独立系書店に、生き延びるための“ウリ”やノウハウについて話を聞く連載の第2回。ビジネスの街・日本橋室町でタロー書房を経営する取締役社長の宍戸哲郎さんに話を聞いた。【杉江しの】
ビルの1~3階から地下の1フロアへ
タロー書房は1994年3月に東京・日本橋で創業し、現在のコレド室町3が建つ場所で書店を経営していた。その後、日本橋地域の再開発で2010年に開業した商業施設コレド室町1に移転。取締役社長の宍戸哲郎さんは、八重洲ブックセンター本店で長年店長を務めたのちに、現在の店舗オープンからタロー書房の経営に携わっている。
いったんビルを立ち退き、コレド室町3開業時に入居して書店を再開することもできたが、完成まで約4年との見込みだった。当時すでに、近隣書店が店を閉めはじめており、美容院などへの外商を代わりに引き継いでいたこともあって、読書家の創業者は地域のためには「書店が必要」と判断、店を休まずに、移転・継続した。
店舗は地下1階の1フロア。売場面積は、開店時126坪だったが、14年にコレド室町2と3が開業するタイミングで14坪増床、現在は140坪で営業している。
在庫数は約8万冊、9,000万円。日本橋室町周辺には、日本銀行本店をはじめ、大手銀行や証券会社などが立ち並ぶため、販売の主軸はビジネス書かと思いきや意外にも雑誌だという。たしかに店の中心には雑誌の棚がズラッと配置されている。金額シェアでいうと、雑誌が23%、文庫が15%、コミックが5%。冊数でいえば、その3つで約5割を占める。ほかに新刊書籍と手帳、のし袋も扱う。外商では、日本銀行のほか、三井不動産、美容院などに本を販売している。
従業員は、正社員が1人、アルバイトが10人。最年少は21歳の学生で、最年長は74歳。最年長のスタッフは複数の書店を経て60代で入ったが、面接の際に「私は一生書店人でありたい」と話したという。ほかにも書店出身者が多いため商品知識のある人も多く、平均年齢は高めだ。
顧客の要望を叶える店づくり
タロー書房は、東京メトロ三越前駅改札を出てすぐの好立地に位置する。一般的に路面店は雨の日に客数が落ちるが、雨が降ると地下道の利用者が増えて客数が増加する。ふだん地上を歩く人が、雨の日に初めてタロー書房の存在に気付くこともあるという。ビジネス街のため昼間人口が多く、平日は客足が絶えない。ただ、土日の集客は厳しく、平日の7掛け程度の客数になる。
集客の工夫の一つは、「出入口を多くした」こと。店舗正面とその右側に1つ、店舗の右手にあるエスカレーターそばに1つ、コレド室町2方面へ2つの計5カ所設けられている。ガラス張りの外観と相まって開放的なつくりが特徴だ。
店舗は九州新幹線などで知られる水戸岡鋭治氏がデザイン。地下ゆえ避けられない大きな柱をデザインでカバーし、天井は高く通路は広め、正面入口から奥まで見通せるようにつくられている。地下にあることを感じさせないような開かれた空間だ。店名の“タロー”は芸術家の岡本太郎氏がデザイン。創業者が依頼したもので、店内には原画も展示されている。
売上につなげるために工夫していることは、「わかりやすい分類、見やすい陳列、接客」に尽きるという。宍戸さんは「棚との会話」を大事にしているとし、自ら毎日棚をチェックし、「地道な努力」を日々続けている。書評は、朝日・毎日・読売・東京・日経の5紙に目を通し、客に尋ねられた本がなかった場合は必ず記録し、仕入れるかどうかを検討する。「幸運の女神には前髪しかないというけれど、後ろ髪もあると願って仕入れている」と宍戸さん。
宍戸さんは今後も他業態には手を出さず本の販売に専念し、外商にさらに力を入れるとし、「本と雑誌を極めたい」と力強く宣言。同じ独立系書店に向けて、「お客さんに喜んでもらいたい、本屋を続けたいという強い思いがあれば書店は続けられる」と、エールを送った。
□所在地:中央区日本橋室町2-2-1 コレド室町1 B1
□仕入れ:日本出版販売、出版社直取引
宍戸哲郎さん
代表取締役。大学卒業後、出版社勤務を経て、1975年に鹿島出版会に入社し、商事部で企業の外商を担当。78年にオープンした鹿島グループの八重洲ブックセンター本店へ異動し、90年販売部長、96年取締役兼店長を経て顧問を務め、2008年に退職。約1年の店舗準備期間を経て10年より現職。