輪島塗復興 人材養成施設を開設へ 読売新聞社・北國新聞社が協力

2025年1月10日

 能登半島地震で大きな打撃を受けた輪島塗の復興に向け、石川県は担い手となる若手人材の育成プロジェクトに着手する。地震で多くの工房が火災焼失や倒壊などの被害に遭い「消滅の危機」に陥った伝統工芸の復興を支援していこうと、読売新聞社と北國新聞社が協力体制を作り、県や輪島市、経済産業省、日本政策投資銀行などに働きかけてワーキングチームを結成、昨年5月から協議を続けてきた。

 

 

 輪島市には職人を抱えて漆器を制作販売する事業者(塗師屋)らで作る輪島漆器商工業協同組合と、人間国宝の技術を承継し漆芸作家を育てる県立輪島漆芸技術研修所がある。職人は経産省、作家は文化庁など行政の所管も縦割りで支援がしにくい状況にあった。ワーキングチームでは、職人と作家を分け隔てせず、将来の輪島塗を担う「若手人材」の育成をコンセプトに、養成施設の開設を目指すこととした。

 

 養成施設は、同研修所や県輪島漆芸美術館、同組合の精漆工場など輪島塗関連施設が集まる地区に開設する。国内外から輪島塗を担う若い人材を集めて職人の専門技術を習得させるほか、同研修所の卒業生も受け入れ、海外市場も視野に入れた商品開発やマーケティングなどの講義も行って、輪島塗を海外に展開していく足がかりにしていく。

 

 施設は、生徒が自主制作した作品の展示や制作活動の見学、工芸体験ができるワークショップの開催なども出来る場として、観光資源としても活用。「漆芸の聖地」として国内外から人を呼び込むエリアとし、輪島復興に役立てる。生徒の活動の場を広げるため、地元のキリコ祭りや全国の祭りで使われている漆塗りの神輿(みこし)の修復作業を受託することも検討している。

 

 また、輪島で安心して技術を習得できるよう住まいも用意し、養成期間を終えた生徒の雇用を保証するため、卒業生を雇った事業者に3年間、奨励金を交付するなど、若手人材の定着を促していく方針だ。

 

 県は25年度に基本構想策定委員会を設けて計画を具体化した後、養成施設や寄宿舎などの整備に着手、27年度の開設を目指す。

 

 読売新聞社は、伝統文化振興プロジェクト「Action!伝統文化」の一環として、昨年9月に日本政策投資銀行などと輪島塗関係者を招いた工芸シンポジウムを開催したり、同11月には中部経済産業局と共催して金沢市で開催した「職手継祭(してつさい)」で輪島塗の職人や漆芸家のトークセッションを開催したりするなど、輪島塗支援に取り組んできた。

 

 北國新聞社は、震災からの復興に向けて、石川県や北國フィナンシャルホールディングス、北陸電力、金沢大、金沢学院大で構成する「産学官石川復興プロジェクト会議」を主導し、輪島塗支援のほか能登駅伝の復活など多彩な取り組みを進めている。

 

 1月6日、輪島塗復興に向けたプロジェクトを正式発表した馳浩・石川県知事は、こうしたプロジェクトで全国紙の読売新聞社と地元紙の北國新聞社が手を組むことは異例なこととした上で、「読売新聞社に感謝申し上げる。山口寿一・読売新聞グループ本社社長の『我が国の能登の伝統工芸を絶やしてはならない』という強い思いがあり、地元の北國新聞社とその方向性で合意に至り、準備を進めてきた。斎藤健・前経産相をはじめ経産省の皆さんにも大変なバックアップをいただいた」と謝意を表明。輪島塗復興に加え、震災で崩壊した珠洲市の見附島のバーチャル復元などに協力する北國新聞社に対しても「深く感謝申し上げる」と述べた。