館での利用・PODによる販売/音声付、読み聞かせなどリッチコンテンツの展開/ライトアニメーションによるコンテンツの映像化)、②英語をはじめ多言語化による世界への配信、などがある。
既にライトアニメーションは、DNPとTRCが共同で朝日新聞出版『週刊マンガ日本史 改訂版』シリーズ全6巻を映像化し、6月より電子図書館用コンテンツとして販売中。多言語化も、絵本は文章量が比較的少なく翻訳版、並びにナレーション作成へのハードルは低い、とする。こうしたコンテンツはさらに拡大が見込まれ、「えほんのはこ」での提供もその一助となるはずだ。
福原部長はサービス展開の意義を「電書化が遅れていると言われる絵本ジャンルにおいて、このサービスを展開することで電子版の普及を後押しできれば。そしてマンガだけでなく絵本に特化して電子書籍を楽しんでいただけるユーザーの開拓にも繋げていきたい」と語る。デジタル化、そしてサブスクリプションについて、今後の伸びしろが期待できることは間違いない。
詳細および問合せは「えほんのはこ」サイトへ。
株式会社モバイルブック・ジェーピー(MobileBook.jp Inc.)
所在地:〒101-0051東京都千代田区神田神保町3-2-3 Daiwa神保町3丁目ビル6F
代表者:小林 亨
設 立:2005年1月5日
資本金:1億円