【寄稿】「わたしのタカラモノ」 童心社代表取締役社長 後藤修平氏 音楽は一生の友だち

2024年5月24日

 古くからモノを収集する趣味のある人はいて、コレクター、趣味人、好事家、通(つう)など、彼・彼女らを表す言葉は数多くある。そんなさまざまな人々が集める品々を『わたしのタカラモノ』と題して紹介。今回は、児童書出版社の童心社代表取締役社長・後藤修平氏に、愛してやまない楽器の数々について紹介していただいた。(杉江しの)

 

後藤修平(ごとう・しゅうへい)氏 童心社代表取締役社長。1971年生まれ。明治学院大学社会学部社会学科卒業後、95年童心社入社。2004年販売部課長、07年販売部次長、11年取締役販売部長。21年より代表取締役社長

 

入学祝で憧れのギターを入手

 

「もし何も弾けなくて困ったら、機材を増やせ」…これは、私が愛してやまない最強プログレバンド、キングクリムゾンの「2018の7か条」その6である。

 

 大学の軽音楽部でドラムをはじめた。30年も経つので、もっとうまく叩けていいんじゃねえのかオレよ、と我ながらガックリくるが、それでも楽しく演奏を続けている。音楽は一生の友だちである。

 

 小2から大学に入るまでほぼビートルズ一本槍できて、祖母からの入学祝全額をつぎ込んで憧れのリッケンバッカー325を買った。言わずと知れたジョン・レノンと同じギターである。それで軽音楽部に乗り込んだ。だが、これが「わたしのタカラモノ」かというとそうではない。

 

 軽音にはギターのうまい奴がたくさんいて、ギタリストは余っていた(失礼)。それに高級ギターを買ったはいいが、実はほぼ弾けない。で、スタジオにあったドラムセットに座ってみたら自分にあっていたのだろう、楽しかったしドラマーは少ないので、早々にドラムに転向した。よくある話だ。

 

弦楽器は、ガットギター、フォークギター、リッケンバッカー325、沖縄の三線も

 

 ここで冒頭のキングクリムゾンに戻る。

 

 私は出したい音像に対してとにかく技術が追い付かず、それを補うべくギョッとする音を求めて機材、楽器を増やしていった。誰からも教えられずにキングクリムゾンの掟を実行した自分は偉いと思う。社会人になり少々お金が使えるようになってから楽器はさらに増えた。それと面白い音を出すとメンバーがうれしそうな顔になり一気にバンドの熱量が上がるので、それが見たくて、考えて考えて、曲に合わせて次々と変な楽器、音をスタジオに持ち込んだ。

 

 ということなので、私の楽器はこの曲のこの部分に「しか」使わないものの寄せ集めで、これぞタカラモノが思いつかない。なので、まずどんな楽器があるか確認することにした。

 

集めに集めた多種多様な楽器

 

 当然ながら打楽器が一番多く、スネアはもらいものでパールのスチール。ドラムキットは浸水した大学のスタジオに放置されていたのでかっぱらったヤマハ(時効。邪魔になって処分)。フットペダルはDWのツインを使っている。あとスネアの裏を外したティンバレス代用品とか、書店さんから譲って頂いたコンガ、バリで買ったガムラン、スリットドラム、北島三郎「与作」の「へいへいほー(カー)」の「カー」がでるビブラスラ…(略)…「できるかな」のゴン太くんの声ことクイーカ、サンプリングVパッドなどデジタルものもあるよ。

 

ビンテージのタカラモノ「フェンダーBass Rhoses」

 

 ギターはガットとフォーク、リッケンバッカー325。沖縄三線。宅録用でマイクロコルグ、一目惚れの逸品フェンダーBass Rhoses(ビンテージ、値段㊙)。ただし鍵盤は弾けません。版元の先輩から永遠にお預かりしているエコーレック3(すんごい貴重品)、MTRとループマシン、マイクは定番SM57とステレオコンデンサーマイクを最近購入。MTRとループマシン、コンデンサーマイクは買ってからまだ使っておらず、妻から「買うのはいいけどちゃんとつかいなよ(はやく音源つくれ)!」と言われている。

 

ピンクフロイドも使っていたというアナログテープエコーエフェクターの「エコーレック3」(左)

 

ループ音楽で別世界へジャンプ

 

 さて肝心のタカラモノはと、自分の演奏履歴を振り返ってみたら、おお、ひとつありました。それはシンバルである。

 

打楽器の数々。コンガを中心にグルっとバンドセットをイメージして配置

 

 私は繰り返し(ループ)音楽が好きだ。反復の渦の中で自分の境界線がなくなる感覚がたまらない。世界の踊りや祭を思い浮かべればおわかりだと思うが、それには打楽器と金物が欠かせない。ドコドコシャンシャンを繰り返し繰り返し、それで集中力を半端なく高め、別の世界に吹っ飛ぶのだ。打楽器はそんな力が強いと思う。

 

 中でも金物、シャーンというあの音とアタック後の響き、それがどんどん重なって倍々と増していくと、音と光の洪水の中にいるような感じになる。自分がなくなる感じだ。バンドでは、なにより派手だし見た目も音もキラキラして盛り上がる。

 

気持ちよい音を探し求めて

 

 そんなこんなで気持ちよい音を探して集めたシンバルは数えてみたら24枚。少し紹介すると、ハイハットはジルジャンK13㌅で小さめ。これで何となく私の好みがわかるだろうか。キュッと綺麗でタイトなサウンドを心がけております。メーカー最高峰「ザ・パイステシリーズ」のファストクラッシュ15㌅はヒビが入ったが円周をカットして使っている。本当にキラキラした音。変わり種だとフープクラッシャー14㌅。これは超絶テク変人ドラマー、ジョジョ・メイヤーがサブスネアにのせて人力ドラムンベースをやっていたのがカッコよく即導入。最近はルイス・コールがスプラッシュをタムにのっけて面白い音を出している(全然マネできない)。鳴り物系でリボンクラッシャー。これはキングクリムゾンの超名曲「RED」でブラフォードが出している音がこれかなと思って買ったが多分違うな。あと銅鑼約15㌅。本当は超デカい銅鑼を背後におきたいが、それをやるとジョン・ボーナムの猿マネと言われるのでやらない。芸術なので唯一性を追求したいところだ。

 

 1枚1枚に思いはあるが、長年一緒だった相棒が1枚いました。それはセイビアンのチャイナスプラッシュ8㌅。30年叩いている。色はちょっと暗いトーンの真鍮色。クリップでキットに組み込めるから持ち運びも楽で、スティックの他にもっていくものはこれだった。チャリンという、軽くて早くて、スプラッシュとも違う抜けのいい音だ。

 

中央の赤みを帯びたシンバルがセイビアンのチャイナスプラッシュ8㌅

 

 これが初めて買ったシンバルだが、なんで買ったかというと、オリジナル・ラブの「スキャンダル」をコピーするためだった。出だしのチャリンの印象が強く、どうしてもこの音が欲しかったのだ。当時はネットもないし、音源で楽器を推測するしかなかったから、付き合っていた彼女(現妻)と楽器屋に行き、1枚1枚試奏して探した。

 

 プライマスのティム・アレキサンダーもこの音を出している。プライマスは90年代のオルタナバンドで、同世代はレッド・ホット・チリ・ペッパーズとかニルバーナ。アレキサンダーはお手本にしているドラマーで、「プライマスみたいだね」といわれるとうれしくなってしまう。タイトでパワーとテクニックがあり、たたみかける感じがいい。で、ちょっとふざけた感じもいい。いいバンドには必ず素晴らしいリズム隊、ドラマーがいるのである。

 

満を持しての「チャリン」!

 

 打楽器はたったの一発でガラッと音楽の世界、雰囲気を変え、その場を支配する。このチャイナスプラッシュはまさにそれだ。だからあまり連打してはいけない。満を持して「チャリン」とやると、メンバーがハッとした顔をする。それがいい。

 

 とあるバンドの初顔合わせスタジオで「チャリン」とやったら、ギタリストがびっくりして「プロかと思った」と言ったのを思い出した。あくまでテクニックでなくて音色の話ですが。チャイナスプラッシュのおかげでそのバンドに入れて貰えた。

 

 思えばずっと一緒にやってきたなチャイナスプラッシュ。今でも売っているのだろうか。シンバルは金属で、ガンガン叩くからいつか壊れてしまうかもしれない。廃番だったら困るな。でも基本的には楽器はどれも1点物で個性があるから、こいつの代わりはいない。大切にしないとならないが、今でも思いっきり叩いている。

 

 これからもよろしくお願いいたします。長生きしてください。一日でも長く、一緒に音楽しましょう。

 

書斎兼「宅録」部屋。手前のムラサキ色の物体も打楽器