経済産業省は3月5日、大臣直轄の「文化創造基盤としての書店の振興プロジェクトチーム(PT)」を設置すると発表し、 4月17日の「車座ヒアリング」で齋藤健経済産業大臣と書店経営者が意見交換するなど、官民連携の取り組みが本格化している。省内を横断するプロジェクトチームのPT長を務める大臣官房総括審議官・南亮氏に取材し、組織編成や関係省庁との連携、寄せられた反響、振興策や補助金、書店に期待する役割、今後のスケジュールなどについて聞いた。
部局横断チームで振興策を協議 他省庁や議連との連携も視野に
経産省で政策アジェンダごとに部局横断のチームが編成されることはあったが、特定の業種に特化したPTの設置は過去に例がない。南氏は「一つの課を越えることで、視野の広い振興策を構築する体制が整った。活字世代が多くいる事務方の士気は高い」と抱負を語る。
PT事務局は広く出版産業がコンテンツであることから商務情報政策局コンテンツ産業課の担当となった。関与する部局課室は10程度にのぼり、中小企業支援ツールを有する中小企業庁の関係部局などが参加し、約20人のチームメンバーが集まっている。
今年夏には商務サービスグループに「文化創造産業課(クリエイティブ産業課)」を新設し、さらなる体制強化を図る。コンテンツ産業振興を担うセクションが中心となって、さまざまな部局でプラスアルファの要素を含んだ支援策を展開するとしている。
PT自体は経産省内部の組織であるため、他省庁が直接的に参加することはないが、文化庁・文部科学省・外務省など、書店に関連する省庁とも情報共有しながら連携して取り組んでいく。
多くのメディアが関心 取材・問い合わせが殺到
今回の取り組みに対する世間の関心は高い。PT設置の発表から5月までの時点で50~60の取材依頼や問い合わせが寄せられ、地方紙やローカル局で大きく取り扱われるなど、日本全国で書店減少の危機感が共有される結果となった。
南氏は「書店や関係事業者から『自分達の新しい取り組みを紹介したい』といった相談や要望はとても多かった。PTで振興策を検討しているが、大いに参考になる内容だった」と述べた。
デジタル化の流れには反しない
届いた意見はおおむね好意的な内容だが、一部からは「電子書籍やデジタル化の流れに逆行しているのではないか」といった指摘もあった。
これに対して南氏は「“本”や“書店”の存在意義について考える良い機会だと思う。齋藤大臣も言及しているように『書店』『図書館』『ネット』には、それぞれ別の強みがある。書店振興の取り組みはデジタル化の流れに反するものではない」と強調。「PT設置に対する大きな反響は、賛否いずれにせよ書店に向けられた注目度の高さを示すものだ」と受け止めているという。
南氏はリアル書店の強みを生かすべきだとして「書店には推し本や、考えもしなかった本があって、未知の本に出会える魅力がある。親子やカップルが一緒に見ながら本を選ぶエンターテインメント的な機能も魅力ではないか」と力を込める。
さらに「書店で普段読まなかった本から新たな考え方を学び、自分と異なる物の見方に触れる経験は、国の底力を上げていくことにつながる」と取り組みの意義を述べた。
書店経営者との意見交換 振興策決定に向けて情報を
「車座ヒアリング」では補助金の使い勝手の改善、無人書店、キャッシュレス、書店員のリスキリング(職業能力の再開発・再教育)などが話題にあがった。寄せられた意見の対応を考えていくとしつつ、「車座ヒアリング」に参加していない書店の声もさまざまなチャンネルで拾い上げて、事態・課題の把握に努めるとしている。
南氏は「今回の特集記事を読んで、興味をもってくれた書店からの意見や提案、要望も伺いたい。窓口としては出版文化産業振興財団(JPIC)、日本書店商業組合連合会(日書連)、このほかにも商工会議所や商工会などがある。PTとしても各種メディアで取り上げられた書店の成功事例や、地方経済産業局などが情報収集にあたっている」と話した。
7月目途に具体的なプラン検討
まずは夏までを一つの目途に具体的な方向性を示す予定としている。
支援策の内容については「すぐに取り組めることとして、既存の中小企業支援策の活用などを検討していく。具体的には、融資、補助金、貸付、貸付に対する保証、経営相談などがある。小さな個人書店では小規模事業者持続化補助金、IT導入補助金が使いやすいかもしれない。ただ、書店の大多数が中小企業で、申請業務を任せられる余剰人員も少ないと思う。書店経営者の皆さんになるべくわかりやすく周知していくことを考えていく」と述べた。
本と出会える書店の重要性
本への印象について南氏は「過去の読書経験が、今も自分の考え方のベースになっている。本には作者の膨大なインプットとアウトプットが凝縮されている。1冊の本を読めば、作者の経験が10年分くらい読み解ける。知見や経験の吸収という点で、本は素晴らしい媒体だ」と答えた。
さらに書店でのエピソードを明かして「ゴールデンウィークに百人一首の本を購入したが、普段の私はこういう本を買わない人間だった。書店で平積みされていたり、店員が創意工夫を凝らしたPOPでオススメしていたから手に取った。新しい本と出会える書店の重要性を再認識できる出来事だった。こうした書店員の価値あるお仕事をリスペクトするし、盛り立てていきたい」と意気込んだ。
1990年東京大学法学部卒業、通商産業省入省、96年テキサス大学ロースクール、98年中小企業庁 振興課長補佐、2000年貿易局 輸出課長補佐、02年独立行政法人日本貿易保険総務部総務グループ長、05年中小企業庁参事官補佐、07年独立行政法人日本貿易保険ニューヨーク事務所長、10年資源エネルギー庁国際課長、12年資源エネルギー庁 石油・天然ガス課長、15年通商政策局 欧州課長、18年資源エネルギー庁 資源・燃料部長、21年首席国際カーボンニュートラル政策統括調整官、23年総括審議官
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