トーハンは10月17日、東京・新宿区の本社で小型書店の開業パッケージ「HONYAL(ホンヤル)」説明会を行った。事業担当の堀内洋一取締役常務執行役員書店事業本部本部長、書店事業本部山口陽洋マネージャー、「HONYAL」コンセプト開発から深くかかわり、カフェを併設した書店「のほほんBOOKS & COFFEE」(山梨県北杜市・30坪)を経営するコピーライター渡辺潤平氏がサービスの概要を説明した。
「HONYAL」のサービスコンセプトは『書店をもっと「はじめやすく」「やめやすい」業態へ。』。堀内取締役は「本の流通を簡略化することにより従来の口座開設に至らなかった少額のお取引先も一緒に持続可能なスキームを実現できるモデル。本や出版物を日本の隅々まで届ける使命と強い責任感をもってこの事業を地域の皆様に少しずつお役立ていただける取り組みにしていきたい」と述べた。
これまで個人が書店を始めるには開業時の初期在庫一括支払いなどハードルが高かったが、HONYALは希望者は分割払い可能で、信認金(取引保証金)も原則なし。書店の「参入障壁を下げる」(山口マネージャー)ことを目指した。卸条件は出店するエリア別に設定し書店の粗利は「22%が平均になるくらいの水準」(同)となる。
注文品のみで書籍、雑誌の新刊配本はしない。配送は原則週1回。現時点で出店を考えている希望者から週1 回・注文品のみについて「(ネガティブな反応は)ほぼない」(同)という。買切品除きトーハンが納品した商品及び廃業時在庫も全量返品できることも大きな特徴だ(返品運賃は書店負担)。
返品率は15%以内に設定。基準値を超過したときはアラートを出し、恒常的に大きく15%を超えるときは送品中止もありえるが、トーハンのTONETSVを活用することで在庫を可視化する。およそ3カ月単位で増減推移を双方で確認し適量水準を保てるようにする。仕入上限は月100万円、下限は同30万円。
寄せられている問い合わせには、自宅を改装し書店を既に開店している元司書が「今の取引先では仕入れられる出版社が限られているため、扱い出版社と増やしてお客様のニーズに応えたい」、書店経験者からは長年勤めた書店が閉店し「地元から書店がなくなったのでなんとかしたい。知人のカフェなどを間借りして開店を検討中」などがある。なお、問い合わせの「半分くらいのお客様が元々弊社に口座を開きたかった方々。我々の戒めとしてまだまだやることがある」(堀内取締役)。
HONYAL1号店はほぼ内定している。エネルギー、エンタメなど幅広く事業を展開するオカモトホールディングス(北海道帯広市)が指定管理者として請け負っている「道の駅」内に導入する計画が進んでいる。
「なぜこんなに本屋は始めにくいのか」が出発点
渡辺氏はトーハンの社内プロジェクト「Book Boost Lab.」メンバーでHONYALのロゴ、ネーミング、ブランディングを担当。自身が本屋「のほほんBOOKS & COFFEE 」を始める前の違和感、かつHONYAL発想の出発点だったのは「なぜこんなに本屋は始めにくいのか」だったという。「誰もが始めやすくて、辞めたあとも次のキャリアが待っている状態にならないと業界として健全にならないのではないか」とコンセプトに込めた思いを述べた。
自身の書店は、HONYALに近い取引条件で開業。逐次品揃えを見直し「硬直しない本屋」を目指したことで、開業前にトーハンから試算された売上予測に対して今夏は10倍近い売上を達成。開店から2年ほどで顔の見えるお客さんは数百人ほど把握するまでになっているという。当初週1回だった配送も、現在は週4回と通常の書店とほぼ同じ契約で更新した。
渡辺氏は「本屋のあり方が必需品から嗜好品に変わっていく大きな流れのなかにHONYALの必然性があるのではないか」とこれからの本屋像を予測した。