BOOK MEETS NEXT 「角川春樹 最後の仕事 ~今村翔吾と語る~」いつまでも書店を盛り上げたい

2024年12月12日

 トーハンはBOOK MEETS NEXT運営委員会(事務局/出版文化産業振興財団)と共同で11月21日、トークイベント「角川春樹 最後の仕事 ~今村翔吾と語る~」を東京・新宿区のトーハン本社で開催し、多くのファンや関係者、トーハン社員など約200人が会場に駆けつけた。

 

左から丸島氏、角川氏、今村氏


 出版社社長・編集者・映画監督・プロデューサーとさまざまな顔を持つ角川春樹事務所代表取締役社長の角川春樹氏と、近年は複数の書店を経営し、出版・書店業界を盛り上げている直木賞作家の今村翔吾氏が登壇し、新文化通信社代表取締役社長の丸島基和氏がモデレーターを務めた。


書店の危機訴える

 

 初めに、丸島氏は出版業界の不振について話し、「このままだと本屋が日本から消えてなくなるという危機感をもって、この2人は業界を支えるべく動いている」と紹介。


 書店の現状について角川氏は、親しい書店も閉店していると話し、9月に他界した文芸評論家・福田和也氏の紹介で、前経済産業大臣の齋藤健氏と20年ほど前に出会ったエピソードを話した。齋藤氏は、経済産業省の「書店振興プロジェクトチーム」の発足をはじめ、自民党の「街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟」の幹事長も務めていたが、丸島氏は、角川氏が政治家に働きかけていたことやトーハンの近藤会長、今村氏の協力があったことも紹介した。


 今村氏は、日本中のさまざまな事業が経営に苦しむなか、書店が国のサポートを受けることについてはいろいろな意見もあるとしたうえで、「出版業界が食べられるために」とか、「書店が生き残るために」ということではなく、書店や本の存在が「いかに未来の若者や子どもたちにとってプラスになるか」という切実な思いを語った。


 「無書店地域は、行政区でいうと25%を超え、本屋のない市区町村がたくさんある」と今村氏は訴える。23年に自身が佐賀駅構内に書店を出した際、年配の客が喜ぶと想定していたが、実際はクレジットカードを持たない「小中高校生などの子どもたちが喜んでくれている」という実感も語った。


 書店への支援が必要と考える一方で、「街の本屋の定義があいまい」だと言う。街の小さな書店が一見経営難に見えても、実はその経営者が土地をたくさん持っている場合もある。一方で、大手チェーンが運営していても、人口の少ない地方では経営が苦しい場合もあると説明した。


 丸島氏は、「20~30年ほど前、書店は約2万4000軒あり、約130万坪の売り場があった」と言われていたが、「今は8000~9000軒、売り場面積は約30万坪に減少した」と言われているとし、コンビニの売り場面積が減少し、キオスクなどの駅売店も減って本とのタッチポイントが少なくなっていると説明した。

 

石破氏との面会は「必然」
  

 角川氏は、書店の負担としてキャッシュレス手数料について言及。都市部では客の7割がキャッシュレスを利用しており、書店の利益を考えると、手数料が大きな負担になっていると話した。また、書店を救うための取り組みは経産省だけでしていても無理であるとし、フランスや韓国のように国全体で書店を守る活動をしなければならないと訴えた。


 齋藤氏が経産省の大臣だった際、書店の問題を国として取り上げる課題に入れていたが、それを「どう実行するかが問題」で、さまざまな問題点を変革しなければ、書店はあと5年ぐらいでなくなるのではないかとも危惧した。


 角川氏は、国を動かすには総理大臣と話す必要があると考えていた折、9月の総裁選に立候補する前の5月に石破茂氏に初めて会う機会があり、その後7月、8月と2回会って話をしたとし、「世の中に偶然はない。すべて必然だ」との考えを述べ、石破現総理大臣とは会うべくして会ったと強調した。


 今村氏は、自身も経産省、文部科学省、文化庁などに呼ばれる機会が増え、政治家とのやりとりはあるとしつつ、「僕自身は大衆、民衆寄り」であると話す。出版業界について、「こんなに苦しいにもかかわらず、こんなにもファンが多い業界を知らない」と言い、ファンのみんなに「できれば声を上げてほしい」と訴え、「読者の人たちも含めて、大きな潮流を作るべきだ」と訴えた。


 「一滴の流れがいつか大河になるように一人の活動がいつか大きなムーブメントになる」とし、〝千早・赤坂の戦い〟になぞらえて、「最前線に角川社長がいる間に、ひたすら籠城して闘う人間がいるということを訴えたい」とした。


 それを受けて丸島氏は、今年6月、政府が「骨太の方針に『書店活性化』を盛り込んだが、これは画期的なこと」と話し、「政府が動いた」と説明した。


 書店を経営する今村氏は、苦労について問われると、「まず、〝いっせえのせ〟で電子マネーをやめません(笑)?」と提案。佐賀の書店については〝駅ナカ〟にあるため、交通系ICカードの利用率が高く、さらに施設専用のポイントカードも付与するため、「手数料が二重で吸われる」と苦悶の表情を浮かべた。外資系のクレジットカードは手数料が4%も引かれることがあり、「書店側の手数料負担を下げるか、書店専用の電子マネーを作り、ほかの電子決済等は受け付けないようにするなどの対応をしないと厳しい」と切実な思いを訴えた。

 

生涯、出版人を貫く

 

 書店や出版業界のため、なぜそんなに熱心に活動するのかを最近よく聞かれるという今村氏は「単純にこの業界が好きなんだと思う」とし、「角川社長と同じ」とも話す。厳しいと感じつつも、現場の書店員を見るとみんな「(心の中で)ファイティングポーズをしているし、希望しかない」と笑顔で話した。


 角川氏は82歳の今も一年で360冊の本を読み、「人との出会い、本との出会い、新しい出会いは自分から求めていかないと学ぶことはない」とし、「本を売ることが好き。編集者は本を作ることが仕事と思っているが、本を売ることが好きじゃないと意味がない」と強調した。


 今村氏も「売れてこそ作家だと思う。僕は大衆とともに生きようと思っている」とし、「社長は、いち出版人のまま社長になった人」と称えた。


 角川氏は、「自分が老害にならない限り、書店を盛り上げる仕事を『最後の仕事』として、死ぬまで現役でいたい」と結んだ。


 トーク終了後は、2人の著書販売コーナーを熱心に覗き込む観客たちの熱気であふれていた。

 

あいさつをする近藤会長(左)と角川氏、今村氏