文化通信社
第4回「ふるさと新聞アワード」
【授賞記事・紹介】
※記事および紙面の著作権はすべて当該新聞社に帰属しています。
◎最優秀賞
丹波新聞(兵庫県丹波市)
シリーズ「能登半島ルポ~激震の爪痕の中で」
2024年2月15日付ほか
<概要>
今年1月1日に発生した「石川県能登半島地震」。遠く兵庫県丹波市の地域紙の記者が防災士と共に、能登在住の丹波地域出身者の取材や、事前に連絡を取り合いつながっていた人たちから求められた物資を届けるために、1月20~23日の日程で現地入りして書いた渾身のルポ(全4回)。
<審査員・評>
最も心に響いた記事でした。けたたましく音を立てながら民家の一部が崩れ落ちるリードから引き込まれ、全4回を一気に読むと、1月下旬の「奥能登」の様子がありありと浮かんできました。映像で見る以上の情報量が込められており、そこで暮らす人たちの表情や声の描写によって、苦しみが伝わってきました。ルポの凄みですね。
道路状況が悪く、「能登に来ないで」と伝えられる中、「行ってもいいのかな」「邪魔にならないのかな」という自間。単なる取材だけでなく、必要な物資を運ぶというミッションを課する経緯。滞在中は「自己完結」する決意。そういった記者の姿勢にすべて共感しました。
行った先では危険とされる建物に貼られた「赤紙」を見る。それでも地域の被災者からは「遠いのに、ありがとう」と言葉をかけてもらう。避難所の実態やじられないほど倒壊した建物の様、地盤隆起、ボランティアのリアルと被災地の姿を鮮明に描いていました。兵庫県丹波では能登の震災は遠い地の出来事として捉えがちだと思いますが、臨場感にあふれるこの記事を読んだ読者は、震災を我がことのように理解できたでしょう。【山崎まゆみ】
能登地域で発行している新聞でないにもかかわらず、実際に現地を訪れ、被災のリアルな状況を丹念な取材による記事と写真で伝えている。過疎の問題などはどこの地域も抱えている問題で、避難所の様子やボランティアのあり方なども問題提起するなど、地元地域にも大いに参考になる記事として評価できる。【翁百合】
◎優秀賞
宇部日報(山口県宇部市)
シリーズ「山口線と文学者たち」
2023年11月24日付ほか
<概要>
JR山口線は今年、新山口(旧小郡)一島根県益田駅間の全線開通100周年を迎えた。同線を利用し、作中に描いた文学者7人を取り上げ、そのゆかりの地にある文学碑や生家、そして今なお彼らの作品を愛する人たちの姿を追った。
<審査員・評>
7回にもわたってJR山口線とゆかりのある文学者を取り上げており、とても有名な中原中也さんやわりと最近の方までを紹介している。記事では、ゆかりのある場所、地元の駅、その文学者の作品や人柄なども紹介するのはもちろん、今なお彼らの作品を愛する人たち、文学を大事に思って活動している人たちなどにも取材し、ていねいに書かれている。とても魅力的に地域を紹介しており、大変読み応えがありました。【翁百合】
◎優秀賞
市民タイムス(長野県松本市)
「小澤征爾さん死去」についての一連の記事
2024年2月10日付ほか
<概要>
世界的指揮者・小澤征爾の訃報を受け、小澤さんを総監督に松本市で30年以上にわたって開催されてきた「国際音楽祭セイジ・オザワ・松本フェスティバル」(OMF、前身・SKF)に関わり続けた松本市民ら松本地域の関係者は、一様に言葉を失った。「最高の音楽ありがとう」。
<審査員・評>
この審査は地元紙だからこそ実現できた記事を中心に選ばせていただいている。この小澤征爾さんの追悼記事は松本の市民タイムスだからこそ記事にすることができたのではなかろうか。
訃報を受けて二日後に記事をまとめられたこと、これまでの取材の蓄積があるからこそ、なせる技。小澤征爾さんが活動拠点として愛していた松本、その地元紙が使命感をもってやり切った印象だ。今年のトピック、地元紙だから読める観点、その両方の視点から選ばせていただきました。【高橋俊宏】
◎優秀賞
苫小牧民報(北海道苫小牧市)
シリーズ「昭和の街角風景」
2024年4月8日付ほか
<概要>
昭和30年代苫小牧の風景を眺めて、子供たちの表情を見つけてきた。なぜ昭和30年代かといえば、今の世の正と負につながる多くの要素が混在する興味深い時代だからであり、なぜ子供かといえば、そういった社会の影響をより明らかに反射するのが子供たちだからである。子供たちを見ながら、今の子供たちと社会に思いを巡らす。
<審査員・評>
昭和の街角風景を紹介しながら、時代の移り変わり、今と昔の社会や生活の違い、子どもたちの変化などについて綴られており、実に興味深く拝読いたしました。数多くの資料、丹念な調査により、大変読み応えのある重厚な特集でした。
昭和の時代の風景やエピソードの数々は、私たちの世代にとっては懐かしく、平成・令和生まれの若い方々にとっては、今では信じられない!と思いながら読まれたことと思います。
言うまでもなく、今の時代の方が便利で快適な暮らしではありますが、人と人との繋がり、伝統や文化、街にあふれる子どもたちのにぎわいや笑顔など、失われてしまったものも多いように感じます。
スマホひとつで、漫画や小説が読めて、動画が見られ、ゲームができ、誰とでも連絡が取り合える今日では、街角の本屋さんに子どもたちが集まり、夢中で立ち読みする姿など、皆目、見受けられません。40年間、作家生活をしてきた私としては、何とも寂しい限りです。
昭和の時代に戻りたいとは思いませんが、こうした記事をきっかけに、ひとりでも多くの読者が、かつての日本の良さや温かさを知ったり、思い出したりしていただけたらと願ってやみません。【加来耕三】
◎準優秀賞
岩手日日(岩手県関市)
コラム「日日草」
2024年6月16日付
<概要>
筆者の実妹は8年前の飲酒ひき逃げ事故で死亡した。筆者は記者職に就き、犯罪や事故のニュースを触れるたびに自分の悲しい体験を書かなければと考えていた。飲酒運転は一人でも減るよう願っている。
<審査員・評>
本アワードにおいて、1面下のコラムのエントリーというのは珍しいなと思いながら、中盤まで読み進めたところで、思わず息を呑みました。まさか、冒頭で取り上げられた飲酒運転ひき逃げ死亡事故の被害者が、コラム執筆者の実妹だったとは……。
妹さんの部屋に残された、父の日用に包装されたネクタイ。癒えぬ悲しみを抱えたまま他界されたご両親。被害者の実兄だからこその切実な思いや文章表現に、胸が張り裂ける思いで拝読いたしました。このコラムに込められた願いが叶いますこと、そして妹さんのご冥福を、心より祈念いたします。(加来耕三)
◎準優秀賞
紀伊民報(和歌山県田辺市)
シリーズ「紀南に生きる~若手起業家編~」
2024年1月1日付ほか
<概要>
地域資源を生かし、ピンチもチャンスに変える。紀南に生き、突破力が光る35歳以下の5人の若手起業家を紹介。デザインとアート・教育・農産物加工・観光・映像制作業界で活躍している。
<審査員・評>
若手起業家という着眼点がよかったです。過去ではなく未来へのメッセージを感じました。【高橋俊宏】
◎準優秀賞
桐生タイムス(群馬県桐生市)
廃業か事業継承か 松井ニット「あと1年」
2024年3月15日付
<概要>
マレチカラーストライプのマフラーで有名な松井ニット技研が、今秋向けの新作を最後に、廃業する可能性が出ている。従業員の高齢化とともに、独特な技術の伝承が難しく、後続者は決まっていない。
<審査員・評>
現在、事業承継は地域経済にとって大きな課題となっている。この記事を書いた記者は、そういった後継者不足に悩む本当に価値のある企業について、なんとかしたいという思いから記事にしたんだろうと想像する。そういった思い、願いが伝わってきて、現在の地域の抱える課題をリアルに感じられた。その後、どうなったのか思わず調べてしまった。【翁百合】
◎準優秀賞
荘内日報(山形県鶴岡市)
加藤セチ博士(三川町生まれ)の功績 日本の女性科学者の草分け
2024年5月11日付
<概要>
2025年版の道徳教科書に、日本女性科学者の草分けとして知られる加藤セチ博士の紹介文が掲載されている。加藤博士については近年、功績とともに女性研究者育成に尽くした活動などを含め再評価の動きが強まって、女性研究リーダー育成プログラムも始動。
<審査員・評>
中学3年生の道徳の教科書に紹介された地元の女性ということだが、私自身も初めて知った方で、理化学研究所で活躍されていたことなど新鮮に読んだ。NHKの連続テレビ小説「虎に翼」(日本史上初めて法曹の世界に飛び込んだ、一人の女性の実話に基づくオリジナルストーリー)も話題になったが、地域にもそういった方がいたことは、もっと知られてもいい。世界を切り拓いた女性がいたことをていねいに紹介していて、同じ女性としてもすごく関心を持った。【翁百合】
◎準優秀賞
須坂新聞(長野県須坂市)
シリーズ「次代へつなぐ伝統野菜」
2023年7月1日付ほか
<概要>
須高地区には県に認定する信州の伝統野菜が四つある。須坂の「八町きゅうり」「沼目越瓜」「村山早生牛蒡」、小布施の「小布施丸なす」だ。特有の気候風土に適応した特徴的な「食の文化財」は、消滅の危機を乗り越え、大切に受け継がれる。ここでしか作られない伝統野菜の魅力を紹介する。
<審査員・評>
小布施丸なすは、輪切りにしてステーキに、塩かしょうゆでシンプルに味付け、いや、カレ一の具としてもいいのか……。生でそのままかじってみたい八町きゅうり、かす漬けにしてみたい沼目越瓜、筑前煮に使いたい村山早生牛蒡、と、実に美味しそう。
地域の特性を活かした食文化の再発見と、地域特有の伝統的な食材の生産者へのリスペクトを込めたこの記事は、実にシンプルにこの地に根付く伝統食材の尊さを訴えています。平易な文章で、美味しさと継承の意義を伝える記事に、好感を持ちました。【山崎まゆみ】
◎準優秀賞
北都新聞(北海道名寄市)
ピヤシリ山の冬 別世界 アジアのインバウンド注目
2024年2月5日付
<概要>
冬のピヤシリ山頂を目指す体験ツアーが、雪のないアジア圏のインバウンドから注目を集めている。2023年度は受け入れの約4割が海外で、国内客はリピーターが多い。なよろ観光まちづくり協会は「別世界に来たような感覚になるのが魅力」と話し、PRに力を入れている。
<審査員・評>
舞台となった北海道名寄は本記事にあるようにパウダースノーが降り積もり、非常に寒い地域です。実は、私にとっても懐かしい地名です。2004年に、日本の温泉を紹介する本を台湾で出版した際に、表紙の写真として台湾の出版社が選んだのが、ここ名寄にある露天風呂で撮影された1枚。厳冬の中での撮影で、産毛と眉毛と鼻毛が凍り、寒さに震えている私が写っており、日本人の感覚では「寒々しい」そのものでしかないのですが、「雪が珍しいアジアでは、この雪こそが観光資源なのです」と力説されました。
そのとおり、雪のないアジアでは、雪がインバウンド集客の強い「コンテンツ」になるのです。日本人の思い込みだけで外国人観光客を喜ばせるのではなく、彼らのニーズをしっかりとらえ、SNS等で、その魅力をうまく発言、拡散することの重要性を記した記事でした。【山崎まゆみ】
◎準優秀賞
北鹿新聞(秋田県大館市)
シリーズ「わが家の郷土料理」
2024年5月20日付ほか
<概要>
郷土料理は地域の歴史や文化、生活風景を色濃く反映している。北鹿地方の郷土料理、家庭ごとに異なるふるさとの味を〝わが家のレシピ〟とともに紹介する。高齢化や人口減少で担い手が減る中でも、後世に残していきたい。
<審査員・評>
郷土料理を紹介するだけではなく、レシピも掲載されているのがよかったです。【高橋俊宏】
◎準優秀賞
房日新聞(千葉県館山市)
〝ジビエレザー〟の工房開業 「獣害の地域課題伝えたい」
2024年3月28日付
<概要>
捕獲された有害獣の新たな活用手段として、革製品にする取り組みが始まっている。館山市の銀座通り沿いの複合施設に工房「伝右衛門製革」が開業。店主の大阪谷未久は「〝ジビエレザー〟の普及が地域にとっての利益になれば」と意気込む。
<審査員・評>
「ジビエレザーは野生動物の生きた証。争いなどで傷ついた部分はそのまま模様になることも魅力の一つ」という、非常に「生」を肯定的に捉えた点も、共感しました。取材された女性店主の条が伝わってくるのと当時に、知恵ひとつで、地域課題が解決できる経緯に、希望を持てる記事となったのではないでしょうか。
こうした地域課題に出口を見出せそうな考え方を広く共有することは、ふるさと新聞の非常に大きな役割ではないかと、高く評価します。記事としては、ひとりの女性の生き方を丁寧に追っており、とても読みやすく、興味を持ちやすかったです。【山崎まゆみ】
◎準優秀賞
八重山毎日新聞(沖縄県石垣市)
シリーズ「八重山毎日新聞 通信員列伝」
2024年4月6日付ほか
<概要>
八重山毎日新聞には東京、大阪、福岡と郡内の各島々、台湾にも通信員がいるという。2025年3月に創刊75周年を迎える同紙は、こうした「縁の下」の支えも大きい。あらためて各地区の歴代通信員たちにスポットを当てる連載を27回にもわたって掲載した。
<審査員・評>
連載回数をしっかりととり、とても読み応えがありました。【高橋俊宏】
◎準優秀賞
夕刊三重(三重県松阪市)
ルポ「地域深聞」 選定療養費の新制度 現場に聞く
2024年2月8日付ほか
<概要>
松阪市内の3基幹病院に救急搬送されながらも入院に至らなかった患者から原則700円を新たな選定療養費として徴収する新制度に波紋が広がっている。松坂消防署、医師会、介護事業者、一般市民に話しを聞いた。
<審査員・評>
松坂消防署、医師会、介護事業者、そして市民という多角的な視点からの知見に寄り添い、課題の本質をあぶり出すことで、この記事を解決の糸口にしていきたいという新聞社の皆さんの熱意が文面から伝わってくるようでした。「地域深聞」というタイトルの通りに、地域住民が身近に抱えている問題に向き合い、深く掘り下げている素晴らしい記事だと思います。選定療養費という一長一短な新制度について、肯定や批判ではなく、地域の新聞社という平等な立場だからこそ届けられる現場の声に、思わず自分自身にも意見を問われているような気持ちになりました。【小山薫堂】