ミステリ、SF、海外文学、ノンフィクションで知られる老舗出版社の早川書房が今年7月23日に立ち上げたコミックサイト「ハヤコミ」では、コミチのマンガSaaS「コミチ+」を導入している。創業79周年の早川書房にとって“コミックレーベル”の立ち上げは長年の悲願だったとハヤコミ編集長の吉田智宏氏は思いを語る。
早川書房のブランドを生かし、コミカライズのラインナップはミステリの名作『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティー)やSF小説の金字塔『ソラリス』(スタニスワフ・レム)のほか、2022年に本屋大賞を受賞した話題作『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)などのコミカライズ作品で連載がスタートした。
老舗出版社のコミック参入は朝日新聞や月刊誌『ダ・ヴィンチ』の出版ニュースクリップでも取り上げられ、出版業界の内外を問わず注目を集めた。
「ハヤコミ」は部署を横断した全社的な取り組みで、事業の中核を担う吉田氏も書籍編集部を兼任している。「私は編集管理とハヤコミの運営を担当し、もう一人が主に海外版権の交渉や原作者との確認を行っています。国内書籍についても、原作小説の担当編集者がコミカライズにも深く関わることで、より解像度の高い作品を生み出せています」と話す。
コミックサイトで「コミチ+」を導入した効果について吉田氏は「共通のログインボーナスが入る機能が、コミック後発の出版社にとってはありがたい。たとえば白泉社など、既に有名なコミック出版社のマンガ読者がボーナスポイントで『ハヤコミ』に流入してきます。ユーザーの集客と送客が他社とできる点が大きな強みです」と強調する。
「コミチ+」を導入している「チャンピオンクロス」(秋田書店)、「ヤングアニマルWeb」(白泉社)、「ライコミ」(マイクロマガジン社)など17メディアと共通のIDを使用できる。大小を問わず、多くのコミック出版社で導入されているマンガSaaSならではのメリットが、コミックレーベル後発である同社サイトのスタートダッシュを後押ししている。
また、Web展開をメインとする電子レーベルは、紙のマンガ雑誌よりもコストを低く抑えられる。紙代・印刷費・輸送費などがかかる紙の雑誌では収益化までの道のりが厳しくなる。既にマンガ週刊誌など雑誌を発行している大手・中堅のコミック出版社ではなく、書籍を主体としてきた出版社がコミックレーベルを立ち上げる際、Web上でマンガ作品を展開できるマンガSaaSは、必要不可欠なプラットフォームになっている。