特殊な書籍にも対応
2012年、大阪で設立した電子書籍の制作会社「アットマーククリエイト」は、鮮明に仕上げる高い技術力にリーズナブルな価格など、出版社から評価が高く順調に受注を増やしている。高畠直美社長に会社の現状や電子化の利点など話を聞いた。【堀雅視】
培った信頼で多数の紹介
―現在、何社ほどと取引されているのですか。
常時取引をしているのは10~20社。電子化は必要に応じて依頼される社も多いので、スポットも加えて一定の出版社や自費出版の受注があります。電子化作業は私を含め5人のスタッフで進めていますが、昨年、大口の注文が入り、急遽、知人の協力や短期で募集して8人体制で対応しました。
―出版社の多くが東京ですが、支障はありませんか。
コロナ禍以降とくにそうですが、打ち合わせはオンラインが主流になりましたし、開業当初から電子化するコンテンツはデータでの授受、現物は宅配なので問題ありません。むしろ高額家賃の事務所を借りる方がリスクです。ずっと順調とは限らないので大阪で地に足をつけて仕事をしていきたいと考えています。
―前職は大手出版関連企業で営業をされていた。
丸善(現在の丸善雄松堂)の大阪支店で20年間、大学向けに学術関連書などの営業に従事していました。当時から学術書は国内外ともにデータベースや電子教材・ジャーナルなど電子化の需要を感じていました。チームリーダーの立場だったこともあり、電子化の勉強をしました。
―それらの経験がきっかけで会社を設立されたのですか。
退職してすぐではありません。他業種の営業を経験した後、新しく電子書籍制作事業を立ち上げるという会社に就職し、ここでも営業を担当しました。そこで知り合った技術系の同僚とアットマーククリエイトを設立しました。
―まだ10年と少しですが、順調な要因は。
かつて当社に依頼された出版社から評判を聞いた、という問い合わせが多くてありがたいです。
そのほか、前職の丸善も積極的にお客さん(出版社)を紹介してくれます。在職時から電子化の仕事に関わり、デジタル部門と交流がありました。また、おかげさまで営業成績も良いほうで当時は女性の営業員が珍しく、目立っていたことも応援してくれる理由にあると思います。
裁断せずスキャニング
―アットマーククリエイトに依頼する出版社から「丁寧で正確、料金もリーズナブル」と聞きます。
当社のような小さな会社は大手と同じことをやっていてはいけません。大手が断るような仕事も請け負います。例えば現物が1冊しか残っていない本でも裁断せずにスキャニングします。ほかにも旧漢字や漢文で書かれた書籍などは通常のEPUB変換が難しい。他社でもできると思いますが、手間がかかり、数をこなせないので断る社もあると聞きます。当社は梵字で書かれた仏教書の注文も引き受けます。
―裁断しないスキャンとは。
スキャナー本体の端まで原稿読み取りのガラスになっている機種を使うので、本を90度広げるだけでスキャンできます。裁断しないスキャンの欠点は影が出ることですが、当社は影も消し、ノンブルの位置も揃えます。
―そのほかの強みも教えてください。
再発売するためのテキスト抽出もします。スキャンしてOCRをかけますが、高精度のOCRシステムを活用し、人力でもチェックして修正をかけます。最後はクライアント自身の確認になりますが、再発売に向けての土台までは対応できます。
仕上がりに妥協しない
―ここまで緻密に電子化できることは広く知られているのでしょうか。
みなさん最初に紙の本をつくるときは紙質、装丁など細部にまでこだわりますが、EPUB変換になると「多少粗くてもOK」の考えになりがちです。しかし、美しく仕上げられることを知ってほしい。電子化でも妥協したくない出版社の気持ちに応えたいという気持ちで取り組んでいます。
―電子化を推進していない社にメッセージをお願いします。
電子化は紙の印刷ほどのコストはかかりません。とくに当社はリーズナブルな価格設定です。専門書など多部数の販売は難しくても出版する必要性、後世に残すべきコンテンツはあるはず。紙やインク代も高騰しているので前向きに検討してください。一度、電子データにしておくと後で紙として出版することも可能です。特殊な書籍も対応するので相談をお待ちしています。
―ありがとうございました。