直木賞作家の今村翔吾氏は4月27日、東京・千代田区の神田神保町にシェア型書店「ほんまる」をオープンした。当日午前に開かれたオープニングセレモニーには、多くの出版関係者や報道陣が訪れた。あいさつした今村氏は「ここを出版業界をあきらめない反撃の『本丸』にしたい」などと思いを語った。
シェア型書店は、本棚を借りた人(棚主)がそれぞれのおすすめの本、自分で作った本などを販売する新しい書店の形態。ほんまるでは古書の販売はもちろん、新書の販売(ほんまるからの仕入れ)も可能。店内には全部で364棚があり、月額費用は4850円から。法人契約もできる。
①月額費用のみで自分の書店を持つことができる②出版取次への保証や行政への届出などは必要なく、売りたい本があればスタートできる③書店経営の経験を積み、将来の独立に生かすことができる──ことをメリットにあげている。
オープニングセレモニーで、今村氏は「出版不況と長らく言われているなか、全国の市区町村のうち書店ゼロの自治体が、このままだと半分になってしまうのではないか」と危惧。「このシェア型書店がそれを救うかたちになる可能性があるのではないか。そう思ったのがちょうど1年前ぐらい」と明かした。
そのうえで、「私は歴史作家なので言うが、歴史が変わる瞬間は関わっている当人たちは意外と気がつかないもの。私たちは(歴史が変わるような)そんなに大きなものではないかもしれないが、このシェア型書店を出版業界をあきらめない反撃の『本丸』にしたいという思いから、本の聖地である神保町で始めた」と語った。
また、「出版や本は『オワコン』だとよく言われるが、助けてくれるファンが多い業界でもある。彼らの力を結集して、本でつなぐ一つの『まる』にしたい。今日を出版の灯を絶やさないための歴史の1ページにしたい」と訴えた。
続いて、「ほんまる」のクリエイティブディレクターを務める佐藤可士和氏(SAMURAI代表)もあいさつ。「私は産経新聞で書評欄を持っていたが、そこで今村さんが書いた本を紹介したことが縁で、今回の話につながっていった。私も本が大好きだし、書店に思い入れもある。私のクリエイティブな仕事が書店の役に立てるのであればと考え、一緒にやることを決めた」と経緯を説明。
そして、「やると決まってからは、店の名前からデザイン、システムまで詰めてやってきた。イメージ通りの書店ができたが、一つ一つの本棚に皆さんの思い思いの本が並ぶと、想像を超えた熱量、本に対する愛のパワーを感じることができる場所になった。まだ1店舗目だが、ここをきっかけに出版業界が良い方向に変わっていくきっかけになればうれしい」と期待した。
テープカットには、個人の棚主や同じく棚主である新生紙パルプ商事、集英社、光和コンピューターの関係者も参加した。