金の星社(東京・台東区)は4月26日、絵本『火の鳥 いのちの物語』を刊行する。同書は手塚治虫の漫画『火の鳥』連載70周年を記念し、初めて絵本化された。絵と文を手掛けた、画家・絵本作家で鳥の巣研究家でもある鈴木まもるさんに話を聞いた。【杉江しの】
偶然に導かれ、絵本化が実現
漫画『火の鳥』は1954~88年に発表されたシリーズで、手塚治虫のライフワークと位置付けられている。壮大なスケールで描かれた同作には、今なお根強いファンがいる一方、連載終了から35年以上過ぎ、目にしたことのない子どもたちも増えている。
絵本化のきっかけは、作者の鈴木さんが出演した朝4時台のラジオを、その日たまたま早起きしたという手塚プロダクションの関係者が耳にしたこと。鈴木さんが子どものころから手塚漫画の大ファンであり、現在は生命や平和の大切さをテーマに作品を手掛け、鳥の巣研究家でもあるという話を聞き、「『火の鳥』70周年に何か一緒にできないか」とのメールが鈴木さんのもとに届いたという。
ラジオ放送の2週間後、鈴木さんは手塚プロへ足を運んだ。恐れ多いと思いながらも担当者と『火の鳥』について意見を交わすうち、子どもたちに向けて絵本化することが決まり、その後は鈴木さんが一人で構想を考え、ひと月ほど掛けてラフスケッチを作成した。
ただ、『火の鳥』は黎明編から始まり、宇宙編、ヤマト編などストーリーが非常に多岐にわたるため、「どれか一つを取り上げて“短くする”、または“子ども向けにする”というのは絶対にできないと思った」と鈴木さん。
憧れの漫画家の伝説的な作品ということもあり、当初はプレッシャーに心が乱れたが、「巣にいる火の鳥のイメージが湧いてその姿をスケッチしてみたところ、そのほかのイメージも自然に湧き上がってきた」という。
完成した原寸大のラフスケッチを手塚プロに見せると、無事にOKが出たため、鈴木さんは普段から付き合いのある金の星社に出版を相談。『手塚治虫全集』など多くの手塚作品も出版している同社もラフスケッチを見て快諾し、無事に出版する運びとなった。鈴木さんは、ほかの仕事を終えた2023年12月初旬から絵を描きはじめ、約1カ月半で20枚の原画を描いた。
好きなことを続けるといいことがある
制作にあたっては、当初のプレッシャーを別にして、「絵を描く間はすべてが楽しかった」と笑顔で振り返る。今作を制作することになったいきさつは「まさかまさかで…」と戸惑いつつ「いまだに信じられないような出来事」だと喜びをあふれさせた。
手塚ファンだった子どものころの自分に伝えたいことをたずねると、「好きなことを続けるといいことがあるということ」とし、不安定な今の時代、「お金や地位ではなく、自分がいちばん好きなものを見つけると安心感が生まれるということを言葉で教わるのではなく、この作品で感じてもらえたらうれしい」と鈴木さん。
今作には、手塚治虫のメッセージ〈生命の尊さ〉が丹念に込められている。鈴木さんは「絵本のテーマは少し難しいかもしれないけれど、まずは絵を見て楽しんでもらいたい。絵本に出てくる鳥や動物たちを図鑑と見比べて楽しんでほしい」と読者へのメッセージを送った。
絵本の発売日から、東京、京都、三重、3カ所の書店で原画展も開催される。5月には、手塚氏の長女で手塚プロダクション取締役の手塚るみ子さんと鈴木さんとのトークショーも開催予定だ。
【原画展】
□4月26日(金)~6月2日(日)/会場:大垣書店麻布台ヒルズ店、大垣書店京都店 □4月26日(金)~5月26日(日)/会場:未来屋書店鈴鹿店
【トークショー】
□5月11日(土)13時30分~/約90分・定員100人(予定)/会場:宝塚文化創造館(宝塚市立手塚治虫記念館より徒歩3分)
▷問い合わせ(金の星社)03-3861-1861
鈴木まもる
1952年東京生まれ。東京藝術大学中退。画家、絵本作家、鳥の巣研究家。80年に絵本作家としてデビュー。その後、講談社出版文化賞絵本賞などさまざまな絵本賞を受賞し、これまでに絵本や童話の挿絵など200冊以上を手掛ける。毎年複数の本を出版しつつ、全国各地で鳥の巣の展示や講演会も行っている。