河出書房新社は2024年11月13日、第61回文藝賞贈呈式を東京都内で開催した。受賞作には待川匙氏の『光のそこで白くねむる』、松田いりの氏の『ハイパーたいくつ』の2作が選ばれ、河出書房新社の小野寺優代表取締役社長から受賞者の2人へ賞状と正賞の記念品、副賞が贈られた。
選考委員の小川哲氏、角田光代氏、町田康氏の3人が講評を述べた(村田沙耶香氏は欠席)。今回初めて選考委員を務めた小川氏は「選考委員の間で評価が一致し、すんなり決定した」と明かし、「自分が誕生に立ち会った作家がどんどん面白い作品を書くのが、選考委員としてはうれしい」とし、今後の活躍を願った。
角田氏は松田氏について「類まれなる素質」と称賛し、待川氏について「不気味だが、非常に美しい世界を立ち上げたと」と称えた。「2人のデビューに関わることができて私は非常に幸せ」とし、「文芸の世界にとってもこの2人が登場したことは幸福なことだと思う」と述べた。
町田氏は待川氏について「記憶と場所を巡る小説で場所が魅力的。これからも読むのが楽しみ」と評価。松田氏について「言葉の力で気持ちのすっぽんぽんを表した」と独特の表現で称え、「これからさらにえげつないことをやってほしい」と2人にエールを贈った。
受賞者の待川氏は関係者への謝辞を述べたあと、自分にとっての小説への思いを語った。「文学は人類にとって火のようなもの」とし、最近は「火を人に投げつけたり火あぶりにするために使われることも多い」が、「たき火のように眺めていて楽しく、ただそこにある良さについて書いていきたい」と表現した。
松田氏は待川氏のあいさつを受けて、「自分にとって小説とは何であるかということについて、自分なりに嘘のない言葉をいまだ持っていない」とユーモアを交えながら話して会場の笑いを誘った。嘘のない唯一の言葉として「これから面白い小説を書くために頑張りたいと思う」と締めくくり、喝采された。
応募総数は2111点。応募者の最年長は89歳、最年少は14歳だった。受賞2作品は11月18日に単行本として河出書房新社から発売された。