双葉社 10代向けライト文芸レーベル「パステルNOVEL」を創刊

2025年3月4日

告知用のA3ポスター

 

ティーン市場への戦略的参入

 

 双葉社は3月10日搬入の『君がくれた七日間の余命カレンダー』(いぬじゅん)、『世界の片隅で、そっと恋が息をする』(丸井とまと)の刊行を皮切りに、10代向けのライト文芸文庫レーベル「パステルNOVEL」を創刊する。新刊刊行のサイクルは毎月1~2点予定で、初版部数のベースラインを1万部以上としている。

 

 これまで『告白』『君の膵臓をたべたい』『夜に駆ける YOASOBI小説集』などのヒット作を刊行してきた同社では、雑誌や他事業から派生した書籍など、10代向けの書籍を多数手がけきたが、いずれも単体での出版企画であった。今回は新レーベルの文庫として体系化し、定期的に刊行することで、より戦略的にティーン市場に参入する意向だ。

 

 また同社は今回の「パステルNOVEL」で、悲恋やヒロインの死などを扱った「ブルーライト文芸」と称される文芸ジャンルのほかに、ミステリやホラーといったジャンルにも挑戦していく。10代向けのジャンルが活況ということもあり、マーケティングリサーチにも余念がない。書店店頭での市場調査に加え、実際にモニターとして10代の女子高校生を集め、ライフスタイルや小説や本との接点、SNSの利用状況など、ターゲットにすえる読者層の生の声をヒアリング。それが実現できた背景には、同社が雑誌やWEB媒体をはじめ、ティーン向けメディアを有することなどが大きく影響しているという。

 

一般的な文芸と異なるアプローチ

 

 レーベル立ち上げを担った同社エンターテインメント編集部編集長の坂井健太郎氏は「10代の定期購読者リストや芸能事務所との接点など、当社のリソースを最大限に活用した。文芸もコミックもエンタメ誌も手掛けている当社だからこそ可能な出版形態で、通常の文芸書のアプローチとは大きく異なる。各社が発行点数を増やしていく中で、当社は作り手側の仮説がどこまで正しいのかを精査し、読者ニーズの精度をあげていくための声を直接聞ける素地がある。帯の文言やカバーイラストの方向性など、クリエイティブ初期の段階からモニタリングの結果をフィードバックしている」と話す。 

 

 同じく立ち上げメンバーである同編集部の相良洋一氏は「こちらが“エモい”と思っていたものが、実際には今の10代にとって全く“エモくない”ということがある。顔が見えない不特定多数のアンケートもあるが、それでは本音の潜在的なニーズは引き出しきれない。重視するのは生の声であり、そのときのリアクションや表情」と対面でのモニタリングの重要性を説く。

 

 一方、制作過程における編集者と著者との関係においてもメリットがあるという。坂井氏は「こちらの意思を作品に反映させたいときに、担当編集者個人の意見ではなく、読者のニーズとして著者に強く押し出せる。それが何よりも大きい」と話す。

 

文庫2点を平積みできるレーベル専用の販売台

 

 店頭販売においても毎月2点の新刊を刊行することを想定し、店頭棚に据え付けするための販売台も用意。同社第二営業部の富岡佳子副部長は「ターゲット層の10代はクレジットカード購入ができないため、書店店頭での販売が重要で、価格帯も600円台後半には抑えたい。ティーン向けの本は初速型ではなく、1年前の本が売れるなど、どれだけ長く置いてもらえるかがポイント。書店に来店された方が、ここに来れば『パステルNOVEL』の新刊があるという状態にしたい」と話す。

 

 今後の計画について相良氏は、「表紙デザインや作品のテーマなど、まずはブルーライト文芸として王道の作品を刊行することで、レーベルのブランド確立を図る」としつつも、「独自性のある変化球の作品も出していく。これまで執筆経験のないミュージシャンやアイドル、声優などにも書いてもらうことで、新しい読書体験を提供する」と展望を語る。