文化通信社は11月29日、全国の市町村単位を発行エリアとする地域紙の優れた記事とそれを書いた記者らを表彰する第4回「ふるさと新聞アワード」の贈呈式と懇親会を、東京・台東区の東天紅上野本店で開催した。最優秀賞に選ばれた丹波新聞社(兵庫県丹波市)をはじめ、優秀賞3社、準優秀賞10社、有識者専門委員会特別賞1社にそれぞれ記念の盾と賞金が贈られた。
同アワードは、文化通信社が2021年から毎年開催している国内唯一の地域紙のための賞。東京・千代田区の文化通信社内に設けられている新聞閲覧図書館「ふるさと新聞ライブラリー」には、全国の地域紙70紙が寄贈されている。
今回は、メディアについて研究する大学教授ら6人で構成する「有識者専門委員会」が70紙の記事(24年1月1日付~同6月30日付)を手分けして閲覧。「当該地域を越えてより多くの人々に読んでもらいたい」記事(連載・コラムも含む)を選出。それに各地域紙から自薦された記事も含めて再度選考。最終的に上位30本を一次審査通過作品とした。
30本の記事を、翁百合氏(日本総合研究所理事長、政府税制調査会会長)、加来耕三氏(歴史家・作家)、小山薫堂氏(放送作家・脚本家)、高橋俊宏氏(ディスカバー・ジャパン代表取締役)、山崎まゆみ氏(温泉エッセイスト)の審査員5人(五十音順)が最終審査し、合計ポイントで授賞者を決定した。なお、有識者専門委員会の評価が最も高かった記事に、特別賞を贈った。各賞の授賞者は表の通り。
「素晴らしい記事をどう読んでもらうか」
贈呈式の冒頭、文化通信社・山口健代表取締役があいさつ。続いて、同社・星野渉社長から準優秀賞に選ばれた各社の代表らに贈賞(紀伊民報社、北都新聞社は欠席)。優秀賞、最優秀賞は山口代表が、特別賞は有識者専門委員を代表して元跡見学園女子大学教授の富川淳子氏から贈られた。
受賞者らとの記念撮影に引き続き、着席の懇親会を開催した。有識者専門委員の日本大学・塚本晴二朗教授による乾杯の発声のあと、ランチをとりながら、受賞者や審査員らのあいさつに耳を傾けたり、出席者同士で懇親を深めた。
審査員の講評で、翁氏は「初めて地域紙の記事をたくさん読んだが、どれも書いた記者の地域への愛を感じることができた。こういった読み応えのある記事がもっと広がれば、きっと地域経済の活性化につながっていくだろう」と、小山氏は「ほっこりする記事からハッとさせられる記事まで、たくさんの地域紙の記事を読めるこの審査を毎年楽しみにしている。自分が選んだ記事が受賞すると、自分ごとのようにうれしい」と、高橋氏は「地域紙が成り立つためには、その地域が持続可能にならなければならない。各紙の記事からはそういった強い思いや責任が感じられる」と、それぞれビデオメッセージを寄せた。
来場した加来氏は「皆さんが書いた記事は、どれも甲乙つけがたいほど素晴らしい。しかし、問題なのはその記事(新聞)をどう読ませるかだ。新聞も読まない、テレビも見ない、ユーチューブばかり見ている人たちに、どうやって皆さんの素晴らしい記事を読んでもらうか。その工夫や戦略を真剣に考えないと、手遅れになってしまう」とエールを送った。
山崎氏も「現在、中央省庁の地域活性化策を検討するいくつかの事業をサポートしている。そういった地域づくりには、地元の人たちの理解や協力が欠かせない。ぜひ地元に密着した地域紙の皆さんに、今後もその役割を担ってほしい」と願った。
特別賞を受賞した市民タイムスの高橋輪太郎執行役員編集局長も登壇し、「有識者専門委員の皆さんに評価いただいた『松本サリン30年』の記事は、事件があった1994年以降に生まれた記者が主に執筆した。当時、取材に走り回っていた自分も、原点に戻って取材しながら、若い記者に思いを伝えることができた。今回の受賞はみんなの大きな励みになった」と喜んだ。
シリーズ「能登半島ルポ~激震の爪痕の中で」で、最優秀賞に選ばれた丹波新聞社の森田靖久記者は、兵庫県丹波市の地域紙が石川県まで取材に行った経緯や思いなどを説明。2011年の東日本大震災以降、地元のボランティア仲間の誘いがあり、全国各地で大きな災害があるたびにその現地を訪れているという。
森田氏は「調べていくと、能登半島に丹波出身の女性2人がいて、彼女らを引き合わせることもできた。それも地域紙だからこそできたと自負している。この賞はボランティア仲間、現地で取材に応じてくれた人たち、丹波出身の人たち、みんなでもらったと思っている」と強調した。
来賓の日本地域紙協議会・山下至会長(夕刊三重社長)、協賛社のPR TIMESの高田育昌パートナービジネス開発室長もあいさつ。地域紙があることの重要性を、それぞれの立場から訴えた。最後に、文化通信社・星野社長が中締めのあいさつをし、同社が今年秋から始めた「地域紙共通広告」や「MediaLink」(メディアリンク)についても紹介した。