文化通信社の研修ツアーでフランクフルトの独立系書店を訪問した際、店主から「図書館は出版業界の誇りだ」という言葉を聞いたが、今回の取材でも大手書店チェーン、独立系書店、出版社の図書館に対する姿勢は全面的にとても穏やかな印象だった。
図書館は書店のパートナー
まず、フランクフルトで独立系書店(Der fantastische Buchladen)と出版社(Dryas, Titanic)を経営するSandra Thoms(ザンドラ・トームス)氏に話を聞いた。彼女は、「図書館を競争相手とは考えていません。図書館は読書意欲を促進し、それは本の購入にもつながります。現在、書店としては図書館に書籍や雑誌を販売していませんし、プロジェクトで図書館と協力していなくても、パートナーとして見ているのはこのためです」と話した。
また、フランクフルトの独立系書店Büchergilde書店の店員兼SNS・PR担当のClaudia Körner(クライディア・ケルナー)氏もポジティブな態度だった。
「図書館は競争相手ではなく、むしろ文学を紹介する重要なプレーヤーとして見ています。幅広い種類の書籍の貸出は、多くの面で有益であると証明されています。特に、われわれ独立系書店にとって費用と手間がかかる非経済的な閲覧のための注文から救われるからです。時々、顧客が図書館で借りた専門書を持参し、自宅用に注文することもあります。また、地元の市立図書館と定期的に協力して朗読会用に書店が本を販売するブックテーブルを提供し、それが店の売上の大部分を占めることもあります。当社は25 年以上にわたり、あらゆる種類の専門雑誌の定期購読と書籍を週に 1 回、産業組合図書館に提供してきました」。
図書は書店から仕入れ
ハンブルグに本店があり、北ドイツで14店舗を展開する独立系書店のHEYMANN(ハイマン)書店は図書館に本を販売するなど関係が深く、何度か図書館に比較的高額な金額を寄付したこともあるという。コミュニケーション担当者に話を聞くと、「ハンブルグ図書館との関係は多様であり、状況に応じて変わります。例えばイベントに協力したり、それぞれのプログラムをお互いの顧客に知らせたりします」とのことだった。
今年創立125周年を迎えるハンブルグ中央図書館の館長兼理事Frauke Untiedt(フラウケ・ウンティート)氏は次のように説明してくれた。
「図書館は主に連邦共和国基本法の第 5 条、情報への自由なアクセスを義務付けられていて書店とは目的が異なります。書籍やその他のメディアの貸出によって利益を得ないように義務付けられています。図書館を利用する人は書籍の大量購入者でもあることを示す研究が数多くあります。ハンブルグ図書館は書籍をすべて書店から仕入れ、 10% の図書館割引を受けています。大規模な図書館は入札になることも多く、大手書店と小規模な独立系書店との間で競争が起きています」
図書館の発注金額が約215,000ユーロ以上の場合は入札となる。書籍価格拘束法で書籍の定価販売が義務付けられているドイツでも図書館に対しては10%の割引が認められるが、それ以外の値引きはできないため、入札になった場合も価格競争は発生しない。ただ、入札では図書館が求めるRFIDチップやスキャンコード、フィルムコートといった装備を提供することが求められ、大規模な納品となり、資金も必要となるため小規模な書店には対応が厳しいようだ。
図書館への納入は、地元の独立系書店、大手書店のB to B部門、EKZ 、Schweitzerといった図書館納入の専門業者(書店の位置づけ)が担う。
ドイツでは図書館が利益を得ることを法律で禁じているが、図書館のカードを発行するための料金はある。初回登録費1ユーロ、年会費は0~8歳、9~17歳、18~26歳、27歳以上(大人)と年齢ごとに変わる3~50ユーロの料金が設定されている。
タリアとフーゲンドゥーベルのような大手書店チェーンはB to B部門で図書館サービスを運営している。フーゲンドゥーベルのテクニカル・インフォメーション取締役である Eckart Schlapp (エッカート・シュラップ)氏に質問した。
―図書館の貸出に対する立場を教えてください。
「図書館利用者のターゲットは、書店の顧客層とある程度重なっています。ただし、読者は情報の入手、購入など、読書のためにさまざまなチャンネルを使います。これには、書店だけでなくソーシャルメディア、オンラインプラットフォーム、図書館、オンラインレンタルも含まれます」
―図書館に書籍やその他のメディアをどの程度販売していますか。
「ドイツの図書館は書店を通じてニーズを満たしています。 フーゲンドゥーベルは大企業と法人顧客向けの特別販売部門を運営し、図書館にも供給しています。年間の調達量は、図書館1館あたり約 1000 ~ 7万5000 冊と、図書館と都市の規模で異なります。調達金額によってドイツおよびEUの法律が適用されて入札になることもあります」
―図書館との共同プロジェクトや活動はありますか。
「書籍だけでなく、漫画、コンソール、ボードゲームのノベルティープレビューを定期的に開催しています。また、ウェビナーを開催し、プレゼンテーションや書籍以外のさまざまなトピックについて交流しています。当社は図書館システムを自社のシステムに統合し、デジタルデータおよびワークフローソリューションに関して図書館と協力しています。図書館事業はわれわれにとって非常に好調です」
電子書籍貸出条件緩和に業界が反対
書店と図書館の関係は全般的に良好なようだが、2021年、図書館のニーズに応えるために電子書籍貸出の条件を緩和させることを目的とした連邦参議院の法案草案に、著者、出版社、書店などが激しく反対する「フェアリーディング」キャンペーンが始まった。これは、大手出版社、書店、著名な作家などが参加している、低価格でのオンライン貸出の強制に反対する運動だ。
現状、ベストセラー作家などのタイトルは、最も売上が期待できる出版後6~9カ月を経てから図書館に電子書籍を提供するのが慣習だが、公共図書館側からの提案で政府が出版時点で図書館にライセンスを提供することを義務付ける検討をしている。
その後、ドイツでは政権交代したため、現在は検討中だが、その判断が出版社、書店、著者の収入に大きく影響することが懸念されている。
Angelika Kieran(アンゲリカ・キーラン)
北ドイツ・ハンブルグ生まれ。若いころから言葉や書籍に興味を持ち、大学卒業後、翻訳家・通訳として活動。2014年から文化通信社をはじめ、日本企業に情報や多様なサービスを提供。文化通信社主催の研修ツアーでフランクフルト・ブックフェアなどに同行、出版社や書店のコーディネートと通訳を務めた経験から国内の出版業に明るい。2018年からハンブルグで貿易会社を経営。
*寄稿「書店×図書館を考える」紹介ページはこちら