第172回芥川賞に安堂ホセさん、鈴木結生さん 直木賞に伊与原新さん

2025年1月16日

 

左から伊予原さん、鈴木さん、安堂さん

 

 日本文学振興会主催の第172回芥川龍之介賞と直木三十五賞の選考委員会が1月15日、東京都内で開かれ、芥川賞は安堂ホセさんの『DTOPIA(デートピア)』と鈴木結生(ゆうい)さんの『ゲーテはすべてを言った』の2作品が、直木賞は伊与原新さんの『藍を継ぐ海』がそれぞれ選ばれた。決定後に開かれた記者会見で、選考委員の講評に続き、各氏が受賞の喜びを語った。

 

安堂さん

 

 安堂さんの『DTOPIA(デートピア)』は、河出書房新社の「文藝」2024年秋季号に掲載、同年11月1日に同社から単行本が刊行された。著者第3作目で、過去2作(『ジャクソンひとり』『迷彩色の男』)も芥川賞候補入りしている。

 

 受賞作は「テーマがてんこ盛りの過剰さ」が高く評価された。安堂さんは会見で、「小説は意外と何を入れても壊れないことが分かった。今後の可能性が広がった」と語った。

 

鈴木さん

 

 鈴木さんの『ゲーテはすべてを言った』は、朝日新聞出版の「小説トリッパー」2024年秋季号に掲載され、1月15日に同社から単行本が刊行された。2001年生まれ、福島県出身で現在は福岡県内の大学に通っている。初候補での受賞。

 

 鈴木さんは「小学生のころ、芥川賞受賞後の記者会見のシュミレーションをしたことがあったが、想像をはるかに超える華々しい場所に来た」と喜んだ。また、「まだ未完成な物語がたくさんあるので、一つ一つ完成させていきたい。今回の作品も単行本が出たばかりなので、たくさんの人に手に取ってもらいたい」と話した。

 

伊予原さん

 

 伊与原さんの『藍を継ぐ海』は24年9月26日に新潮社から刊行された。1972年生まれ、神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し、博士課程修了。2010年『お台場アイランドベイビー』(角川書店)で横溝正史ミステリ大賞を受賞。19年『月まで三キロ』(新潮社)で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞している。

 

 伊予原さんは「くすぶっていた地球科学研究者だった自分が、ひょんなことから小説を書き始めて、気がつけばこんなところまで来てしまった」との思いを語った。作家生活も15年で研究者の時よりも長くなっていることを聞かれ、「本を出してもなかなか注目されず、もう無理かと思ったこともあったが、あきらめずに書き続けてきてよかった」と振り返った。

 

 これまでも科学が人に与える驚きと希望を描き続けてきた伊予原さんは、「科学を前面に出してアピールすると躊躇する読者もいるかと思っていたが、今は科学を扱った小説だけど面白いから読んでみてと言いたい。科学はちょっとと思っている人にこそ読んでもらいたい」と呼びかけた。