第34回鮎川哲也賞・第2回創元ミステリ短編賞・創元ホラー長編賞贈呈式 学園ミステリ大賞受賞者の紹介も

2024年11月7日

 東京創元社は、推理長編の鮎川哲也賞、推理短編の創元ミステリ短編賞、そして総合文芸誌「紙魚の手帖」創刊を記念して創設したホラー文学賞を開催。山口未桜『禁忌の子』、歳内沙都「桜越しに空を撮る」、上條一輝『パラ・サイコ』をそれぞれ選出し、10月25日、ホテルメトロポリタン エドモント(東京・千代田)にて贈呈式を行った。また、小説投稿サイト「カクヨム」との共催による学園ミステリ大賞で大賞並びに優秀賞を受賞した4人もこの場で紹介された。

 

前列左から上條さん、山口さん、歳内さん。後列左から渡海さん、@rain_kotoさん

 

 鮎川賞選考委員を代表して青崎有吾さんは、最終候補作はいずれも「しっかりした謎、綿密な謎解きで、芯の通った本格ミステリ」だったと述べる。その中でも受賞作、そして山口さんは「ストーリーテリングの手腕に感心した。ドラマの作り方もテクニカルで、エモーショナルで記憶に残るシーンも多い。受賞にふさわしいのは、こういうドラマがつくれる方」だと評価した。

 

 山口さんは現役の医師。育児と臨床とで多忙を極めていたある日、天啓のように「小説が書きたい」と思ったという。有栖川有栖さん主催の創作塾で執筆を始め、改稿を重ねたという本作は「本格ミステリの枠組みでままならない人生を書こうとがんばった」と思いを語った。

 

 ミステリ短編賞選考委員を代表した北村薫さんは、「謎と解明を大切にした作品が並んでいてワクワクした」と述べ、WOWOWで見たというフランスの女優ジェーン・バーキン、シャルロット・ゲンスブール母娘の映像についての話を交えて「日常生活の中に本格ミステリが食い入ってくる作品だった。その訳は選評を読んでください」とユーモアたっぷりにコメントした。

 

 歳内さんは自身の近況を語り、郵便物の不在届に記された宛名からフッと「ミステリみたい」と感じた、とする。実生活をヒントに、次作のアイデアが浮かんだようだ。

 

 ホラー文学賞選考委員を代表した東雅夫さんは、東京創元社は昔から怪奇幻想小説、つまりホラーの刊行を積極的に行い「海外ホラーの紹介に偉大な功績を残した」と言及。ホラー小説の賞の創設は「ホラー少年にとってはうれしい限り」と、選考委員も引き受けたという。

 

 受賞作については、最終候補5作のうち3作のクライマックスが地下世界を舞台としていることを明かし、その中でも「ピカイチで良かった」と評価。「過不足なくエンターテインメントの王道を行く作品である点も評価される。血みどろの陰惨なホラーが多い傾向があるが、本作は爽やかな、清新なホラーを実現した」とその作風を紹介した。

 

 上條さんは小学生の時の国語の授業を振り返りつつ、「今日いただいた大きな花丸を大切にしたい」と喜びを語った。

 

 また、学園ミステリ大賞で大賞を受賞した@rain_kotoさん、恋塚咲夜さん、優秀賞を受賞した下村智恵理さん、渡海さんも来場。大きな拍手で迎えられた。