紀伊國屋書店 「キノベス!」など4賞合同贈賞式開催

2025年2月25日

 

登壇した受賞者と紀伊國屋書店の皆さん

 

 紀伊國屋書店は2月17日、第12回「紀伊國屋書店ベストセラー大賞」 「キノベス!2025」「キノベス!キッズ2025」「紀伊國屋じんぶん大賞2025」の4賞合同贈賞式を東京・新宿区の紀伊國屋ホールで開催した。各賞に選ばれた書籍の著者らに、紀伊國屋書店の高井昌史会長らからトロフィーなどが贈られた。

 

高井会長

 

 冒頭、高井会長があいさつ。「この4賞はいずれも、書店でしか体験できない書籍と読者の出会いや、わくわくする楽しい書店空間をお客様と作りたいという願いを込めて創設した。これらの賞をきっかけに本と読者の新たな出会いが生まれることを願っている」と強調。

 

 また、「当社は今年で創業98周年を迎えた。昨年には、80年の歴史を持つ旭屋書店および東京旭屋書店を完全子会社化した。紀伊國屋書店が持つ経営資源やサービス基盤を生かすことで、利用者の皆様へ新たな価値を提供し、これまで以上に地域の文化的な発展に貢献することを目指している」と説明。

 

 その上で、「さらに今後も伝統を継承しながら、これからも本を売ることにこだわっていく。創業100周年に向け、これからも世界に誇れる書店を目指して努力していく」と訴えた。

 

飛鳥新社の杉山氏

 

 「紀伊國屋書店ベストセラー大賞」は、同社のPubLine(パブライン)データを利用して、全国70店舗・営業部門・海外店舗・ウェブストアで24年1月から12月までの売上額をはじめとして、紀伊國屋書店に貢献した著者と出版社を表彰している。今回の出版社部門は、小説『変な家』を刊行した飛鳥新社が、著者部門はその著者の雨穴(うけつ)さんがそれぞれ選ばれた。

 

 贈賞式で、飛鳥新社の土井尚久社長に高井会長からトロフィーが手渡された。また、ユーチューバーで「覆面作家」として活動し、著書の『変な家』と『変な家2』が累計256万部を突破している雨穴さんは、ビデオレターで出演。代わりに同社編集担当の杉山茂勲氏が贈賞された。

 

 あいさつした杉山氏は「社員数が30人ほどで、営業担当も4人しかいない当社が、こんな大きな賞を受賞して正直おののいている」と吐露。「『変な家』は書店員の熱量でベストセラーにしてもらった。紀伊國屋書店の皆さんにも、各店舗で大きな展開をして、ここまで売り伸ばしていただき感謝している」と語った。

 

著者の押尾さん

 

 今回で15回目を迎えた「紀伊國屋じんぶん大賞」は、一般読者からのアンケート結果と社内選考委員からの投票をもとに、24年に刊行された人文書の中からベスト30を選定。大賞には『非美学──ジル・ドゥルーズの言葉と物』(河出書房新社)が選ばれ、著者の押尾匠さんが表彰された。

 

 押尾さんは、「この本が出てから半年以上経つが、『あの本は何だったのだろう』と毎日のように考えている。そして、読者から多くの感想をいただき、『あの本はこういうことだったのか』と、まるで人ごとのように、新しいことに気づかされる日々が続いている」と話した。

 

(左から)江口さん、藤原さん、かわさきさん

 

 22年にスタートした「キノベス!キッズ」は、過去1年間に出版された新刊児童書・絵本を対象に、16人の選考委員が紀伊國屋書店で働く全スタッフから公募した推薦コメントを熟読し、ベスト10を選ぶ企画。

 

 今回の第1位には『クジラがしんだら』(童心社/文・江口絵理さん、絵・かわさきしゅんいちさん、監修・藤原義弘さん)が選ばれた。贈賞式で江口さんは、「過去2年の受賞作品と比べると、『クジラがしんだら』はまだ小粒な絵本。でも、これからこの絵本を一緒に育てていこうという思いを感じて、ありがたく思っている」と喜んだ。 

 

著者の朝井さん

 

 「キノベス!」は、過去1年間に出版された新刊を対象に、紀伊國屋書店で働く全スタッフから公募した推薦コメントをもとに、選考委員会の投票でベスト30を決めている。22回目の今回は第1位に朝井リョウさんの『生殖記』(小学館)が、第2位に間宮改衣さんの『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)が、第3位に野﨑まどさんの『小説』(講談社)が選ばれた。

 

 第1位の朝井さんがあいさつし、「今回受賞した作品は、これまで自分の中で考えていた小説の〝土台〟の形を見直そうと考えた。これまで自分の中に勝手に作り上げていた小説のルールを、どんどん破っていくような作業だった」と明かした。

 

 その上で、「そんな作品に読者や書店員がついてきてくれるのか、完成が近づくたびに怖くなった。しかし、3年前に出した『正欲』も刊行前は不安だったが、多くの書店員が支持してくれて、大きく展開してくれた。その時の書店員の皆さんの姿を励みに、『生殖記』も作り上げることができた。そんな小説で第1位を取れたことが本当にうれしい」と語った。