日経BPと東洋経済新報社の2大ベストセラーが、書店店頭の活性化を目的に手を組んだ──。日経BPが今年1月に発行した『転換の時代を生き抜く 投資の教科書』と、東洋経済新報社が昨年10月に発行した『きみのお金は誰のため』のビジネス系の両書籍。資産形成や投資など「お金」への興味・関心が集まるなか、いずれも発売直後から好調な売れ行きを続けている。今回、両社の売れ筋書籍をコラボして大きく売り出す共同企画をスタート。4月から全国の1500書店で順次、展開している。【増田朋】
日経BP『転換の時代を生き抜く 投資の教科書』(四六判336㌻、定価1760円・税込)は、日本経済新聞の元記者で、SNSなどで多くのフォロワーを持つ後藤達也氏が書いた初めての著作。新NISA、株高、人生100年時代など、お金をとりまく環境が大きく変わるなかで、同書では現代のビジネスパーソンが備えておくべき株式市場や経済の仕組みの最新知識を分かりやすく、面白く解説している。発売から約3カ月で13万部を超え、デジタルも8000部に達している。
一方、東洋経済新報社『きみのお金は誰のため』(四六判250㌻、定価1650円・税込)は、元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学氏が書いた小説仕立てのマネー論。「いかにお金を増やすか」という資産運用の話ではなく、「お金の本質・経済のしくみ・働くことの意味」について、予備知識なしで、楽しみながら平易に学べる内容。こちらも発売前から注目を集め、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」(フライヤーなど主催)の総合グランプリにも選ばれた。3月末現在で累計18万4000部(紙・デジタルの合算)。
きっかけは著者2人の対談
きっかけは今年2月、両書の好調な売れ行きを受け、東洋経済新報社がビジネスニュースサイト「東洋経済オンライン」上で著者2人の対談を企画・実施したこと。2人の考え方は大きな部分で近しく、対談自体も面白いものになったが、「両書の読者属性が少し違うなど、それぞれの読者を奪い合うのではなく、互いを補完し、高め合えるような本であることがあらためて分かった」(東洋経済新報社出版局・桑原哲也編集第二部部長、参事)ことから、まずは日経BPの中野亜海氏(日経BOOKSユニット・第1編集部次長)らと編集サイドで、プロモーション面でもコラボできないか話し合ったという。
その後、両社のプロモーション担当者、書店営業担当者を交え、実現に向けてすぐに動き出した。全国の書店の「マネー・投資」のコーナーに、新たな定番ものとして2社の書籍を置いてもらいたいとの思いを共有。アイデアを出し合いながら、「お金に興味を持ったら読みたい2大ベストセラー!」というキャッチコピーや展開方法を決めていった。東洋経済新報社の戸谷紗友里氏(営業局営業推進部・主任)は「他の出版社と共同での販促は初めてであったため、日経BPさんのノウハウがとても参考になった」と振り返る。
日経BPは昨年7月、マガジンハウスと共同拡販企画を実施。コラボの方法はもちろん、それによる書店からの好意的な反応も得ている。「今回もそういった実績を生かせればと考えた」と日経BPの小谷佳央氏(コンシューマーマーケティングユニット・リテールマーケティング部次長・プロモーション戦略部)。「今は『新NISA』や『株高』といったお金に関する本が書店店頭でも活性化している。そういった中で、好調な売れ行きのこの2冊が組めば、書店を通してより多くの読者に訴求できる」と考えた。
東洋経済新報社の細矢萌氏(出版局書籍プロモーション部)も、「多くの人がお金の話に興味を持っているが、どの本を選べばいいか迷っている人も多い。そんな人たちにお金に関する『入門書』として2社の書籍を合わせてPRできるのは(プロモーション的にも)大きな魅力」と語る。
コラボでさらなる書店活性化を
今回の共同企画はまず、ビジネス書を多く取り扱っている書店13法人に声をかけ、4月のスタートの段階で1500書店の参加が決まっている。各書店に拡材(A4パネル、はがきサイズのPOP、お金の本に関するチャートパネル)を送付。両書が別々の棚に置かれている場合も多いため、「拡材を上手く活用いただき、ぜひ『マネー・投資』などの棚でコーナー展開を」と薦める。実施期間は特に定めていない。「お金に関する興味は今後ますます高まることが予想される。書店店頭で末永く展開していただければ」(小谷氏)と呼びかける。今から共同企画に参加したい書店も随時募集している。
4月の半ばには、今回のきっかけとなった著者2人による対談の動画、記事を「東洋経済オンライン」と日経BPのデジタルメディア「日経BOOKプラス」で配信する。合わせて、日経新聞に2社共同企画の新聞広告も掲出するほか、すでにアマゾンの商品紹介ページにも両書が並んで掲載されている。さまざまなメディアで多面的にしかけることで、書店店頭での展開を盛り上げる。
共同企画に参加する書店からの反応も良い。日経BPマーケティング・今井勇太氏(リテール営業ユニット・リテール営業第二部長兼書店外商グループマネジャー)は「お金にまつわるたくさんの本の中から、どれを薦めればいいのか。書店さんが分からなければ、読者にも伝わらない。その点で、2社がコラボしてお薦め書籍の売り方を提案することに、書店の皆さんからもポジティブな声が届いている」と話す。戸谷氏も「(今回作ったような)拡材を使って、いつもの売場や棚に分かりやすいテーマ性、物語性を持たせられるのはありがたい」という書店からの声を聞いている。
今回の共同企画を通して、日経BPの小谷氏は「書店、そしてその先の読者の皆さんに喜んでいただけることを第一に考え、今回のように上手く相乗効果や補完関係が成立するような企画ならば、コラボという形も上手く使って本の魅力を広くアピールしていきたい」との思いを強くしている。