私はいわゆるグルメとは真反対の、野菜や豆腐を薄味で煮ただけとかそういう粗食の類を好む。そのルーツは、家事を担ってくれていた同居の祖母の料理にあるのかもしれない。食卓に並ぶものはカボチャや野菜を薄味で煮たもの、だとか野菜を切っただけのもの、とかの、華やかさもレパートリーにもおそらく欠けるものであった。そのようなシンプルであっさりした味わいの食べ物をいただきながら、大きくなった。 もうじきに、生まれた町で過ごす時間よりも京都に住まう時間のほうが長くなるので、京都の食べ物について書いてみよう。京料理が無形文化遺産に登録されたのは令和4年のこと。それ以前から京都の小学校の給食では、和献立といって、カツオ出汁のおすましだったり、魚料理と漬物だったりの和食が毎月出されており、それで我が子はカツオ出汁に目覚めた。しばしば「鰹節から出汁をとって」とせがまれるが、たまにしかできない。ふだんの食生活でカツオから出汁をとる京都人は一部だろう。「白だし」は本当に便利です。 私は関東出身なので京都に来たとき、食べ物で「???」と思ったことは多かった。たとえば、「かしわ」。鶏肉のことだとわかるまでに、時間がかかった。「ひろうす」も謎であった。漢字で「飛竜頭(ひりゅうず)」とも。そのいかつい名前とは裏腹に、見た目はガンモドキそのものではないか。お前はガンモドキではないの?と心でつぶやき、いまだに「ひろうす」と呼んであげられない自分がいる。 あとはネギ。今は関東にも九条ネギなど青い葉の部分が多くを占める青ネギがスーパーに並んでいるが、私が子供のころは違った。ネギといえば白ネギで、葉の部分は落とすよう教わった。だからこちらに来てから、やけに葉が多いなあ…と落としていたら、食べるところがなくなってしまったことがあってガッカリしたが、思えば大変もったいないことをしてしまった。会社の事務所がある場所は、京野菜の産地なので、夏はトマト、ナス、冬は青ネギと野菜はたいへんおいしい。甘く完熟した賀茂トマトはことのほかフルーティーで食べるとほかのトマトが食べられなくなる。 そして、これは大徳寺の近くに来られる人にはぜひ立ち寄ってほしい、「京豆腐 小川」さん。昔ながらのお豆腐屋さんに並ぶ「吉野豆腐」これは絶品、全人類に食べてほしいおいしさです。 「吉野豆腐」とは、吉野葛で寄せたお豆腐で、これに付けていただく黒蜜をかけると、絶品。もっちりした食感、淡白な旨味、そこに黒蜜のさわやかな甘さのハーモニー。上質なスイーツです。ほかにも白豆腐は、キメが細かく、すっきりした味わい。 野菜をつくってくださる農家さん、冷たい水と格闘しながらお豆腐を作ってくださるお豆腐屋さん、頭が下がります。私の仕事は本づくりですが、このようなおいしいものを作ってくださる担い手の方々に感謝しながら、毎日仕事をしています。(株式会社実生社代表 46歳)
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中央が越道さん