雑誌DXを泥臭く推進する「コミチ+」 導入と閲覧実績が大きく伸長

2023年9月26日

 コミチ(東京都千代田区)は、個人向けマンガ投稿・販売サイト「コミチ」並びに出版社・ウェブトゥーンスタジオ向けWebマンガ雑誌制作システム「コミチ+」とその運用支援を提供している。

 

 

 

 

 特に「コミチ+」での媒体・作品のブランディングや運用支援体制、SaaSサービスが好調で、「コミチ+」の前身となった「ヤンマガWeb」は運用1年でWAU(週間アクティブユーザー数)100万・MAU(月間アクティブユーザー数)200万を達成。また、今年3月には秋田書店「ヤンチャン Web」の運用を開始。ちょうど単行本発売のタイミングと重なった、佐賀崎しげる・鍋島テツヒロ原作、乍藤和樹漫画『片田舎のおっさん、剣聖になる~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放っておいてくれない件~』のキャンペーンを展開し、もともと人気タイトルではあったが、更に押し上げた。

 

 8月には「マンガBANGコミックス」の運用を開始し、今年中にさらに複数誌の開始が決まっているという。また、萬田大作代表取締役社長が「専門誌」と呼ぶ媒体も好調で、「ベストカーWeb」は4年間の開発・運用支援で月間1億PVを達成している。

 

 

 

 

Web雑誌の狙いを完全サポート

 

 こうした実績から、コミチはさらに人員を増強。4月段階では役員・社員7名だったが、8月末現在で15名、業務委託と合わせて37名の体制に。1月に神保町に移転したオフィスから、来年には同じ神保町内でさらに広いオフィスへ移転する予定だ。

 

 好調の背景を萬田氏は、「低価格で雑誌Webを立ち上げて運用も担い、販促ツールとしての効果を有効に発揮させられること」とする。

 

 「コミチ+」による集客機能は、①SNSでの作品認知施策による新旧作の知名度アップ、②SEOの最適化による「Google」「Yahoo!」など検索ポータルでの上位展開、③記事・作品の自動連携による「Google News」などニュースアグリゲーターでの展開、④「ねとらぼ」などマンガ系メディアでの手動によるPRがある。それらを一つ一つ「泥臭くやっていくだけ」だという。「マンガ出版社が一番得意とするのは作品作り。そこに注力していただきたい。雑誌の運営方針、キャンペーン設定や雑誌の色をどうするのか考えていただければ、あとの運用は承ります」と強調する。

 

 

 

 

安価でスムーズな導入

 

 「コミチ+」導入は、雑誌の規模にもよるが早ければ約3カ月で運用可能に。まずは課題・要望をヒアリングし、それに見合う体制の提案を行う。SaaSシステムのため、安価な導入・運用コストも特徴だ。

 

 「マンガ雑誌の編集部が立ち上がったばかりであればシステムを作って運用するだけですので、最軽量のパッケージでのご提案をします。逆にある程度大きい、歴史のある雑誌であれば、既存の作品数と連載の本数、月間で打つキャンペーンの本数を決定し、それに合わせてこちらの体制を組みます。入稿に関してもデジタルのデータが整っているかどうかは社によって異なりますので、ケースバイケースでこちらからご提案します」という。

 

 そこで社内のGOサインが出れば、システム構築を開始。約1カ月半~2カ月の構築・約2週間~2カ月の入稿期間を経てWebのオープンとなる。

 

 

データに基づいた不断の改善

 

 

 こうした体制で好評価を得ている「コミチ+」の鍵は「マンガ愛」と「データ主義」だ、と萬田氏は語る。マンガが好きであることを大前提としつつ、常にデータに基づいた改善を図る。例えばバナーによるクリック率などを週次で分析、さらにクリック率が上がるよう修正を重ねている。作品の認知が上がれば、Web書店・実書店での売り上げに結びつく。

 

 「日本のマンガは圧倒的に面白いし、実際に海外での人気も現地で感じてきた。それを、いかにコストを抑えつつグローバルに発信できるようにするか。そういう役割を果たしていきたい」と萬田氏は意欲を語った。

 

秋田書店 人気作品を後押し、新人作家へもチャンス広げる

 

 「コミチ+」の支援で「ヤンチャンWeb」の運用を開始した秋田書店。かねて社全体として「マンガクロス」を立ち上げているが、雑誌編集部単位の宣伝用サイトはなかった、と『ヤングチャンピオン』の梅澤丈文編集長は語る。

 

 コミチへのサイト構築と運用支援を依頼するにあたって、編集部ではこれまでなかった先々までの工程を進行予定表として明確にし、コミチとのシステム導入事前準備期間で、合宿なども行い、新設されたデジタル戦略部とも協力して、さまざまな業務やデータの整備も行うことができた。

 

 

コミチ・萬田社長(右)と秋田書店・梅澤編集長

 

 

販促ツールとして単行本につなげる

 

 そのうえで、作家の売上を棄損しないこと、あくまで販促ツールとして運用し、最終的に読者には書店で単行本を購入してもらうことを重視したという。その甲斐あって、Web開始後に新しく読者が流入して重版となったタイトルが複数ある。

 

 「人気作品はさらに人気を高め、あともう少し宣伝すればもっと上に行ける作品を後押しし、Webオリジナル作品を掲載して新人作家にチャンスを作る。そういう販促ツールとしてアクセスしてもらえるサイトになりつつある」。

 

 

ヤンチャンWebトップ画面

 

 

女性読者も新たに開拓

 

 

 また、データからは従来の青年誌読者層のイメージとは異なり、相当数の女性読者のアクセスが判明。そこで編集部では「少女・女性漫画特集」や男性タレントのグラビアページ「メンズマンデー」を展開、さらなる女性読者の獲得を狙う。そして「多くの読者に喜んでもらえる面白いマンガを登場させて単行本を売り、マンガ・出版業界に貢献」することを目指している。