記念講演
俳人・夏井いつきさん「新聞の強み上手く活用を」
初日の全体会では、夏井いつき氏(松山市出身、俳句集団「いつき組」組長)が「いのちを守る ことばを育てる」をテーマに記念講演を行った。
「もともとは国語の教員をしていたが、ひょんなことから俳人に転職し、全国の小中高校、大学で俳句を教え始めた。今は俳句の『種』をまく活動を続けている」と自身の活動について紹介した。
また、「生成AIとともに生きていかなければならない時代になった。そんな中で、私たち人間の強みは『生々しい身体感覚』だ。それを培っていくことは、命を守ることにもつながっていく」と語り、「例えば、ウクライナでの戦争で毎日、ニュース映像が流れるが、その映像で欠落しているのは『におい』や『肌触り』だ。戦争の現場にどんなにおいがあるのか、生々しく想像する力を持つことが、命を守ることにつながっていく」との思いを語った。
最後に、「新聞にもエールを送りたい。今の時代、スピードではインターネットに敵わない。だが、紙の新聞には『モノ』としての存在感、手触り感がある。それだけでなく、物事をゆっくりと考えることができる果てしない時間、無限の可能性がこの『モノ』の中にはある。そういった新聞の強みは、100年後も無くなってはいけないと考えている。そういった新聞の強みを理解したうえで、先生たちも上手に活用してほしい」と呼びかけた。
分科会
新聞社の最新デジタル教材を紹介
2日目の分科会では、愛媛県内の小中高校や特別支援学校の計15校による公開授業、実践発表が行われた。特別分科会として「タブレットでNIE~新聞社のデジタル教材最前線~」もあり、新聞3社とNIEアドバイザーの教員が今後の課題や展望について意見を交わした。
新聞社からは、朝日新聞社の白銀泰氏(CSR推進部NIE事務局長)、北海道新聞社の仁木琢磨氏(みらい教育推進室部長)、愛媛新聞社の中井寛氏(総務企画局次長兼地域ラボ推進室長)が登壇。
朝日新聞社は「朝日新聞デジタル」「朝日けんさくくん」「朝日小学生新聞 デジタルforスクール」「朝日中高生新聞 デジタルforスクール」──、北海道新聞社は「まなbell」「まなvi」──、愛媛新聞社は「愛媛新聞forスタディ」──といったデジタル教材をそれぞれ詳しく紹介した。
これらを受けて、今治市立近見中学校の津吉優樹教諭は「教育現場では、限られた時間でいかに効率よく授業を進めていけるかを考えたとき、紙もデジタルも使う側が、それぞれのメリット、デメリットを理解することが大事になる。それと同時に、児童生徒もそれを知っておかなければならない。それが情報活用能力にもつながる」との考えを示した。
そのほか、新聞記事の文字を塗りつぶして俳句に仕立てる「クロヌリハイク」のワークショップも開かれた。考案者の黒田マキさん(愛媛新聞エリアサービス石井南所長)らが講師を務め、①紙面から季語を探す②季語をもとに俳句になりそうなフレーズを探す③俳句になる文字を選ぶ④俳句以外の文字をていねいに塗りつぶす──といった手順を説明。参加者はペンを手に黙々と作業し、発表会で作品を発表した。
閉会式
「NIEの『種』を各所で大きく育ててほしい」
閉会式で、松山大会実行委員会・馬越吉章会長(愛媛県小中学校長会会長)は「NIEとICTの両輪で、双方の強みや長所を生かしながら、前に進むべき時代だ。分科会には200人余の児童生徒が参加した。新聞を素材としてデジタルコンテンツを活用しながら、外部と双方向のやりとりをする。ICTならではの授業もあり、まさに『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けて、NIEの横の広がりも見ていただくことができた。多様なNIEの実践事例を持ち帰って、今後の活動に役立ててほしい」と締めくくった。
最後に、日本新聞協会・佐伯聡士NIE委員会委員長(読売新聞東京本社)があいさつ。「松山大会では、紙の新聞にデジタルの良いところを組み合わせることで、より教育に貢献できることを見ていただけた。この二日間で得た発見や学び、気づきを生かして、デジタル機器に慣れ親しむ児童生徒に向けた新しいNIEの価値を模索してほしい」と語ったうえで、「児童生徒が今後、主権者として自分たちの社会をより良く変えていくため、一人ひとりができることは何か。新聞にはそのヒントがたくさん詰まっている。新聞を通じて社会とつながり、課題解決に向けて思考することができる大人へと成長してほしい。今回まかれたNIEの『種』をそれぞれの場所で、大きく育てていただきたい」と呼びかけた。