愛媛県松山市でNIE全国大会 紙の新聞の良さ伝えながら、デジタル活用を探る

2023年8月4日

 

二日間で約1200人が参加したNIE全国大会松山大会

 

 日本新聞協会は8月3、4日、第28回NIE全国大会松山大会(愛媛新聞社主管)を松山市の愛媛県県民文化会館で開催した。二日間で教育関係者950人、新聞関係者250人、計1200人が参加。「ICTでひらくNEI新時代」を大会スローガンに、パネルディスカッションや公開授業、実践発表などを通して、紙の新聞の良さを伝えながら、デジタルも活用した新たなNIE像を探った。

 

 開会式の冒頭、新聞協会・中村史郎会長(朝日新聞社社長)があいさつ。「生成AIがあらゆる業種で世界的に注目を集めているが、こと教育の現場では生成AIの利活用は細心の注意が必要だと考える。民主主義は一人ひとりが自ら考え、意思決定し、主体的に参加することによって成り立つ。生成AIによって考える機会を奪われ、思考力を奪われた人々の社会は、豊かになるどころか空虚なものになってしまうのではないだろうか」と指摘。

 

 そのうえで、「未来を生きる子どもたちには多くの経験や知識をもとに自分の頭でしっかりと考える習慣を身につけてほしい。それこそが前例にとらわれず、時勢に流されることなく、困難な状況も乗り越えていく力になると思う。そうした力を子どもたちが身につけるために、新聞は最適な学習材だ」と改めて訴えた。

 

 愛媛新聞社の土居英雄社長も「松山大会は愛媛で初めて開く全国大会となる。最近は社会のデジタル化がめざましく、文部科学省のGIGAスクール構想により、学校のICT化も一気に進んだ。新聞各社はICTを使ったNIEにも力を入れている」と説明。

 

 同社では一昨年、児童生徒向けニュースを日々配信し、記事検索で調べ学習もできる教育サイト「愛媛新聞forスタディ」を立ち上げ、現在は愛媛県内の全市町の学校で活用されていることにも触れながら、松山大会のプログラムを紹介した。

 

 初日の全体会では、俳人・夏井いつきさんが「いのちを守る ことばを育てる」をテーマに記念講演。続いて、パネルディスカッション「ICTでひらくNIE新時代」を開き、地元の教育関係者、児童、新聞関係者らが登壇し、ICT機器導入による学校現場の変化や、紙とデジタルのバランスなどについて、活発に意見が交わされた。

 

 来年の第29回全国大会は京都で開かれる。地元の京都新聞社・大西祐資社長があいさつし、京都で初めてとなる全国大会を来年8月1、2日に開催することを発表。大会スローガンは「探究と対話を深めるNIE デジタル・多様性社会の学びに生かす」。大西社長は「デジタル化が進む現代社会においても、新聞が生涯にわたって役立つものであると理解していただき、改めて気がついていただく、大会にしたい」と多くの参加を呼びかけた。

 

 4日の分科会は、愛媛県内の小・中・高校や特別支援学校計15校が、新聞記事を活用した公開授業や実践発表を行った。(松山大会の模様は後日詳報します)

 

 

中村会長

 

日本新聞協会・中村史郎会長あいさつ


 昨今、デジタル技術の発展にはめざましいものがある。とりわけ、あらゆる業種で世界的に注目を集めているのが生成AIだ。昨年秋に公開されたチャットGPTは数カ月で急速に普及し、世界中で多くの人々が業務の効率化や生産性の向上のための便利なツールとして使用している。

 

 新たな技術は、社会にチャンスと脅威をもたらすのが常だ。生成AIにより仕事の効率化が今後一層進展していく可能性がある。ただ、こと教育の現場では生成AIの利活用は細心の注意が必要だと考える。民主主義は一人ひとりが自ら考え、意思決定し、主体的に参加することによって成り立つ。生成AIによって考える機会を奪われ、思考力を奪われた人々の社会は、豊かになるどころか空虚なものになってしまうのではないだろうか。

 

 未来を生きる子どもたちには多くの経験や知識をもとに自分の頭でしっかりと考える習慣を身につけてほしい。それこそが前例にとらわれず、時勢に流されることなく、困難な状況も乗り越えていく力になると思う。

 

 そうした力を子どもたちが身につけるために、新聞は最適な学習材だ。政治、経済、事件、事故からスポーツ、文化まであらゆる分野の情報を網羅する新聞を読むことで、子どもたちは世の中のさまざまな事象を疑似体験し、学ぶことができる。しかも、新聞は複数の人のチェックを経て初めて人々に届く高い信頼性を持つ媒体だ。新聞の多様で確かな情報に日々触れることで、自ら考え、判断し、行動する力を子どもたちが身につけ、より良い民主主義の担い手に育っていくことを確信している。

 

 本大会のスローガンは「ICTでひらくNIE新時代」だ。パネルディスカッションでは紙の新聞の良さを伝えながら、デジタルを活用したNIE像を皆さんととともに探りたいと思う。新聞社が提供する質の高い情報を基盤とし、紙とデジタルをベストミックスさせた学びのあり方を、教育界と新聞界でともに考えていきたい。

 

 明日の分科会では小・中・高校と特別支援学校の先生方による公開授業や実践発表、ミニパネルディスカッション、ワークショップなど多彩なプログラムを用意している。皆さんにNIE実践の新たな可能性を見いだすヒントとなれば幸いだ。

 

 

土居社長

 

愛媛新聞社・土居英雄社長あいさつ

 

 47都道府県すべてから参加の申し込みがあったが、台風6号により、沖縄県から参加される方々に影響が生じた。被害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げる。

 

 新聞を教材として活用するNIEは米国で生まれ、日本新聞協会や教育関係者の尽力で日本でも1980年代から推進活動が本格化した。愛媛では80年代末に愛媛新聞社と愛媛県教育委員会などが推進組織をつくって活動を始め、新聞協会がNIE実践指定校を制度化した1996年には全国紙の支局長も参加する現在の形の愛媛県NIE推進協議会がスタートした。松山大会は愛媛で初めて開く全国大会となる。

 

 最近は社会のデジタル化がめざましく、文部科学省のGIGAスクール構想により学校ののICT化も一気に進んだ。新聞各社はICTを使ったNIEにも力を入れている。こうした流れを受けて、今大会のスローガンは「ICTでひらくNIE新時代」とした。真偽ないまぜの情報があふれるインターネット社会で、新聞・通信社が発信する情報の正確性や有用性を知ってもらうとともに、紙の新聞との接点の少ない子どもたちにもICTを通して、新聞のすばらしさに目を向け、「生きる力」を育んでほしいとの願いを込めたものだ。

 

 愛媛新聞社は一昨年、児童生徒向けニュースを日々配信し、記事検索で調べ学習もできる教育サイト「愛媛新聞forスタディ」を立ち上げ、現在は愛媛県内の全市町の学校で活用いただいている。

 

 松山大会では、社会に開かれた教育課程の実現という新学習指導要領の理念を踏まえたうえで、ICTによるNIEをテーマにしたパネルディスカッションを行うほか、主権者教育、防災教育、郷土学習などでのNIEの実践状況を愛媛の先生方に紹介していただく。

 

 松山市は近代俳句の創始者と言われる正岡子規のふるさとであり、学校でも句作が取り入れられている。記念講演は愛媛の中学校で教壇に立った経験を持ち、愛媛新聞の子ども俳句欄などの選者を長年務めるほか、近年はテレビで大活躍中の俳人・夏井いつきさんにお願いしている。新聞紙面から季語や単語を選び、他は黒く塗りつぶして俳句をつくる松山発祥の「クロヌリハイク」のワークショップも用意した。NIE全国大会の目的として、先生方の交流に加え、新聞関係者との情報交換の場の提供がうたわれている。今回、コロナ禍で途絶えていた交流の場を4年ぶりに復活させ、初めての試みとして茶話会形式とした。