コロナ禍を経て、ようやく以前の状況に戻りつつある2023年は、物価高、円安の影響を大きく受けた1年となり、「生成AI」の登場が新聞、出版業界ともに大きなインパクトを与えている。そういった中で、両業界の各社が経営上の大きな判断を迫られ、実行する年になったと言っても過言ではないだろう。新聞業界の重大ニュースを紹介する。【増田朋】
「生成AI」への対応急ぐ
新たな著作権保護策の検討が喫緊の課題に
メディア業界にとって「生成AI」の登場が大きなインパクトを与えた1年だった。日本新聞協会は5月、「AIによる報道コンテンツの無断・無秩序な利用が既成事実化すれば、報道機関の経営に大きな打撃を与え、良質なニュースコンテンツを提供し続けることが困難になる可能性がある」と指摘する見解を発表。8月にも新聞・出版4団体の共同声明で著作権保護策の検討を訴えた。
また、9月にはWAN-IFRA(世界ニュース発行者協会)、新聞協会など世界の報道・メディア26団体が「世界AI原則」を発表。10月に長野県軽井沢町で開かれた新聞大会でも「AIと新聞」をテーマに話し合われた。
日本新聞協会が10月30日に出した「生成AIに関する基本的な考え方」では、「著作権者の権利保護に関する議論が不十分なまま、なし崩し的に報道コンテンツの無断使用が進んでしまう」ことを強く懸念。「政府は、データ利活用の推進ばかりに軸足を置くのではなく、権利保護の観点から、著作権法の改正を含め、技術の急速な進化に見合った適切なルール整備を急ぐべきである」と求めている。
「オリジネーター・プロファイル(OP)」
共同開発に期待広がる
安全なインターネット環境の実現を目指す新しいデジタル技術「オリジネーター・プロファイル(OP)」の共同開発が進んでいる。ネット上の記事や広告などの情報の一つ一つに、発信者の信頼性を確認できる情報をデジタル化した識別子として付与する仕組み。OP技術研究組合には10月現在、国内外の新聞社やテレビ局、広告代理店など計31法人が参加。社会実装と技術企画の国際標準化に向けた取り組みが、大きく前進している。
記事などのコンテンツが、信頼できる発信者のものであるかを識別できるようになり、フェイクニュースや悪質な広告の抑止につながると期待され、各紙の報道によると、組合では2025年の実用化を目指している。また、各紙の報道によると、この取り組みについては政府もその有効性に注目しているという。
公取委が報告書
プラットフォームと報道機関との取引実態を調査
公正取引委員会は9月、ヤフーなどのニュースプラットフォーム事業者と、ニュースプラットフォームに記事を提供する新聞社や雑誌社など、ニュースメディア企業との間の取引に関する「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」を発表した。
報告書はプラットフォーム大手が報道機関に対し優越的地位を占め、独占禁止法違反になる可能性があることを明示したうえで、プラットフォーム大手と報道機関の健全な交渉を促し、交渉力格差をただすための具体的手段も挙げた。これに対して、日本新聞協会は「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」とする報告書の趣旨を踏まえ、「ネット上の健全な言論空間を守るため、プラットフォームは報道機関と真摯に協議するよう求める」などとする見解を発表した。
新聞各社の多くが月ぎめ購読料を値上げ
日本製紙は2月、新聞用紙価格を4月1日納入分から値上げすると発表。原燃料費の高騰などを理由に、前年末にも値上げしていた。電気代の値上がりや新聞用紙代など原材料費の高騰の影響は大きく、全国紙、地方紙、地域紙の各社が月ぎめ購読料、1部売り定価の値上げに踏み切った。
その中で読売新聞社は3月25日、「読者の皆さまに正確な情報を伝え、信頼に応える新聞の使命を全うしていくため、少なくとも向こう1年間、値上げしないことに決定した」と発表した。購読料の値上げ幅は各社さまざまで、横並びから一転、各社が独自の販売戦略を進めるかたちとなっている。
夕刊を休刊する新聞社が相次ぐ
23年は長年発行を続けてきた夕刊を休刊する新聞社が相次いだ。静岡新聞社は3月末で、北海道新聞社と信濃毎日新聞社は9月末で夕刊を休刊した。いずれも原材料の高騰や輸送コストの上昇のほか、ライフスタイルの変化や、デジタル社会の進展などを理由に挙げている。各社は朝刊をボリュームアップしたり、デジタルサービスを充実させるなどして読者に理解を求めた。
また、毎日新聞社は中部本社管内(愛知、岐阜、三重の3県)の夕刊を3月末で、朝日新聞社も名古屋本社管内の夕刊を4月末で、それぞれ休刊した。
なお、夕刊とは別に『週刊朝日』(朝日新聞出版)、『Journalism(ジャーナリズム)』(朝日新聞社)『大阪日日新聞』(新日本海新聞社)といった紙媒体も休刊した。