2024年「本屋大賞」 宮島未奈氏『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)に 全国の書店員らに感謝伝える

2024年4月10日

 

発表会に参加した全国の書店員と記念撮影する宮島氏(中央)

 

 NPO法人本屋大賞実行委員会による2024年「本屋大賞」の発表会が4月10日、東京・港区の明治記念館で開かれ、宮島未奈氏の『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)が今年の大賞に選ばれた。発表会には全国の書店員らも多く集まり、宮島氏は「コロナ禍に作家人生が始まった私にとって、こうして多くの皆さんにお祝いしていただけることは感無量」と喜んだ。

 

 本屋大賞は年に1回、全国の書店員が一番売りたい本を投票で選んでいる。今回の対象作品は、2022年12月1日から23年11月30日の間に刊行された日本の小説。新刊を扱っている書店の店員(アルバイト、パート社員も含む)が投票に参加し、一次投票で全国530店の736人が、二次投票で342店の443人が投票した。

 

 投票結果による順位は次の通り。

 

 ▽1位=『成瀬は天下を取りにいく』(宮島未奈氏、新潮社)

 ▽2位=『水車小屋のネネ』(津村記久子氏、毎日新聞出版)

 ▽3位=『存在のすべてを』(塩田武士氏、朝日新聞出版)

 ▽4位=『スピノザの診察室』(夏川草介氏、水鈴社)

 ▽5位=『レーエンデ国物語』(多崎礼氏、講談社)

 ▽6位=『黄色い家』(川上未映子氏、中央公論新社)

 ▽7位=『リカバリー・カバヒコ』(青山美智子氏、光文社)

 ▽8位=『星を編む』(凪良ゆう氏、講談社)

 ▽9位=『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』(知念実希人氏、ライツ社)

 ▽10位=『君が手にするはずだった黄金について』(小川哲氏、新潮社)

 

浜本理事長

 

 発表会の冒頭、同実行委員会の浜本茂理事長があいさつ。「1月1日に発生した『能登半島地震』では、まだ不自由な生活を送っている被災者がいらっしゃると聞いているが、そういう時こそ本の出番だと思っている。紙の本や新聞は日の光さえあれば読むことができ、小説を読めば辛い状況をひととき忘れ、元気がわいてくる。ノミネートを含め本屋大賞に選ばれた作品が、世界中の人たちに力を与えてくれると確信している」と語った。

 

JMAM・張社長

 

 続いて、オフィシャルスポンサーを務める日本能率協会マネジメントセンターの張士洛社長もあいさつ。「今年も百花繚乱のごとく、本の花がすばらしく咲き誇っている。今回の本屋大賞に選ばれる作品も大輪の花を咲かせてくれることだろう」と期待。

 

 そのうえで、「この百花がこの場で華々しく咲き誇っているのは、作家の皆さんが心を込めて大切に作ってくれた『種』や『苗』を、全国にいる書店員の皆さんがそれぞれの書店という『ガーデン』で心を込めて育ててきてくれたからこそ、今日がある。書店という本の花が咲くガーデンで育った作品を、この心躍る発表会で皆さんと一緒に楽しみたい」と話した。

 

(左から)牧野氏、ファン氏、林氏

 

 発表会ではまず、「翻訳小説部門」の第1位をブックファースト練馬店の林香公子氏が発表。『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』(集英社)が選ばれ、著者の韓国人ファン・ボルム氏、訳を担当した牧野美加氏にトロフィーが手渡された。

 

 また、「発掘部門/超発掘本!」には『プラスティック』(井上夢人氏、講談社文庫)が選ばれた。推薦者のページ薬局・尼子慎太氏が登壇し、30年以上前に発売された同書の面白さについて熱く語った。著者の井上氏も「作家は自分の作品をできるだけ長く読んでいただきたいと願っている。この作品に光を当てていただき、このうえない喜び。作家冥利につきる」と喜んだ。

 

推薦者の尼子氏(左)と著者の井上氏

 

 本屋大賞は、山下書店世田谷店の漆原香織氏が発表。昨年の本屋大賞を受賞した凪良ゆう氏もお祝いにかけつけ、大賞の宮島氏に花束を贈った。

 

 凪良氏は「本屋大賞が始まった20年前、全国には2万店の書店があったが、10年前に1万5000店、昨年は1万店まで減ったという。私が本屋大賞の受賞のお礼に訪れた書店さんからも閉店の話を聞くことがあり、そのたびにとてもやるせない気持ちになる」と吐露。

 

 そして、「私が今あるのは書店さんのおかげ。皆さんにどんな恩返しができるのかをこの1年、出版社さんとともに考えてきた。それが本屋大賞をいただいた作家の責任だと感じているからだ。そのバトンを宮島さんと『成瀬』にお渡ししたい。きっと書店さんを盛り上げてくれるだろうと期待している。私も引き続き、書店さんを盛り上げるお手伝いができたらと思う」と思いを伝えた。

 

凪良氏(右)から宮島氏に花束が手渡された

 

 

 宮島氏の『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)は、デビュー作ながら「坪田譲治文学賞」や「静岡書店大賞」、「キノベス!2024」など数々のブックアワードを受賞。「2024年本屋大賞」受賞で14冠だという。現時点で14刷40万部突破を果たす大ヒット作となっている。続編である『成瀬は信じた道をいく』も発売中。

 

 滋賀県大津市在住の宮島氏はまず、「滋賀の皆さん見ていますか。『成瀬』が本屋大賞を獲りました」と喜びを語り、「これから本屋大賞の作家という看板を背負っていくと思うと、身が引き締まる思いだ。コロナ禍に作家人生が始まった私にとって、こうして多くの皆さんにお祝いしていただけることは感無量。こんなことになるとは本当に想像していなかった。来年の本屋大賞発表までの1年間も、私には想像できないようなことがたくさん起こるだろう。でも『成瀬』と一緒ならきっと大丈夫」と話し、大きな拍手が送られた。