島根県・鳥取県で書店を展開する株式会社今井書店は、このほど独自のポイント会員アプリ「BookStore」の運用を開始した。既存のPOSシステムと連動し、顧客のランク管理やキャンペーン情報のプッシュ配信などによるマーケティングで、地域顧客の囲い込みと売上拡大を目指す。また、このシステムを共同開発した光和コンピューターとともに、他の書店にも提供していく予定だ。
今井書店は両県で書店14店舗を営業しているほか、学校・図書館、職域などの外商を手掛けてきた。創業から150年を超え、山陰での知名度・信頼度は高く、これまでプラスチックカードで実施してきたポイントサービスの会員数は、地域人口の10%を超えるほどになっていた。
この蓄積を生かして、「さらにマーケティングをアップデートするため」(同社次世代システムプロジェクトPMO・榮健太氏)にアプリ開発に着手。大きな投資だが「当社のサービスや、今後発生するポイントにかかるコストは、会員基盤の育成とお客様の次なる購買のために必要な投資だと考えています」と決断した。
同社が利用している書店システム「BookAnswerIV」を提供する光和コンピューターと、ポイントやバリューを管理するウォレット「Pokepay(ポケペイ)」を提供するポケットチェンジとの共同開発により、店頭システムをセッティングすれば、POSレジでアプリ画面のバーコードを読み取るとすぐにポイント付与が始められる。3月1日から1店舗でテスト運用を始め、4月1日からは全店で始動。
あわせて「BookStore」アプリへのリード獲得と誘導のために、LINEで友達登録すると店頭在庫の紹介ができるサービスも開始した。
特定顧客・商材への特典も可能に
プラスチックカードでは会員全体を対象にしたキャンペーンしかできなかったが、アプリの導入によって、購入金額に応じて顧客を「レギュラー」「ゴールド」「プラチナ」に分けて高ランクの顧客に特典を提供するなど会員ランク管理や、キャンペーン情報の配信、特定顧客へのクーポン提供などが可能になる。
「購入金額の高いロイヤルカスタマー限定でクーポンを提供できれば、より効率よく売上拡大を期待できます。アプリならではのマーケティングです」と榮氏は述べる。さらに、いまなら本屋大賞受賞作を対象にしたクーポンなど、商品、ジャンルなどを特定した特典も可能だ。
ポイント増額などのキャンペーンの効果について榮氏は、「施策内容によっては、売上が10~20%伸びることもよくあり、マルシェなど施策に合わせるとさらに大きく伸びることは実証できています。今後もフォーカスする顧客の範囲や商材、地域の傾向などの検証を続け、最適解を見つけていきます」と話す。
また、アプリは顧客がよく使う店舗を「マイストア」、最も贔屓にしている店を「メインストア」として登録できる。キャンペーンの案内やクーポンの提供は、「マイストア」に登録された店舗からのみ行うため、会員が余計な情報に悩まされることはない。
さらに夏ごろをめどに、アプリ内での店頭在庫検索を可能にし、トー ハンのオンライン販売サービス「e-hon」を搭載することで非在庫品のネット通販(EC)にも対応する。
「当社には山陰地方に多くのファンがいますが、近年は出版物購入の約半分がネット通販利用になっているというデータもあり、店舗だけでは網羅しきれません。リアル店舗のファンにオンラインで買っていただく需要は大きいと考えています」と榮氏は説明する。
複数法人の利用も想定
アプリの名称を「BookStore」としたのは、今後、同様の課題を抱える他地域の書店にもシステムを提供していくためだ。そのため、システムの運営主体も同社から独立させることを予定している。
また、複数の書店法人が利用するようになった場合を想定し、顧客のランクポリシーなどは個別に設定することができる。キャンペーン情報などコンテンツの配信も法人、個店ごとで行える。
利用料金など諸条件は決まっていないが、「当社のサービスは一般的な共通ポイントに近いモデルですが、なるべく書店の負担にならないよう設定します」と榮氏。
同社の代表取締役社長・舟木徹氏をはじめ、榮氏などプロジェクトを推進する主要メンバーには、楽天、楽天ブックス、楽天ブックスネットワーク(元代表取締役社長・服部達也氏)、楽天チケット(現株式会社ポケットチェンジ代表取締役・松居健太氏)、などIT企業でポイントサービスやECなどを経験した人材が揃っており、「経験のない書店さんもあると思うので、機能の提供だけではなく、データ分析や施策立案などの代行やコンサルティングも行う予定です」(榮氏)という。
株式会社今井書店
創 業:1872年
代 表 者:舟木徹
資 本 金:1000万円
所 在 地:〒690-0887島根県松江市殿町63