KADOKAWAは10月21日、第15回「山田風太郎賞」の選考会を東京・千代田区の東京會館で開き、選考委員の審査により蝉谷(せみたに)めぐ実著『万両役者の扇』(新潮社)を受賞作に決めた。
受賞した『万両役者の扇』は、「江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎にお熱のお春が、女房の座を
狙って近づいたのは……。芸を追求してやまない扇五郎に魅せられた面々の、狂ってゆく人生の歯車。ある日、若手役者の他殺体があがり、ついには扇五郎本人も―。「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。芝居の虚実を濃密に描き切ったエンタメ時代小説」(新潮社書誌ページより)。
著者の蝉谷さんは、1992年生まれ、大阪府豊中市出身。早稲田大学文学部で演劇映像コースを専攻、化政期の歌舞伎をテーマに卒論を書く。2020年『化け者心中』で第11回小説野性時代新人賞を受賞し、デビュー。21年、同作で第10回日本歴史時代作家協会賞新人賞、第27回中山義秀文学賞を受賞。22年『おんなの女房』で第10回野村胡堂文学賞、第44回吉川英治文学新人賞を受賞。他の作品に『化け者手本』などがある。
選考会のあと、選考委員を代表して選評を述べた作家の恩田陸氏は、「ぶっちぎりの満場一致で受賞作に決定した。江戸時代の役者、芝居小屋の雰囲気を音、匂いも含め生々しく描き、その場所に連れていってくれるような臨場感がある。役者の芸に対する凄みが描かれており、文章に節回しのような魅力もある。マニアックギリギリのところを、エンタテインメントとして面白く読ませてくれる」と絶賛した。
受賞決定後に記者会見した蝉谷さんは、「この作品には今までの歌舞伎に対する思いを全部込められているので、賞をいただけて本当にうれしい」としたうえで、「自分も作家になるためにどこまでできるか、命をかけられるか、人間を外れることができるかを考えてしまうタイプなので、そこが作中の役者と重なるところはあった」などと語った。また、「今作で歌舞伎を題材とした作品は一区切り。ほかにも書きたいテーマがある。ただ、(歌舞伎は)今後別の題材で書くとしても、切っても切れないテーマになると思う」などと話した。